単なる端末ではない。サービスの背後にあるすべて。それがジャック・ドーシーCEO(最高経営責任者)の言う、スクエアの魂だ。見た目はコピーさせても、魂をコピーさせるつもりはない。

(写真:Takehiko Tokiwa)

 問 社員に日本の概念「わび・さび」の本を配り、読ませている。

 答 彼らの物のとらえ方にいい影響を与えると信じているからだ。バランスについてよく考えるようになってほしい。

 私なりの理解だが、わび・さびは両極端の対比の中で美しさを見いだすことと、とらえている。暖かさと冷たさ、素朴なものと近代的なもの、居心地の良いものと無機質なもの。面白いのは、2つの対照的なものの間に美学があるということだ。

 人生も同じで、そのバランスの中にあって片方に偏ることはない。その間にあるものを模索することが大切だ。人生は数多くのバランスで成り立っているものであり、会社もまた同じだと考えている。会社組織を作り上げていくうえで、絶妙なバランスを取っていくことが大事になる。

 我々はそのバランスの中でうまくいく方法を見つける。それを誇りに思うし、居心地がいい。

 私が愛しているこの本の中に、こういう一節がある。僧侶が道の落ち葉を掃き、その後に数枚の葉を震えながら戻すというシーンがある。それは秩序の中に、ちょっとした無秩序があるということを意味している。

 プロダクトにおいても、どういうふうに見えるか、どういうふうに機能するのかという考え方からは離れなければならない。何を感じるかという感情や経験に焦点を当てるべきで、そこから見た目や機能に落とし込むべきだと考えている。

 問 ツイッターを生み出し、スクエアを生み出した。共通点は。

 答 ツイッターにしてもスクエアにしても、我々の需要から生まれたものだ。ツイッターは「世界で起きている何か」を私が見たかった。スクエアは共同創業者でガラス職人だったジム・マッケルビーがクレジットカード決済を提供していなかったばかりに、作品を売り損ねたところから生まれた。

 ツイッターもスクエアも、コミュニケーションと顧客体験に焦点を当てているところで哲学が共通している。スクエアは単なる決済サービスを提供するだけの会社じゃない。ツイッターが140文字でコミュニケーションをシンプルにしたように、店舗と顧客のコミュニケーションを単純化するためにスクエアがある。

 スクエアは小さな店舗の皆さんを支援することが最も重要だと考えている。信用面からクレジットカード決済を提供できず、高価な端末も入手できない彼らは、(スマートフォンのような)汎用的な端末であれば使えるようになる。資金も余裕もある大企業は既にクレジットカード決済の契約を結んでいるだろう? 我々は“何も持たざる人”を支援する立場に立つ。

 問 ドーシー氏を米アップルの故スティーブ・ジョブズ氏と重ねて見る人も多い。

 答 私は起業家でもないし、発明家でもない。CEO(最高経営責任者)というだけ。だが、肩書に大した興味はない。

 むしろ日々の生活の中で今後これがしたい、あれがしたいというものを見つけ、その気持ちが高まると具現化し、そのアイデアがうまくいけば他社が追随してくる。ただ、それだけのことだ。自分の気持ちが高まるのは、世界中の人が使えるような普遍的なアイデアを対象としたものが多い。

1から10を育てることも重要

 真の発明というのは、2つの異なる要素がミックスされ、その交わりを理解するところから生まれると思っている。誰かの求める課題を解決した時、それを発明と呼ぶのかもしれない。だが、実現してしまえば、その課題は消え去ってしまう。多くの人がそれに共鳴してくれるが、私はそれを発明とは気づかない。

 0から1を生み出すのと、1を10に育てるのと、どちらが好きかと言われれば、答えは両方だ。もちろん1を10に育て上げるより、0から1を生み出す方がベストであることには間違いない。だが、往々にして1を10に育てる過程で、0から1を生み出す“何か”を見つけることができる。

 会社だって同様だ。スクエアやツイッターのように、0から作り上げることは素晴らしい。だがそれは現状の何かを再考するところからすべてが始まっている。

 問 スクエアが業界に与えたと思うインパクトは。

 答 従来のクレジットカード会社は、加盟店を開拓する時、全体の1割しか利用許可を出さない。だが、我々の場合は申請してきた企業の85%に加盟店の許可を出す。ここが大きな違いだ。

 我々は決済端末に、スマホやタブレットを利用するので、GPS(全地球測位システム)を使って加盟店の位置を把握し、どこにその携帯端末があるのかといった情報などを基に加盟店の不正行為を防ぐ。加盟店の本人確認に関してもテクノロジーを駆使して万全を期している。我々はすべての取引を丸裸にできるテクノロジーを使って不正行為を防ぎ、取引のリスクを最小限にして買い手と売り手の安全性を確保している。

 問 スクエアのコピーとも言える類似のスマホ決済サービスが世界中に広がっている。

 答 多くの人々は我々が提供する「Squareリーダー」こそが決済サービスのすべてだと思っている節がある。だが、それは我々が提供するサービスのほんの一面を見ているに過ぎない。我々が焦点を当てているのは、商取引の現場において、買い手と売り手の間で繰り広げられる活動そのものだ。そして、その領域こそダイナミックだと考えている。

 だから、スクエアの「魂」はソフトウエアやサービスの背後にあるものであり、コピーできるものではない。(Squareリーダーで)クレジットカードを端末上で滑らせるという行為は、単なる最初の呼吸のようなもの。それによって我々が提供する、極めて深い推進力を持つすべてのサービスに触れることになる。

 デザインがあり、ハードウエアがあり、ソフトウエアがあり、セキュリティーがあって、レシートがあって、サインがある。これらすべてを包括するのが魂であり、何か1つが欠けても、それは魂ではない。

日経ビジネス2013年9月9日号 38~39ページより

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