東京から直行できる伊豆諸島の中で最南端に位置する八丈島は、知られざる高齢者の“理想郷”でもある。お年寄りが意欲さえあれば漏れなく、軽労働で安定した収入を確保できるからだ。

 高齢者の収入源になっているのは、「フェニックス・ロベレニー(通称:ロベ)」という観葉植物の栽培。インドシナ半島が原産という小ぶりなこの椰子の木の葉は冠婚葬祭場の装飾や贈答用花束に使われる。

 八丈島の全国シェアが9割超とほぼ独占状態にあるこのロベの栽培が、高齢者に最適な仕事となる。雨が多く、暑すぎず寒すぎない八丈島では、ロベは苗を植えればほぼ自然に育つため、管理はほかの農産物に比べ極めて簡単。収穫後も、刈り取った葉を束にし、島に点在する集積所に置いておけば、ロベ共撰共販出荷組合が週3回、集めて出荷してくれる。

 あまりに楽すぎて「仕事としてはつまらないと感じる若者が少なくない」(八丈町産業観光課の奥山拓課長)ため、若い世代に仕事を奪われる心配もないという。

 その割に、収入額はバカにならない。東京島しょ農業協同組合の菊池勝男・組合長は「夫婦で年収400万~500万円程度を稼ぐケースが多い」と話す。島では50~60代になってからロベ栽培を始めた人も多く、70~80代の“現役”も数知れない。そこには、島外者による定年後の高齢Iターン者も含まれる。

島出身の村山真理子さんは夫の道雄さんを連れてUターン。夫婦でロべを育てる(写真:都築 雅人)

 60代の村山真理子さんと道雄さん夫婦は独自の品質改良にいそしみ、農林水産大臣賞を受賞してきたベテランだ。10年近く前にUターンした島出身の真理子さんは両親が営んでいた約2000坪のロベ畑を継承した。今の世帯収入は道雄さんが定年後に東京で市役所の嘱託職員だった時よりも増えたという。

 農作業に慣れていない高齢者がロベ栽培を始めても、それをサポートする仕組みもある。地元の農事組合法人、大興園(菊池國仁・組合長)が提供している苗の販売・植えつけサービスがそれ。1本150円の苗に50円を足すことで、植えつけまでやってくれる。

 厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所によると、日本における65歳以上の高齢者が総人口に占める割合は現在、約25%。これが40年後には4割に近づく見込みだ。

 多くの高齢者が年金以外に安定した収入を確保できれば、主な高齢化問題は解決の糸口がつかめる。年を取っても仕事を持つことは健康維持にもつながり、医療費の削減も期待できる。

 負担が軽く安定収入をもたらす高齢者向けの仕事を創造すること。それこそが最も効果的な高齢化対策であることを南の島の“理想郷”は示している。

日経ビジネス2013年9月9日号 49ページより

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