多くの企業が今春から、女性管理職の“大量生産”に乗り出している。政府が掲げた数値目標を受け、女性管理職比率を一気に高めようとしているためだ。労働力の減少が進む日本にとって「女性役員」「女性管理職」の育成は避けては通れない課題。だが、女性を取り巻く様々な社会環境の整備を待たずしての“女性昇進バブル”は、企業活動の現場に様々な混乱をもたらし始めている。安倍晋三首相が「経済成長の切り札」と位置づける女性活用。その現実を取材した。

(日野 なおみ、染原 睦美、武田 安恵)


 「20・30(ニーゼロ、サンゼロ)」。このキーワードに今、日本中の人事部が慌てふためいている。

 「20・30」とは、2020年までに指導的地位に占める女性の比率を30%まで増やす、という安倍晋三政権の方針を一言で示したものだ。「日本経済の成長には女性の力が不可欠」とする安倍首相が掲げた数値目標で、その第1段階として「役員に1人以上、女性を登用すること」を全上場企業に要請。来年度から企業別の女性登用状況を公表することも明らかにした。

 ただでさえ約10%と欧米(30~40%)に比べ著しく低い日本の女性管理職比率。降ってわいた「20・30」騒ぎに多くの人事担当者が頭を抱えたのは想像に難くない。だが、企業トップの動きは速かった。

 伊藤忠商事が大手商社で初めて女性執行役員を起用したのを皮切りに、東京電力も、難航する新料金体系導入の責任者に女性執行役員を抜擢。ほかにもソニー、日本航空、住友化学などが相次いで社内の女性管理職を役員に引き上げ、パナソニックでは初の女性社外取締役が選任された。

 “大量生産”されているのは、女性役員ばかりではない。

 「2020年には管理職の半分を女性にする」。こんな大胆な人事戦略を打ち出したのはイオンの岡田元也社長。日産自動車や三菱東京UFJ銀行、日立製作所やりそなホールディングスなども、堰を切ったように女性管理職の数値目標の公表に踏み切っている。

注:各企業の女性管理職に関する数値目標を抜粋。管理職の定義は企業によって異なる(写真:(C)MITSURU YAMAGUCHI/orion/amanaimages)

 労働力の減少が進む日本にとって、女性の社会進出が、競争力を維持する重要なカギとなるのは間違いない。女性の就労率が男性と同水準の80%まで増えれば、日本のGDP(国内総生産)が14%伸びるとの試算もある。盛り上がりを見せる女性活用。それは確かに、日本の未来をバラ色に変える潜在力を秘めている。

 だが、本当にそううまくいくのか。

 現場の戸惑いをよそに、職場に降臨し始めた「女性役員」「女性管理職」。日本経済の救世主としての使命を帯びる彼女たちの現実を、まずはご覧あれ。


CONTENTS

想定外の混乱続出
女で地獄と化す職場
女性部下イジメ地獄/男性差別地獄/ロールモデル地獄/制度ぶら下がり地獄

メディア提言「活用術」は効果なし!?
30年変わらぬ現実

先進企業の試行錯誤
女性活用に王道なし

新説
TPPが女を救う

日経ビジネス2013年8月26日号 26~27ページより目次