「社内に託児所を作ってほしい」。先日、女性社員からこんな要望を受けた。会社に託児所があれば子供と出勤し、昼食を一緒に取ることができる。子供が目の届く場所にいれば、安心して仕事に専念できるわけだ。

 私は現在、約150人のスタッフを雇用しており、約8割が女性である。子育て中だったり、これから結婚や出産を迎える人も多い。彼女たちが子育て中も働きやすくなり、退職することが減るなら託児所を作る意義は大きい。必ず実現させようと、準備を始めている。

 安倍政権が打ち出した成長戦略の中にも、女性活用が盛り込まれた。それに関する大きなヒントが、実は農家に隠されている。そもそも農家は、古くから夫婦共働きが基本。妻が子育てに専念しなくても、一緒に暮らす祖父母が孫の面倒を見る。農家の多くが大家族で構成されており、互いに助け合う。これが男女両方にとって合理的な働き方を実現させてきた。

 戦後、日本は高度経済成長を通して核家族化が進んだ。夫が企業に勤め、妻が家庭を守るスタイルが定着した。だが今、核家族化は限界に達している。

 年功序列や終身雇用は崩壊し、雇用の流動性が高まっている。その中で夫だけが家計を担うリスクは高い。否応なく、夫婦は共に働かざるを得なくなる。一方で、働き方の多様化や待機児童の解消は、今なお解決の途上にある。

米国で始まった「家族的経営」

新時代の「大家族」像の構築が、企業を救うヒントに(写真:アフロ)

 女性の社会進出を促進するためにも、農家のような「大家族」を見直すべきではないか。大家族のメリットは大きい。例えば父親だけで家計を担うよりも、祖父母や夫婦が分割して収入を稼ぐ方が解雇や病気による休職などのリスクを吸収しやすい。同時に大家族は消費を活性化させる。家族の構成人数が多くなれば祝いごとが増え、消費の機会も増す。構成人数が多いので一度に消費する金額も大きい。経済的なリスクが低くなる分、3世代で暮らす家庭の方が子供に割く教育費は多い、というデータもある。

 何も、女性が家に縛りつけられる、昔ながらの大家族に戻れと言うのではない。女性の社会進出を支える新たな大家族の姿を模索すべきだと思う。

 大家族は、企業にとっても重要なキーワードになりつつある。今春、米国の食品スーパーを視察して、それを痛感した。10年前に渡米した時、人気を集めていたのはオーガニックを売りにした高級スーパーと、ウォルマートなどのグローバルチェーンだった。しかし今は、新たなコンセプトが広まっている。地元の商品を、地元のスタッフが地域住民に売るスタイルだ。「ローカル」というコンセプトを掲げ、家族的なつながりを基盤とする経営を売りにしていた。上場せず、株式は社員が持つ。「人が財産」とうたい、利益よりも社員の満足度を高めようとする。地元住民を優先的に雇うため、社員は積極的に地域活動に参加する。まるで社員を家族のように扱う経営方針が、消費者にも受けていた。

 振り返れば日本は戦後、欧米のグローバル企業を模倣し、対等に戦う力を培ってきた。その日本経済は成熟期に入り、核家族化が限界を迎え、企業も経営方針の転換を余儀なくされる。生き残る1つの方策として、米国では家族的な経営が見直されつつある。

 たとえ組織の構成メンバーが出産や育児、病気などで一時的に働けなくなっても、互いに支え合いサポートする。大家族という考え方を見直すことこそ、個人や企業が厳しい時代を生き抜くための処方箋ではないだろうか。

澤浦 彰治(さわうら・しょうじ)氏
1964年群馬県昭和村生まれ。高校卒業後、家業の農家を継ぐ。92年に有機野菜生産グループを立ち上げるなど、早くから大規模栽培に取り組んできた。

日経ビジネス2013年7月22日号 96ページより目次