日本航空(JAL)は来春にもパイロットの養成を約4年ぶりに再開する。経営破綻後、志半ばで地上職などに異動した113人が再び空に挑む。必要な技能や適性をデータベースで「見える化」し、養成過程の外部委託にも踏み切る。

(注:国際線輸送力は2012年3月期を100として指数化、一部本誌推計を含む)

 日本航空(JAL)が経営再建の過程で取りやめていた運航乗務員(パイロット)の養成を2014年4月にも再開することが、本誌の取材で明らかになった。2012年9月に株式を再上場してから約1年が経過し、経営の舵を「再建」から「成長」に切る。パイロットの安定的な確保で国際線事業に弾みをつける。

 JALがパイロットの養成を再開するのは約4年ぶり。グループ全体で現在約2350人の機長・副操縦士がいるが、2010年1月の経営破綻を受け、若手社員113人がパイロット候補として入社しながらも営業などの地上職に職種転換となった。まず、この113人に再びパイロットへの道を開く。

 養成過程の一部は海外のパイロット訓練専門会社に委託する方針。既に米国、オーストラリアなどの複数の企業と最終的な交渉を進めているもようだ。従来の自前主義から脱却し、養成の費用や期間を削減・短縮する狙い。JALは経営破綻後、米カリフォルニア州ナパにあった自社パイロットの養成施設を閉鎖した。現在は羽田空港近くのシミュレーター施設が中心になっている。海外に一部の養成課程を委託するが、カリキュラムはJALが作成する。

 パイロットを効率的に養成するうえで、追い風となるのが2011年の航空法改正だ。国際標準の新しい資格「MPL=マルチクルー・パイロット・ライセンス」が創設された。

 MPLは2人乗りの機体限定の資格。従来の必修だった1人乗りの小型機訓練を大幅に短縮し、実践さながらのシミュレーターを使って早い段階から営業運航に必要な技能を磨いていく。

 入社してから副操縦士になるまで2年程度と、従来の資格よりも約半分に短縮できる。その分、1人平均1億円ほどかかっていた養成費用も削減できる。国際民間航空機関(ICAO)では2006年に承認され、ルフトハンザ・ドイツ航空などが先行導入している。

夏の黄昏時、東京湾アクアラインの「海ほたるPA」付近から羽田空港を目指す。機長席(左)の先には滑走路の誘導灯も見える――。シミュレーターで本番さながらの訓練が続く(写真:竹井 俊晴)

国際線事業を成長のエンジンに

 JALはパイロットに必要な技能や適性などを独自のデータベースに蓄積し、「見える化」にも力を入れる。航空機に乗務する前から着陸後までの動作一つひとつを約1000項目に分け、さらに各項目を安全・確実に成し遂げるための能力を2000近くに分類した。対象は気象条件の判断から、管制官や同乗する客室乗務員とのコミュニケーションまで様々だ。一定のまとまった項目ごとに教官が5段階で評価する。

 評価したデータを蓄積することで訓練と評価のムリ、ムダ、ムラを省ける。2年ほどかかっていた副操縦士から機長に昇格するための養成期間も、1年4カ月程度に短縮できる見込み。

「日本の玄関口」が大きく広がる――首都圏空港の発着枠
(注:いずれも年間ベース。1離陸で1回、1着陸で1回とカウント)

 パイロットの養成を急ぐ背景には、航空業界の厳しい競争環境がある。羽田空港の国際線発着枠は2014年3月末、年9万回と現状から3万回増える。羽田の国際線利用者は現在の約820万人から2014年度には約1270万人に膨らむ見通し。成田空港も順次、発着枠を拡大する。内外の航空会社は千載一遇の商機ととらえ、JALも国際線の輸送力を2017年3月期までの5年間で2割増強する計画。パイロットの安定的な確保と運航技能に磨きをかけることは、航空会社の競争力に直結する。

 航空機の遅延や欠航が減れば経営効率も高まる。航空業界で採算性の目安となるユニットコスト(提供1座席を1km運ぶ費用)は11.5円程度と破綻前に比べ2割改善し、13円強の全日本空輸(ANA)よりも優位に立つ。

 しかしJALが今後、身軽なコスト体質を維持できる保証はどこにもない。成田~ロンドン線を皮切りに機内食と座席を一新するなど設備投資を再開。米ボーイング787型機をはじめ、機材への投資も5年間で5170億円に達するからだ。円安で航空燃料費もかさみ、2014年3月期の連結営業利益は1400億円と前期に比べ28%減る見通し。

 パイロットの平均給与を見るとJALは1548万円(平均44.4歳)、ANAは1934万円(同45.3歳)。JALは経営再建の過程で給与を大幅に下げ、自宅から空港までのハイヤー送迎なども見直してきた。路線・便数が拡大する中、「慢心なき経営」(稲盛和夫・名誉会長)を持続できるかが焦点だ。パイロットの養成再開は、経営課題への対処を見極める試金石になる。

(清水 崇史)

日経ビジネス2013年7月22日号 8~9ページより目次

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