日本自動車部品工業会などが設立した投資ファンドの初案件が決定した。中小部品メーカーの厳しい資金調達環境を、少しでも改善しようという狙いだ。裾野産業のグローバル投資を後押ししなければ、自動車業界のさらなる飛躍はない。

 目下、日本の自動車メーカー各社は飛ぶ鳥を落とす勢いだ。円安や海外での販売好調を受け、各社の業績は急回復している。今のところ、その勢いに死角は見当たらない。

 しかし、部品産業に目を転じると、事情は変わる。日本自動車部品工業会の統計では、2012年度の部品メーカーの平均売上高営業利益率は4.9%。リーマンショック前の6%以上の水準に届かない。それも、一部の大手が全体を底上げしており、営業利益ベースでは減益企業の方が多いのが実態。自動車メーカーからの値下げ要求や海外展開に向けた投資負担が大きくのしかかる。

 特に中小メーカーでは、金融機関からの資金調達が依然として難しいという構造的な問題がある。

 7月10日、苦況の打開を目指すある投資案件が発表された。

 部品工業会と日本政策投資銀行が共同で設立した投資会社の投資ファンドが、三重県鈴鹿市に本社を置く東海トリムホールディングスへの投資を決めた。2011年6月に設立された同ファンド初の案件となる。

 このファンドの目的はもともと、東日本大震災の被害を受けた部品メーカーの救済にあった。しかし、復旧が想定以上に進んだこともあり、対象を部品メーカーの経営支援へと変えた。1つが、グローバル化に必要な資金の「目詰まり」の解決だ。

 東海トリムは、自動車メーカーと直接取引をする1次部品メーカーの下請けに当たる2次メーカー。4輪車や2輪車用のシート向け帆布製品を、ニッパツなどのシート大手に納入している。中国やタイ、ベトナムに工場を持つなど海外展開にも積極的で、ここ数年の業績は堅調だ。

 ただ、「財務面での足かせから海外での増産投資には踏み切りにくかった」(日本政策投資銀行)。第三者割当による優先株発行という形態にしたのも、財務体質を強固にし、機動的な投資をしやすくするためだ。

 ファンドの総額は70億円。今回は数億円規模で、さらに複数の企業向け投資が検討されている模様。その大半が、地方の2次、3次メーカーだ。

アベノミクスが届かない

 自動車メーカーの海外生産の加速に伴い、大手部品メーカーは現地生産を拡充している。2次以下のメーカーにも現地化圧力が強まっている。だが、多くは金融機関などからの融資に頼れず、海外展開に踏み切れない。

 金融機関の中小企業向けの貸し出しは、ピークの1995年末の266兆円から、2012年には171兆円となり、減少が続いている。回収期間が長くリスクも多い海外での設備投資向けは融資の条件が厳しい。

 今回、東海トリムへの投資に共同参画した、企業再生を手がけるJ-STARの原禄郎社長は「金融緩和が進んでも、地方では企業の株主資本増強を担える金融機関は少なく、中堅中小の製造業を支援しきれていない」と話す。

 多くの金融機関は大手企業向けの資金需要には応えても、リスクがある融資には依然として慎重だ。6月に政府が策定した「日本産業再興プラン」には中小企業の海外展開支援が盛り込まれた。アベノミクスで大手企業を中心に業績は回復傾向だが、中小メーカーの資金調達環境を抜本的に見直さないと、ニッポンのモノ作りは思わぬところで足をすくわれる。

(熊野 信一郎)

海渡る「ガラ軽」は中小にもチャンス
(写真:ロイター/アフロ)

 インドネシアで低価格・低燃費車を普及させる「LCGC(ローコスト・グリーンカー)」政策がようやく始まる見通しになった。早ければ今年8~9月にダイハツ工業が同政策の対象車第1号として発売する小型車「アイラ」が、部品業界に新風を吹き込もうとしている。

 上に取り上げてきた、グローバル展開に踏み切れない中小部品メーカーの背中を押すような、新しい調達方式を導入したのだ。

 「大変厳しいコスト要求でした。必死で取りましたよ」。曙ブレーキ・アストラ・インドネシアの高橋正基社長はアイラの商談をこう振り返る。前後輪のブレーキで採用されたが、ダイハツが同国で生産するMPV(多目的車)「セニア」と比べ、受注単価は2割強下がったもよう。アイラで何が変わったのか。

 「東南アジア版『ミライース』」。ダイハツの辰巳隆英・調達本部長はアイラをこう呼ぶ。ミライースとは、同社が2011年9月に日本で発売した軽自動車だ。部品調達の大幅な改革によって、79万8000円からという低価格を実現した。アイラはミライースの設計ノウハウや部品調達改革の手法をインドネシアに持ち込んだクルマなのだ。

 辰巳本部長が掲げるアイラの調達ポイントはこうだ。まずは部品メーカーの“縄張り”の排除。従来の取引先にとらわれず、中小やアジア企業も含めて新しい部品メーカーにも門戸を開いた。部品単価も既存車種を参考にせず、原価構造を一つひとつ見直して弾いた。

 そして、部品メーカーに対する一定期間ごとの値下げ要求の撤廃だ。これは、日系自動車メーカーの慣習だった。その代わり、「競争力がなくなればモデル途中でも部品メーカーを変える」(辰巳本部長)。同社は今後、全世界でこの方針を導入する。

 曙ブレーキ・アストラ・インドネシアは韓国系などとのコンペを何とか勝ち抜いたが、トヨタ自動車系のある樹脂部品大手は外れた。その部品を受注したのは売上規模で10分の1以下の日系メーカーだったという。

 実績や信用力があるからといって安泰とは言えない。逆に中小で知名度は低くても、現地で大手に勝る実力を発揮できれば、食い込める競争環境に変わってきつつあるのだ。

 ダイハツのインドネシアでの生産台数シェア(トヨタへの供給分を含む)は5割弱と、他社を圧倒する。トップ企業がLCGC第1号車のアイラに適用する新しい調達方針は、後に続くクルマにも影響を及ぼしそうだ。当地では「ガラ軽」で競るスズキやホンダも対応車の準備を進めている。

 アイラへ納入する部品メーカーは既に決まっているが、取引がない日本の中小部品メーカーにもまだチャンスは開けている。当のダイハツ幹部も「コスト低減は十分じゃない」とつぶやいているのだから。

(佐藤 浩実)

特集「部品創世記」も併せてお読みください。
日経ビジネス2013年7月22日号 14~15ページより目次

この記事はシリーズ「時事深層(2013年7月22日号)」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。