百貨店、専門店、スーパーなど、小売企業の販売が足元で上向いている。ボーナス商戦も好調だが、セール前倒しや気候など特殊要因も目立つ。家計の節約志向は根強く、アベノミクス効果による消費回復と見るのは早計だ。

 予想以上の好調ぶりだ――。6月以降、小売企業の販売が大幅に伸びている。多くの企業で夏のボーナスが支給された6月末以降も、売上高の増加傾向は続いている。

 高島屋の国内百貨店事業は、6月の売上高が前年同月比で8%増。高級時計やアクセサリーなど宝飾品の販売が好調だったことに加え、衣料品の販売も堅調だ。6月28日に夏のセールが始まってからの1週間の売上高を昨年のセール開始後1週間と比べても、売上高は10%以上伸びているという。

多くの百貨店は夏のセールを6月下旬から前倒しでスタートさせた(大阪市の阪急うめだ本店)(写真:朝日新聞社)

セール前倒しが販売押し上げ

 「高級時計は金額ベースでロレックスが7割増。タグ・ホイヤーやオメガもそれぞれ3割伸びた」(高島屋)。紳士衣料では、「クールビズ」による軽装化で昨年まで苦戦していたスーツやジャケットの販売も上向いている。

 「大丸」「松坂屋」を運営するJ・フロントリテイリングでも、6月の百貨店事業の売上高が、松坂屋銀座店の閉店セールが寄与したこともあり、前年同月比15%増。宝飾品や美術品など高額品は45%増だった。セレクトショップ大手のユナイテッドアローズは、6月の既存店売上高が10%増加。しまむらなど低価格が売り物の専門店も、既存店売上高の増加が目立つ。

 苦戦が続いていたスーパーの販売も好転。コンビニエンスストアやドラッグストアなどとの競争激化で販売が低迷する企業が多かったが、6月は違った。イオンの総合スーパー部門で中核のイオンリテールの既存店売上高は、前年同月比で4%程度増加した。「セール効果などで夏物衣料が売れたことに加えて、寝具など住居関連用品の販売も伸びている」(イオン)。ダイエーの6月の既存店売上高も3%増と、7カ月ぶりにプラスになった。

 日本経済団体連合会の調査によると、大企業の今年夏のボーナス支給額は前年比7.4%増の約84万円。2年ぶりのプラスとなった。一見するとボーナス増が消費の追い風になっているような印象を受ける。

 だが、各社の販売の中身をよく見ると、「消費が強い」とは必ずしも言い切れない。特殊要因が目につくからだ。

 まず、百貨店や衣料専門店で目立つのが、夏のセールの前倒し効果だ。今年は大半の百貨店や衣料専門店が昨年の7月初めよりも早い6月下旬にセールをスタート。このため6月の販売は例年に比べて“かさ上げ”されている。

 さらに「プレセール」や「カード会員限定セール」などと銘打って、6月中旬から実質的なセールを始めていた企業も少なくない。ユナイテッドアローズなどの人気店も、会員限定セールを6月下旬からの本セール前に実施した。

 「セールが早まったことで需要の先食いが起きている可能性がある」(Jフロント)といった声も根強い。小売り各社の7月の販売は、中旬以降にセール効果が小さくなると、マイナスに落ち込む可能性もある。

 6月は気候や曜日並びにも恵まれた。気温上昇が夏物衣料の販売の追い風になったうえ、週末に台風の影響が少なく、前年より休日が1日多かったことも販売を押し上げたようだ。

 気候が追い風になった商品の典型がエアコンだ。ケーズホールディングスでは、6月29日~7月7日のエアコンの販売額が前年の同じ期間と比べて、1割以上増えた。「省エネ性能の高い高級機種が人気だ」(同社)という。一方で、テレビなどのほかの家電製品の販売はさえず、「全体では昨年比でほぼ横ばい」(ケーズ)にとどまった。

 ボーナスが増えても、消費に振り向けるのは一部にすぎないようだ。

ボーナスを貯金とローン返済に

(注:複数回答、損保ジャパン・ディー・アイ・ワイ生命保険の調査)

 損保ジャパン・ディー・アイ・ワイ生命保険がサラリーマン世帯の主婦500人を対象に実施した「2013年夏のボーナスと家計の実態調査」。ボーナスの平均手取り額は昨年夏の調査から9万円近く増加して、約70万円になった。

 だが、ボーナスの使い道(複数回答)のトップ3は、「預貯金」(70%)、「生活費の補塡」(40%)、「ローンの支払い」(31%)。消費の優先度は低い。

 この調査では、家計においてアベノミクス効果を「感じられない」という声が約90%と、圧倒的多数を占めた。前年の調査と比べて、家計が「苦しい」との回答は約60%から約53%に減るなど改善は見られたが、財布のひもを緩める傾向はあまり感じられない。

 7月中旬までに出揃った小売業の2013年3~5月期の決算はまだら模様だった。百貨店は販売が伸び、軒並み増益になったが、スーパーやコンビニでは減益になる企業も目立った。

足元の販売は上向くが、3~5月期の業績はまだら模様
主な小売企業の6月以降の販売動向と2013年3~5月期の業績
(注:PB=プライベートブランド、カッコ内は前年同期比増減率%、▲はマイナスか赤字)

 6月以降の好調が今後も続くかどうかについては、不透明感が拭えない。「株高などで消費を増やしているのは一部の富裕層で、全体にはまだ広がっていない」と高島屋の木本茂常務は話す。各地で例年以上に早く梅雨が明け、今後は猛暑による消費押し上げ期待もあるが、それも特殊要因にすぎない。

 家計の多くは増税や社会保険料の負担増などで、実質所得が減ることを懸念しており、消費に慎重だ。「アベノミクス」を受けた消費回復が本格化し、全体に波及するかどうかを見極めるにはまだ時間がかかりそうだ。

(山崎 良兵、上木 貴博、森岡 大地、中川 雅之、中 尚子)

日経ビジネス2013年7月15日号 8~9ページより目次

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