最近の日本株下落への過剰反応はひどいものがある。世界最大の債権国であり、有数の市場規模を誇るというのに、いつまでたっても弱小国の未成熟な株式市場と変わらない極端な揺れを繰り返すばかり。

 そもそも暴落の発端は、米連邦準備理事会(FRB)のベン・バーナンキ議長が5月22日に金融緩和政策の出口を示唆する発言をしたことだった。金融が引き締めに転じることを嫌気して、米国はもちろん日本の株価も急落した。

 そこからが日米で大きく違う。米国株は急落後、「いくら出口戦略といっても、株価や住宅価格をたたきつぶしてまで金融引き締めを急ぐことはあるまい」といった読みの買いがどんどん入ってきた。そのため、現在に至るまで小幅な下げに止まっている。

今年の5月から6月にかけて、株式相場は乱高下 が続いた(写真:ロイター/アフロ)

 一方、日本株は22%強の下げを演じ、6月下旬の時点でも19%ほど下押しした水準にある。先物中心に売り崩されるがままの、なんともダラシない相場展開が続いている。

 こんな下げは、この半年間で70%もの急上昇を遂げた相場のスピード調整局面にすぎない。それなのに、「この下押しは絶好の買い場だ」といった動きが、全く出てこないのだ。

 長期低迷相場が22年も続いたため、日本株市場では本格的な上昇相場を知らない投資家がほとんど。そのためか、想定する上値がどうしても低い。ここまでの株価上昇で、もう目いっぱいと考える投資家が多いのかもしれない。

先物偏重がもたらす危機

 最近の機関投資家は、指数先物への投資をもって日本株投資とする傾向が強くなっている。個別株をリサーチして日本株ポートフォリオを構築するより、低コストで手軽だということで先物での運用を多用するようになった。

 この風潮は危険を孕(はら)んでいる。先物取引であれば、大きな資金でも瞬時に売買できる。つまり、マーケットへの影響は大きい。そのうえ、日経平均株価など指数を取引対象とするから、どうしてもマクロ連動型の投資となってしまう。個別企業の動向など無視し、あくまでも経済指標で買うか売るかの判断をするわけだ。そのため、株価形成が短絡的かつ一方通行的となる。

 これらは、ヘッジファンドなど相場を仕掛ける連中にとっては願ってもない状況だ。5月23日の1100円を超す棒下げもそうだった。バーナンキ発言を材料に先物をドスンと売り崩す。日経平均の先物価格が下げに転じたのを見て、「これはまずい、売らなければ」と多くの機関投資家が一斉に先物売りを出してきた。それで大暴落となった。

 売りを仕掛けた連中は、下値で買い戻してボロ儲けをしたわけだ。それだけでは終わらない。頃合いを見て先物買いを入れ、反発局面を仕掛けることも平気でやってくる。それを見て、日本の機関投資家は後追いで先物買いに走るから、マーケットの振れが大きくなる。これが、日本株市場の乱高下の背景である。

 悔しいことに、先物で日本株市場をおもちゃのように振り回す連中が、好き放題に暴れまくっている。そんな彼らが一番怖いのは、個別株投資で買ってくる長期投資家の存在である。

 どんな暴落相場でも、業績の裏づけがあって買える企業はいくらでも見つかる。そういった企業の株を、この安値で買ってやろうという資金がどんどん入ってくると、売りを仕掛けた連中は慌て出す。そろそろ、目に物を見せてやりたいものだ。個別企業に長期で投資する人たちがさらに増えれば、日本株市場はいくらでも強くなる。

澤上 篤人(さわかみ・あつと)氏
1947年名古屋市生まれ。スイスの投資会社などに勤務した後、79年からスイス、ピクテ銀行の日本代表。99年にさわかみ投信を設立。

(写真:陶山 勉)
日経ビジネス2013年7月8日号 96ページより目次