見られているのは、知っているが
どう見られているかは、知らない
自分のパソコンが何者かに操られ、犯罪予告を繰り返す――。2012年夏に発生した「パソコン遠隔操作事件」の容疑者を追い詰めたのは、警察の捜査でも市民からの通報でもなく、神奈川県藤沢市江の島の防犯カメラだった(注)。
報道によると、容疑者が捜査撹乱のため島を訪れたのは今年1月3日。治安維持を目的に最新鋭カメラが島内35カ所に張り巡らされたのは昨年末で、その時点で島は地元の人曰く「不審者が姿を映されずに島を歩くのは難しい状況」にあったという。
半年以上にわたり警察を翻弄した前代未聞の事件が示したものは2つ。1つはネット社会の危険性。もう1つが、監視テクノロジーが既に、我々の想像以上に社会の隅々まで浸透している、という事実だ。
江の島に限らず増加の一途をたどる監視カメラ、自分の関心がある分野になぜか切り替わるネット広告。それらを通じ多くの人は、自分がほかの誰かに見られて暮らしていることを何となく自覚している。ただ、どこで、誰に、何を、どう見られているかまで把握している人はほとんどいないのではないだろうか。
まず、会社員であるあなたを最も監視しているのは、会社だ。情報流出防止や生産性向上のため、社員の行動を記録する会社は年々増加。今や会社のパソコンを使ったメールやネット履歴はすべて閲覧されていると覚悟した方がいい。
一方、自営業者や法人も、税務署や競合企業など多くの監視者に囲まれている。IT(情報技術)の発展で、企業の資金の流れや他社の機密情報を捕捉する技術はこの10年で大きく進化した。
「自分は見られて困るようなことは何もしていない。安全な社会を作るためにも監視社会は必要だ」。今は、そう考える人が多数派に違いない。
だが、監視空間が膨張する中、専門家からは、社会秩序を守るはずの監視テクノロジーが、一般の企業人の人生や、会社の経営にまで損失をもたらすリスクも指摘され始めた。それは、解雇規制の緩和などこれから始まる様々な社会の変化に伴い、一段と顕在化する可能性も高い。
肥大化を続ける監視社会。その現実と怖さを取材した。
CONTENTS
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監視社会の現実 社内編
ネット履歴、メール… すべて筒抜け 記録済み -
監視社会の現実 通勤編
急減する「都会の死角」 カメラがない場所がない -
健康情報、社外での素行、“つぶやき”、最近の関心事…
こんなものまで監視されている