政党や候補者の「IT武装」に商機を見いだそうとする企業の動きも、参院選を間近に控えて慌ただしくなってきた。

 7月に予定される参院選では、自民党の候補者のポスターや名刺にQRコードが印刷されるケースが増えそうだ。自民党は4月30日、メディアシークが提供するQRコード発行機能付きサイト作成ツールの採用を決めたからだ。

 有権者は渡された名刺やポスターに印刷されたQRコードを手持ちのスマートフォンで読み込めば、候補者のツイッター、フェイスブック、動画などが集約されたページに簡単にアクセスできる。ネット選挙では利用するツールが多岐にわたるため、1カ所にまとめられる利便性を自民党は評価した。

 メディアシークが提供していたこのツールはもともと小売店舗が顧客を誘導するために使ってきたもので、既に専用のQRコードリーダーアプリは500万を超えるダウンロード数がある。

 ネット選挙解禁を受け、新たな需要を見いだしたメディアシークは急遽、政党への営業を開始。初動の早さが功を奏した。

ビジネスに発展しないとの声も…
選挙市場に参入する主なIT企業
CGMマーケティング
概要:なりすましなどの被害を防ぐ機能を備えたツイッターの運用支援ツール
GMOグローバルサイン
概要:サイトなどに安全性保証の証明書を発行するサービスを候補者や国会議員、政党に無償提供
LINE
概要:公式アカウントを政党に無償提供。参院選後はアカウント提供の有償化を検討中
アライドアーキテクツ
概要:政党、候補者向けにフェイスブックページ運用を支援するサービスを提供。分析サービスもある
イー・ガーディアン
概要:ソーシャルメディアや掲示板などの書き込みの監視サービスや分析サービスを提供
ガイアックス
概要:選挙運動用サイトなどの構築、運用支援を提供。誹謗中傷のチェックツールも期間限定で無料提供
サイバーエージェント
概要:公式ブログ開設支援やインターネットを活用したプロモーション支援、ライブ動画配信サービスで政治を主題にした番組配信
ビートコミュニケーション
概要:候補者自身が開設、運用できるSNSを提供。フェイスブックやツイッターの運用支援サービスも手がける
米グーグル
概要:グーグル+で候補者と有権者の直接対話可能な「仮想市民集会」を実施予定
米ツイッター
概要:全政党のツイッターアカウントの公式認定。認証バッジを配布してなりすましを防ぐ
ホットリンク
概要:炎上を監視する「誹謗中傷・風評 監視パッケージ」を販売開始
メディアシーク
概要:ツイッターやフェイスブック、動画など様々なツールを集約したスマートフォン向けページを作成可能
電通パブリックリレーションズ
概要:ツイッターなどネットでの発言の仕方などについてアドバイスするサービスを開始

企業の焦点は「攻守」様々

 ソーシャルメディアを活用したマーケティング支援を行うアライドアーキテクツ(東京都渋谷区)も改正公職選挙法が成立した4月19日、政党や選挙候補者を対象としたフェイスブックページ活用の支援サービスを始めた。同社は500社を超える企業のマーケティングを支援してきた実績を持つ。キャンペーン専用アプリで候補者のフェイスブックのファン拡大を手伝う。

 「企業と顧客の関係は、政治家とファンの関係と同じ。マーケティングの視点がなかった政治家には必ず支援が必要になる」と中村壮秀社長は新たに開けた市場へ大きな期待を寄せる。

 一方、ネット選挙の初回となる参院選は、ネットの積極的な活用よりも、なりすまし被害や炎上を防ぐリスク対策にこそ市場があると見立てるのはガイアックスだ。

 同社は以前から企業向けにソーシャルメディア上の投稿を24時間365日有人監視するサービスを提供している。こうした実績で政党や候補者が懸念する誹謗中傷などの書き込みを早期に発見する手伝いをする。

 IT企業にとってネット選挙運動解禁は待望の商機。それだけに各社はこの2カ月の間、市場開拓を急いだ。だが、一方では冷めた見方をする企業も少なくない。

無償提供の悲哀

 3月下旬に早々と政党向けに「なりすまし被害」を防ぐ証明書発行サービスの無償提供を決めたGMOグローバルサイン。武信浩史常務は「社内でも検討したが、選挙市場規模は想定以上に小さい」と指摘する。

 一方、「規制がそもそもない諸外国と異なり、日本は拝み倒して解禁してもらったようなもの。なかなかビジネスとして成立させづらい」(IT企業幹部)という声も聞こえてくる。

 事実、ビジネスとして前のめりになっているのは中小企業が中心で、比較的規模の大きい企業はサービスの無償提供などにとどめ、ひとまずPR効果を期待するケースが多い。

 ネット選挙は今回の参院選だけでなく、当然、今後行われる地方選も対象になる。何より“クライアント”から求められる成果は「当選」。当選か落選か、2つに1つの結果が短期間で出るシビアなマーケットだけに、各社は採算性と知名度向上を天秤にかけながら、どこまで市場開拓を続けていくのかの判断を迫られることになる。

日経ビジネス2013年6月17日号 55ページより

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