ネット選挙
7月の参院選以降の国政選挙や地方選挙で、公示・告示日後の選挙活動でのホームページやSNS(交流サイト)の利用が全面解禁される。電子メールを送れるのは候補者や政党に限られる。

 「寝ないでやるしかない…」

 夏の参院選に出馬する50代の新人男性候補は、赤くはらした目で決戦の日を遠く見据えている。国政を少しでも変えるという尊い気持ちから、立候補の意を固めた。

 でも、不安は尽きない。

 ネット選挙の解禁が決まり、投票前日まで宣伝運動ができる。慌てて、ブログを始めた。党の協力を仰ぎ、フェイスブックや動画の配信も始めた。しかし、手応えがない。

 早朝から深夜まで、新人候補として選挙区を駆けずり回る。顔を出すべき会合は時に1日20カ所を超える。家に帰れば疲労困憊だが、パソコンに向かう時間を持たねばならない。何せ時間が足りないのだ。

 少し分かったことがある。

 ネットは文章だけでは伝わらない。動画を多く載せないと反応が伸びない。無党派層に政策を訴えたいが、ついついフェイスブックの更新が遅れがちだ。そして、自問する。こんな状況で投票日を迎えられるのか――。

 不安に包まれる候補者や政党に企業が群がり、手取り足取り指南する光景があちこちで見られる。

 公職選挙法の改正に重い腰を上げた政府は「近年のインターネット普及に鑑み、選挙運動期間における候補者の情報充実、有権者の政治参加の促進を図る」と法施行時に目的を書いた。

 ただ、ネットが普及したのは近年の話ではない。ネット選挙解禁と言っても、有権者のメールの送信は先送りするなど規制が残っている。そもそも、日頃から主義主張を鮮明にしていない候補者が何を語るというのか。有権者の態度も冷め切っている。

 民主主義の根幹を支える選挙。日本は遅きに失した感もあるネットの導入によって、有権者が政策への理解を深め、投票に意識を向けるチャンスになるのか。現時点のドタバタ劇を見る限り、心もとない。

 海外ではネットを通じ、民意がうねりを打つことがある。米国の大統領選が典型例だ。しかし、欧州の小国にもっと進んだネット選挙を実践している国があると聞いた。現場から最新事情を報告する。

(原 隆、馬場 燃)

CONTENTS

IT立国エストニアの今
世界は遥か先に

迫る参院選
付け焼き刃のIT利用

韓米から学ぶこと
対話こそ政治の原点

日経ビジネス2013年6月17日号 46~47ページより目次