雇用流動化が本格化すれば、誰もが次のキャリアを考える時代になる。では、もし今、転職するのならどんな企業を選ぶべきなのか。「1億総転職時代」のキャリア設計を考える。

 1つの会社で勤め上げるという意識を完全に捨て、常に「次」のキャリアを考える――。雇用の流動化が本格化する中では、個人も働くことへの意識を抜本的に変える必要がある。

 では、現役ビジネスパーソンは、「次」に選ぶのならどんな企業がふさわしいと考えているのか。本誌は今年4月、日経ビジネスオンラインの読者を対象に調査を実施し、「働く人が選んだ転職したい企業ランキング」を作成した(次ページに掲載)。

 案の定、実際に社会に出て働いている人たちが選んだ働いてみたい企業は、まだ社会に出る前の学生が選んだイメージ優先の就職人気企業ランキングとは大きく異なる結果となった。

金融は不人気、1位はグーグル

 日本経済新聞社が今年2月に公表した大学生の就職希望企業ランキング(次ページの表)では、上位10社をすべて金融機関が占めた。一方、転職したい企業ランキングでは、トップ100に入ったのは37位の日本銀行と69位の三菱東京UFJ銀行のみにとどまった。学生のランキングではトップの日本生命保険や2位の東京海上日動火災保険、3位の第一生命保険などは、転職ランキングでは軒並み100位以下となっている。

 その背景について、インテリジェンスの転職情報誌「DODA」の木下学編集長は以下のように分析する。

 「金融機関は就職活動において、先輩やリクルーターに声がけされる機会が多く身近な存在。一方、社会人にとって金融機関は専門性が求められるとの意識があるのではないか」

 では、働く人がトップに選んだ企業はどこなのか。圧倒的な差でトップに立ったのはグーグルだ。次に、性別・年代別及び役職別の転職したい企業トップ5を並べたが、グーグルはどの層でもほぼトップ5にランクインした。

 学生の人気ランキングでは189位と下位だった同社がなぜこれほど多くの社会人の支持を集めたのか。

 回答者の多くが同社を選んだ理由は、「勢いを感じる」「社風が良さそうだから」。

 社員を縛らず、自由な雰囲気の中で新たなビジネスを開拓していくのがモットー。「働きがいのある会社」などのランキングでは常に上位に入る同社の社風も人気が高い。そんな企業体質が流動化時代に不可欠な汎用スキルを磨ける場と評価されたようだ。

 グーグルに限らず、転職したい企業ランキングで上位に入った企業は「社風が良さそう」「やりたい仕事ができそう」「他社にはできない技術・商品があるから」という理由で選ばれた企業が多い。

 2位に入ったのはトヨタ自動車。日本発グローバル企業の雄として、堂々のランクインだ。ただ、選ばれた理由がグーグルとは少し異なり、「業界上位だから」「安定しているから」といった安定志向的な理由が上位を占めた。

 グーグルとトヨタ。革新意欲の強いイメージのグーグルと保守傾向が強い印象のトヨタが居並ぶ異色の構図は、働く人の意識の2極化を示しているとも言える。

 「日本人は転職に限らず、保守的な考えが強いが、ここ数年、守り一辺倒から挑戦する意識を持つ人が若い世代を中心に増えている。一方、先行きが不透明になる中、中高年世代ではこれまで以上に安定志向派が多数派となりつつある」(木下氏)。

 実際、グーグルは20代と30代の男性でトップながら、40代男性では2位、50代男性では5位と順位を下げる。これに対しトヨタは、20代男性ではトップ5圏外だが、30代男性で2位に入り、40代と50代の男性では首位に輝くという結果となった。

 転職したい企業ランキングと就職人気ランキングの違いはまだある。前者は後者に比べ、グローバル企業の評価が一段と高い、というのもその1つだ。

「次」こそグローバル力を磨く

 20位から5位に躍進した三菱商事、圏外から16位にランキングしたファーストリテイリング/ユニクロはその代表。「雇用流動化の時代を生き抜くため、『次』に選ぶべきはグローバル人材力を磨ける会社」と考える人が多いことがうかがえる。また、ベネッセコーポレーション(6位)や資生堂(8位)などワーク・ライフ・バランスに定評がある企業も「次」にふさわしい候補として評価された。

 上位に強いブランド力を持つ民間企業が並ぶ中、異彩を放つ存在が10位に入った宇宙航空研究開発機構(JAXA)だ。

 小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡の帰還は、日本の技術力の高さや研究開発の粘り強さ、モノ作りの大切さを再認識させた。専門性が必要で簡単に転職できるわけではないが、世界に誇る技術に今後の成長を感じる人は少なくないようだ。考えてみれば、宇宙産業は、ローソンの新浪剛史社長が提唱する「ワクワクできる成長産業」の究極の候補とも言える。

 さらに、ランキング回答者からは、ソニー(21位)や日本航空(24位)、パナソニック(29位)といった“再生”企業への転職をあえて希望する声も数多く上がった。

 「再生のためには何でもできそうだから」(転職希望先にパナソニックと回答した人)、「復活の過程に参加したい」(ソニーと回答した人)、「一度どん底に落ちて這い上がってきた会社だから」(日本航空と回答した人)。ランキング圏外だったが、東京電力を希望する人もいた。理由は「今のピンチをどう乗り切るか、挑戦心が出てきた」からだという。

変わる日本人の人生設計

 海外で働く力を身につけたい、ワーク・ライフ・バランスを重視したい、あえて試練を味わいスキルを高めたい…。多くの人が、常に次の転職先を見据えながら働く。そんな雇用流動化時代が本格的に到来すれば、日本人の人生設計も変わっていく。

 学生の進路希望も、特定の会社を目指すという形ではなく、20代はA社、30代はB社、40代はC社というように、自身のキャリアを若い頃から10年単位でプランニングしていくことが当たり前になる。「40歳定年説」を唱える東京大学大学院経済学研究科の柳川範之教授は、「技術革新が速く、1つのスキルが40年役立つことはあり得ない」と話す。

 1つの業界にこだわる人も現れれば、あえて業界を転々とする人も登場。働き方はかつてなく多様化し、「パナソニック シャープを辞めた人たち」が注目されることもなくなるだろう。

 子供に対する職業教育も大きく変わらざるを得ない。「将来、何になりたいのか」という質問の意味は薄れ、「将来、どう生きていきたいのか」という投げかけに取って代わられるのは間違いない。

 「解雇先行の危険性」で指摘した5つの変革を企業が進め、個人は働くことへの意識はもちろん、人生設計まで変えていく。そんな両輪が回り出して初めて、人材流動化という日本の雇用改革は健全に動き出す。

日経ビジネス2013年5月20日号 40~43ページより

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