シャープの経営危機が終わらない。液晶事業への傾注が過剰投資を招き、深刻な業績不振にあえぐ。資金繰りに窮した経営陣は戦略なき提携交渉に奔走。ガバナンス(企業統治)は混迷を続けている。今年9月に2000億円の社債償還が待ち受ける中、「シャープ解体」のシナリオも現実味を帯びてきた。
3月中旬のある朝、シャープの奥田隆司社長は、自宅前で記者団に囲まれていた。
その1週間前、シャープは韓国サムスン電子との資本提携を発表。長年の宿敵とされてきた両社の提携は、社内外に衝撃を与えた。だが、この日、報道陣の質問に答える奥田社長の顔に浮かんでいたのは安堵の表情だった。
「サムスンとの提携で工場の稼働にメドがついたのはよかった。(サムスンが出資する)104億円は液晶パネルをちゃんと引き取る意思の表れだ」
サムスンが何の狙いもなくシャープの支援に手を貸す、と考える者は社内にも社外にも恐らく誰一人いない。それでも、奥田社長が一息つきたくなるのも無理はない。2012年春の電撃的な社長昇格以来、奥田社長にとってこの1年は、経営破綻の淵から必死で這い上がる、文字通りの修羅場だった。
しかし、シャープの経営危機は今も厳然と存在する。
今年2月、シャープは主力銀行に対し、来期以降の融資継続の前提となる中期経営計画の素案を提出。だが、あまりに楽観的な再生シナリオに銀行団はあきれ返り、この案を突き返した。昨年内を目指していた中期計画の公表は、5月にずれ込む可能性さえある。
この1年のシャープの迷走は、社外から見れば不可解な出来事の連続だ。
経営危機が深刻になった昨年8月。この時、わずか5カ月前に提携を決めたはずの台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業との間で、不協和音が公然とささやかれ始めていた。

救済の手を求め、シャープは米国やアジアの企業に次々と提携交渉を持ちかけるが、その多くはアドバルーンを打ち上げるだけで不発に終わる。一方、社内では約60年ぶりとなる大規模な人員削減などリストラの嵐が吹いた。蓄積された内外の不満の矛先は、不透明な経営の統治体制に向かった。
シャープの危機の真因はどこにあり、この1年、社内では一体何が起きていたのか。そして、シャープに再生の道は残されているのか。関係者の証言を基に、次ページから検証する。
