「当分はまだ会社にいられる」と喜ぶべきか、「“ゴール”が遠のいた」とため息をつくべきか――。多くの中高年社員は、そんな複雑な気持ちでいるに違いない。

 年金支給開始年齢の引き上げと併せて段階的に実施されてきた「定年延長」が2013年4月1日から本格化する。高年齢者雇用安定法の改正により一定の猶予期間後、希望する全社員を65歳まで雇用する義務がすべての企業に発生。1998年に60歳定年制が導入されて以来15年ぶりに、日本の定年が事実上5年間延長されることになる。

 改革の狙いは言うまでもなく、高齢者世帯の家計を安定させることで社会保障の維持を図り、現役世代の負担を減らすことだ。

 だが、高齢化が進む日本社会にとって不可欠とも言えるこの改革は一方で、企業の現場を混乱させ、生産性を低下させる両刃の剣にもなりかねない。

 まず、企業にとって悩みの種となるのが人件費の上昇だ。何の手も打たなければ収益力の低下は避けられない。

 また、60代社員の処遇も一筋縄ではいかない問題だ。多くの企業では、60歳を過ぎた社員は再雇用契約を結んだうえで“一兵卒”として職場に再配置される。

 だが現実問題として、かつて自分の上司だった「元部長」「元次長」に、本当に気兼ねなく仕事を頼める人はどれだけいるだろうか。再雇用者の有効活用が進まなければ、会社のあちこちに、「あまり仕事をせず給料だけもらうベテラン社員」が集まる“姥捨て山”が出現しかねない。

 “65歳定年時代”の到来を前に、コストを抑制しながら現役社員と60代社員の双方の意欲を可能な限り引き出す職場作りのノウハウを取材した。平均寿命が80歳を超えた長寿社会日本において、これは、すべての世代が真剣に向き合うべき課題である。

(宗像 誠之、白壁 達久、中川 雅之)

CONTENTS

若手、会社に高まる不安
現場の混乱、はや開始

世紀の難題「雇用継続」
万能薬は存在しない

生産性維持への挑戦
姥捨て山化、こう防ぐ

本誌提言「もう1つの選択」
「40歳定年幸せ」説

日経ビジネス2013年3月4日号 24~25ページより目次