お金を借りたら返しなさい──。それが常識だと多くの日本人が信じて生きてきた。しかし、ルールが変わった。2009年末、前代未聞の「モラトリアム(返済猶予)」が導入された。
日本は過去、昭和金融恐慌と関東大震災が起きた際、決済手形などに返済猶予を適用した。短期的な社会の混乱を防ぐためだ。今回は銀行に義務を課す形で、企業から「借金返済を先に延ばしてほしいと相談を受けたら応じなさい」と3年超も“強要”した。企業と金融機関が決めた民間取引に対し、国が事後的に介入することは資本主義の否定になると批判が渦巻いた。
もっとも、効果はてきめんだった。日本の倒産は年間1万2000件台の低水準で推移。世界経済は混乱したが、倒産件数は好況に沸いた1980年代のバブル期以来の低さに落ち着いた。
その法律が3月に終わる。返済猶予で危機を乗り越えた企業もあろうが、倒産予備軍が最大10万社に上るとの見方もある。借りたお金を再び返す必要が出ると、企業の命運はどうなるか。
参院選を夏に控え、中小企業対策は現政権の課題の1つ。倒産が急増すれば、政権基盤も揺らぎかねない。円滑化法は世紀の愚策か、良策か。功罪を検証する。
