迫る相続増税
対策すべきはむしろ庶民
日本の生糸王と呼ばれ、1代で膨大な資産を築いた巨大財閥の創始者が他界した。生涯を通じて正妻を持たなかった創始者が残した法定相続人は、母親の異なる3人の姉妹のみ。だが、顧問弁護士に託された遺言状の内容があまりに異様だったことから一族は紛糾。関係者が次々と凄惨な死を遂げていく――。
「莫大な遺産を巡る血塗られた惨劇」を描いた横溝正史の小説『犬神家の一族』は戦後、大衆娯楽誌での連載を経て数度にわたり映画化。「日本映画の金字塔」と称される市川崑作品(1976年)を筆頭に国民的ヒット作となり、「名家の遺産争い」をモチーフとした小説や映像作品の雛形の1つとなった。
そんな横溝作品をモデルとする推理小説やテレビドラマに長年接してきたせいもあるのだろう、日本人の中には「遺産相続のもめごとは、あくまで資産家や名家特有の悩み」と考える人が少なくない。だが、そうした常識が覆る日が着実に近づいている。
相続トラブルが庶民の身に降りかかるきっかけとなるのは、2015年から開始予定の相続増税だ。基礎控除額が下がり、相続税の対象者が急増することが予想される。
「我が家は代々庶民の家系。親の資産と言っても知れている。相続税が課税されても、大した額にはならない」。そんなふうに高をくくるのは極めて危険だ。
富裕層と違って、中間層の財産の多くは不動産など非流動性資産で占められている。課税される税金自体は少額でも、納税用の現金が手当てできず、生まれ育った実家を泣く泣く処分するようなケースも出かねない。相続資産が少ないが故に、納税資金の負担比率などを巡り親族間の確執が生まれる恐れもある。アベノミクスによる株価や地価の上昇が続けば、思いもよらず相続税の標的となり途方に暮れる人も増えるに違いない。
そう考えれば、相続税対策を今、真剣に考えなければならないのは、巨額の財産がある富裕層よりむしろ、そこそこの資産を持つ中間層とも言える。
制度改革まであと2年。現状の増税案を基に「庶民だからこそ陥る相続の落とし穴」を洗い出した。小説のように死人が続出することはないだろう。しかし、現金遺産の消滅や当事者間の諍いなど、フィクション顔負けの悲劇が各地で繰り広げられる可能性は高い。その幕は既に切って落とされている。
CONTENTS
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庶民を襲うワナ(1)
親の財産は持ち家だけだから大丈夫 -
庶民を襲うワナ(2)
兄弟仲がいいから大丈夫 -
庶民を襲うワナ(3)
もめるほどカネがないから大丈夫 -
庶民を襲うワナ(4)
既に話がついているから大丈夫 -
庶民を襲うワナ(5)(6)(7)
まだまだある 庶民を襲う相続の落とし穴