経営環境が厳しい中、働きがいを高めることで好業績を維持する企業がある。仕掛けや制度を複合的に取り入れながら、社員のやる気を引き出し、仕事への魅力を高める。業界や規模、成長ステージの異なる3社に「好回転」の秘訣を学ぶ。


 組織の多様化が進む中、ランキング上位に名を連ねる企業ほど働きがいの向上をトップ任せにせず、社員自らよりよい職場を作ろうと高い意欲を持って取り組んでいる。その1つが、大企業ランキング6位のアメリカン・エキスプレス(アメックス)だ。

 「会社が何かしてくれるのを待つのではなく、自分たちで働きがいのある会社を実現していこうと行動する文化が根づいている」。人事部の加藤薫マネージャーはそう胸を張る。

 社員の働きがいを支えるのは、社員が自主的に運営する組織の数々だ。同社には10年以上前から、社の目標と各社員の日々の業務に一貫性を持たせ、やりがいを高める「エンプロイー・エンゲージメント」に取り組む社員組織が複数存在していた。その組織が母体となり2009年に誕生したのが、「J-MEET」と呼ばれるボランティア団体だ。部門横断型の組織で、毎年15人程度の社員で構成される。メンバーは毎年変動し、役員が必ずスポンサーにつく。

 アメックスでは、「期待を超えることに常に意欲的で、会社や顧客、アメックスのブランドにコミットしている」人たちを「エンゲージしている社員」と位置づける。J-MEETはこのエンゲージメントを高めるべく、メンバー主導で社員の表彰制度など様々な活動を企画・運営している。

パソコンを立ち上げると社内ニュースが表示され、各社員が社内事情を素早く把握できる

 例えば、2012年に取り組んだ「感謝なう!」。感謝を可視化するための試みで、日頃お世話になっているものの、なかなか感謝を伝えられない社員に代わってメッセージを仲介する企画だ。

 オンライン上に届いたメッセージを、J-MEETのメンバーが代理で届ける。メッセージの数は既に200件を超えるという。感謝された人の上司にも同じメッセージが届く仕組みで、なかなか表に出ることのない各社員の隠れた努力や貢献、長所を再認識するうえでも役立っている。

 アメックスの特徴は、勤務時間内でもボランティア活動をすることが認められている点だ。しかも、こうした組織がアメックスの求めるリーダーシップの発揮の場にもなっている。

 同社はゴールに対する達成度合いとリーダーシップの2つを人事評価の基軸としている。しかも、この2つは同じ比重で測られる。自ら積極的に働きがい向上に取り組む社員は、おのずとリーダーシップ力を高めていく。

 2012年12月期に売上高が2ケタの伸びを見せたアメックス。1200人近い社員の働きがいは、「自ら作る」という信念の上に成り立っている。


 大企業ランキングで12位に入ったセプテーニグループは、ネットマーケティング事業を手がける1990年創業の企業だ。昨年の順位は30位。飛躍的なランクアップを遂げた。

 この1年の取り組みを見るだけでも、多彩な活動を重ねてきたことが分かる。GPTWに提出した施策の数は69項目、うち17項目が2013年版調査で新たに加わったものだ。

 特に力を入れているのが、社員間のコミュニケーションの強化だ。セプテーニは「起業家を支える」を経営理念に掲げ、様々な制度を設けて社員の起業家精神を高めてきた。この姿勢は揺るがない一方、成長スピードが速い組織ゆえ、社員数が増えると同時に人材の多様化も一気に進んでいる。

 そんな中、佐藤光紀社長は組織の活気や成長余力を測るバロメーターとして、「コミュニケーション濃度」を掲げる。「急速に成長を遂げる中、社内のつながりが弱くなることを危惧した」(佐藤社長)のだ。そこで年齢や役職、部署の異なる社員同士の交流機会を増やすことにした。

起業家マインドを持つ社員を支援すると同時に、月1回のカフェイベントなどで社員同士の交流を重視する(写真:村田 和聡)

 例えば2012年2月に、異なる部門のメンバーやマネジャーなど、日頃の業務では関わりの薄い社員同士が4人1組になって昼食を共にするイベントを実施した。ランチ代は会社が負担する。同年7月には、社員が話をしてみたい役員やマネジャーを「逆指名」し、ランチに行くというイベントも開催した。

 リーダー層と一般社員の関係性強化だけではない。2012年に生まれた「トレーナー制度」は、新入社員を若手の先輩社員がマンツーマンで教育する。年次が近い先輩と新入社員との交流の機会が実は少ないとの気づきから生まれたものだ。

 2011年末の東京・新宿へのオフィス移転後には、牧場をモチーフにしたカフェスペースを新設し、リフレッシュ環境を整えた。社員が自由に集う場を提供することで、部署や年次にかかわらず交流する機会が増える。

 施策の一つひとつはほかの企業にも見られる。だが、役職や年次ごとにいつ、どんな立場の人と交流を図るかという「導線」を論理的に組み立てているのが同社の特徴。社員同士のつながりを網の目のように細かく通していくことが仲間意識を高めると同時に新たな発想を生み、新規事業の開発やブラッシュアップにつながっていく。

 「セプテーニのコアバリューは、社員が手を挙げて新規事業を立ち上げ、会社の主力事業も作り出せる点にある」(佐藤社長)。そのために、新規事業に挑戦できるプロセスそのものを仕組み化する。仮に1つの事業が成熟し衰退期を迎えたとしても、新事業が次々に生み出される環境があれば、環境の変化に強い組織を作ることができる――。佐藤社長の競争戦略だ。

 「ネットベンチャー企業らしい」。そう思う人もいるだろう。だが、常に時代に合うビジネスを追い求め続ける姿勢は、業種や業態にかかわらず必要とされるものだ。


 中小企業ランキングで3位にランクインしたトリプルグッド税理士法人。「信用」「公正」「尊敬」の3部門で、中小企業版の調査に参加した企業の中でナンバーワンを獲得した。

 「中小企業の100年経営で、日本を元気に!」。トリプルグッドが掲げるミッションだ。会計ソフトを使えば記帳も決算書も完了できる時代。「専門家はどうしてもスキルに走りがちになる。だが、使命感を持てないような仕事の仕方をしていては、働きがいは生まれない」と実島誠社長は言い切る。

 税理士の仕事の付加価値を高めると同時に、社員がやりがいを持てるようにするにはどうすべきか。実島社長が出した結論が、税理士の資格を持つ経営コンサルタント集団として顧客の中小企業を支えることだった。

 その際、すべての行動規範となるのが独自の「クレド」だ。2009年におよそ1年半をかけ、全社員でリニューアルして以降、一貫してクレドに基づいた経営を追求。会社のミッションやビジョン、仕事を行ううえでの価値観などを社員全員で共有している。

企業理念に共感し、「使い古したクレドが欲しい」と言う中小企業は後を絶たない(写真:山本 さとる)

 「愉しく志事する」。クレドに記された言葉だ。「社会的使命と顧客の課題解決、税理士としての自分の仕事が結びつくことで力が発揮できる。そして、志を持って顧客に向き合い自らの価値を発揮することで、社名でもある『三方良し』が実現できる」。実島社長は「志事」の意味をそう説明する。

 「私たちは、何事も自分次第と考えます」「まずは『できる』と考えます」――。クレドの存在は顧客の信頼を得る効果ももたらし、2012年度の売上高は前年度比2割程度の伸びを見せた。取引先企業の数は延べ3000社を超える。

 明確な企業理念や信条は、競争優位を保つベースとなる。そう考え、クレドを作る企業は少なくない。だが、必ずしも皆が日常業務に生かしているとは限らない。トップがビジョンを浸透させると同時に、中堅や若手社員が現場感覚を持って推進する必要がある。

 そんな中、トリプルグッドは価値観を実践に結びつける様々な取り組みを日常的に行っている。

 例えば、クレドの神髄を理解するための役員による個別フォロー。毎朝8時50分から行う「元気の出る朝礼」では、社員1人が持ち回りでクレドに基づいた小話を披露する。その際、話す内容などを事前にクレド教育を担当する役員に相談できる。こうすることで社員のレベルに応じてクレドへの理解を深めさせ、実践に結びつかせる。

 クレドにまつわる研修も多彩だ。新入社員は3カ月間、毎日のようにクレドの理解を深めるための会議に参加するよう促される。その後も不定期で、入社4~5年目の若手社員がリーダーとなり、年次の若い社員同士でクレドについてディスカッションする研修などが日常的に開かれる。

 人事評価の基準ももちろん、「クレドに沿った仕事ができているか」。日頃の業務にぶれが生じないよう、常に価値観の共有に力を注ぐ。「価値観を明示することで社員の動きに迷いがなくなり、決断も迅速になる。クレドが社員の自発性にもつながっている」(人事や採用を担当する奥村龍一理事)。

 中小企業は大企業に比べて人材や資金、ブランド力といった経営資源に乏しい。それだけに、従業員の意欲を高め、働きがいを実感させることは競争力を担保するうえで重要だと、トリプルグッドの取り組みは証明している。

日経ビジネス2013年1月28日号 74~76ページより

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