2030年1月。私が大手家電メーカーのエンジニアを2012年末に辞めてから18年になる。当時は電機業界にリストラの嵐が吹き荒れ、私を含め、多くの同僚たちが早期退職した。
そんな私が今、勤めているのはテレビメーカーだ。メーカーと言っても、昔のような工場があるわけではない。自宅近くのマンションの一室にある時間貸しの工房が「工場」。従業員は私1人だけ。
テレビもだいぶ簡単に作れるようになったからね。プリンターのボタンを押せば、基板からパネルまでパパッと印刷で製造できるのだから。最近は街の電器屋さんも、オーダーメードでテレビなどをその場ですぐ刷ってくれる。
会社を辞めた同僚の中には、私と同じく1人でメーカーを立ち上げた者が数人いる。当時は珍しかったけど、今や「1人メーカー」はすっかり一般的になった。もちろん現在も会社に残り、頑張っている仲間もいる。先日の新年会で久しぶりに彼らに会った。話を聞くと、工場の光景もこの十数年で様変わりしたようだ。生産ラインには人型ロボットが並び、人と協調して家電を作っているとか。新規事業として、その人型ロボットを外販する計画もあるみたい。元同僚は、人型ロボットが人型ロボットを製造するラインの構築で忙しいとぼやいていた。
会社を辞めた2012年頃は、「日本のモノ作りは一体、これからどうなる?」といった議論を飲み屋でよくやったよなあ…。あの時は本当に皆、危機感があった。その後、残念ながら工場とともに消えてしまったメーカーもあるけど、踏ん張って復活し、世界市場を再び引っ張っているメーカーもある。モノ作り魂は今もしっかり日本に残っているしね。
そう言えば当時、「日経ビジネス」でモノ作りの未来に関する面白い特集があった。タイトルは何だっけ? 検索、検索…っと。あっ、出てきた。そう、これ、これ。2013年1月14日号「2030年のモノ作り」。中身を読んで「本当に将来こうなるの?」って思ったけど、意外と予想が当たっていたかも。そうだ! オーダーメードで刷ったばかりの超薄型軽量のカラー電子ペーパーにデータを転送し、読み返してみよう――。