データが示す真実
消費低迷、原因はやはり富裕層

 今年6月、札幌市で“奇妙な事件”が発生した。

 南区で生活保護を受給して暮らしていた67歳の女性が病死。遺品整理をしていたリサイクル業者が、部屋のタンスの引き出しから紙袋に包まれた現金約4000万円を発見したのである。

 報道によれば、女性は2001年に離婚後、一人暮らしをしていたが、昨年9月、約800万円あった貯金が底を突いたなどとして生活保護を申請。以来、年金を加えた1カ月十数万円のカネで生計を立てていた。遺族は4000万円の存在は認識しておらず、女性が受給していた生活保護費は市に返還するという。

 なぜ女性は巨額の現金を持ちながら、つましい生活をしていたのか。本人が死亡した今となってはその理由を知ることはできないが、1つ言えることがある。今後、中長期的に全国各地で同じような“事件”が起きても決して不思議ではない、ということだ。

 実際、日本では、この女性ほど極端ではないにせよ、不安なく暮らせるだけの資産と年収を手にしながら、消費を抑える富裕層が着実に増えている。

(出所:内閣府、総務省、第一生命経済研究所)

 総務省などによれば、年収1500万円以上の高額所得世帯の名目国内家計消費支出は、2000年の総額20兆円程度から急減。デフレによる物価下落の影響もあるとはいえ、2011年は約12兆円まで下落した。全世帯の消費総額が同じ期間、230兆~240兆円を維持していることを考慮すれば、全体の中でも富裕層の財布の紐が特に締まっている現実がうかがえる。

 打撃を受けている市場の代表が贅沢品市場だ。コンサルティング会社、米ベイン・アンド・カンパニーによれば、世界の高級品市場は2012年は前年比10%増と3年連続の2ケタ成長を達成する見通し。それに対し、日本市場の成長率は実質0%という。

(出所:仏キャップジェミニほか「ワールド・ウェルス・レポート」。 主な居住不動産を除いて100万ドル以上の純資産を有する個人の人数)

 富裕層が減っているわけではない。逆に格差社会の進展で増えているという調査もある。ワールド・ウェルス・レポート(仏キャップジェミニほか)によれば、100万ドル以上の推定資産を有する日本人は2004年の134万人から2011年には180万人を突破した。

 政権交代を賭けた12月16日の衆院選でも低所得者対策が争点の1つになるなど、社会の貧困化が急速に進む日本。そんな中、富裕層は、個人消費回復の牽引役として期待されてきた。企業も業績回復の突破口にしようと彼らのライフスタイルや価値観を研究し、様々なビジネスを展開している。が、マクロデータで見る限り、突破口、牽引役どころか足を引っ張っているのが実情、というわけだ。

 そもそもこの国で今、億単位の資産を持っているのはどんな人々なのか。なぜ、彼らは消費をしないのか。欧米とは異なる、日本独特の富裕層の姿を明らかにするとともに、その消費意欲を高め、企業業績と景気の回復につなげる方法を取材した。

日経ビジネス2012年12月10日号 26~27ページより

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