12月8日、6年ぶりとなる据え置き型ゲーム機「Wii U(ウィー・ユー)」を発売。スマートフォン向けゲームとは一線を画し、専業メーカーとしての姿にこだわる。ただ前期は上場来初の最終赤字に陥っており、新製品での巻き返しは最優先課題だ。

写真:宮田 昌彦
岩田 聡(いわた・さとる)氏
1959年生まれ。北海道出身。82年、東京工業大学工学部を卒業後、ゲームソフト会社のハル研究所に入社。93年、同社社長に就任。2000年、任天堂に入社。取締役経営企画室長を経て2002年5月から現職。42歳で任天堂創業家出身の山内溥氏の後を継ぎ注目を集めた。携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」、家庭用ゲーム機「Wii(ウィー)」のヒットで2009年3月期には過去最高益を更新したが、2012年3月期は上場来初の最終赤字に転落。立て直しを図る。

Wii Uの勝負は年明け後 3DS失速の教訓を生かして ヒットの好循環作る

 問 6年ぶりに据え置き型ゲーム機の新型「Wii U(ウィー・ユー)」を日本で発売します。手ごたえはどうですか。

 答 先行した米国を含め出足は好調です。日本では販売店で先行予約を受け付けましたが、事前に確保した分を売り切って予約を締め切った販売店も多かったと聞きました。

 ただ、ゲーム機は発売直後は大抵、売れますから今は一喜一憂しても仕方ないと考えています。年末商戦は好調だと見込んでいますが、問題はその後です。年が明けてもきちんと売れ続けるのかどうかが問われています。

 問 昨年発売した携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」は販売が伸び悩み苦戦しました。その教訓ですか。

 答 3DSは発売時、間違いなく“熱”がありました。ただ、持続できなかった。勢いのあるゲーム機には、ゲームソフトメーカーも魅力を感じます。そして、どんどん新製品を投入しようと考えるのです。ゲームはハードが先行して、その後にソフトが市場に生まれます。

 3DSではこの好循環を作れませんでした。逆に勢いを失い、悪循環に陥りました。「これは大幅な立て直しが必要だ」と判断して、1万円の値下げを含む思い切った手を打ったのです。

 お客様にゲーム機を買ってもらうのは「ゲーム機の未来を信じていただく」こと。信じられる未来を作るためにもまずハードに勢いをつけて、好循環につなげていくことが必要なのです。

 自分自身でも何か新しいことができないかと考え、ネットで「Nintendo Direct」を始めました。これは動画を通じて当社の製品の今後の展開を伝えるものです。利用者は、これから自分が楽しめるゲームはどういうもので、今までと何が違い、何が新しいのかを具体的に知ることができます。私自身、ゲーム開発者の出身なので、自ら動画に出演して作り手としてのポイントを伝えているつもりです。

 問 トップ自らがゲームの進化を見せていこうというわけですね。

 答 そうです。娯楽には、以前と同じ水準では価値がないと言われてしまう宿命があります。食べ物とは違う。人間は毎日お腹がすきますから、「食べたことのないものしか食べない」と言う人はいません。同じものでも、たとえ昨日よりおいしくなくてもお腹が減れば喜んで食べることがある。

 ゲームはこうはいかない。いつでも空腹なうえ、「食べたことのないものしかいらない」と言われているようなもの。「今までとはここが違う、ここが新しい」というものを徹底的に深く作り込むことで初めて、お客様が反応してくれるのです。

 問 2012年3月期は上場来初の最終赤字に転落し、今期も業績予想を下方修正する厳しい状況です。そうした中、Wii Uの販売価格は2万6250円に抑えました。ハードを売るほど赤字が増えるのではありませんか。

 答 Wii Uには、ゲーム機本体と無線で通信して遊ぶ「ゲームパッド」と呼ぶ液晶タッチパネル付きコントローラーがあります。テレビにつなぐ家庭用ゲーム機と携帯型ゲーム機の両方をセットで販売するようなものですから当然、製造原価は高くなります。

 ですが、採算優先で高い値をつけて買い控えが起こり、「(3DSのように)すぐに値下げするのでは」と消費者に思われることだけは避けたかった。

 それに新型ゲーム機の発売直後にハードだけで採算が合わないことは何度かありました。我々はハードだけでなくソフトも販売しています。ハードが普及すれば、ソフトの売り上げが伸びて業績に寄与します。

ハードが赤字でも普及を優先

 ゲーム専用機には、スマートデバイス、すなわちスマートフォン(高機能携帯電話)やタブレット(多機能携帯端末)などと違う特性があることもご理解ください。スマホやタブレットは1年間に何度も性能を上げた新製品が登場してきますが、ゲーム機は5年、6年は同じ製品を売り続けます。

 普及させるために、最初は少し価格で無理をしても、時間が経てば徐々に製造コストが下がって利益が出るような構造になっているのです。

 問 コントローラーに画面をつけたのはテレビとの関係を変えるためだと聞きました。

 答 据え置き型ゲーム機の宿命だった「テレビへの寄生」から独り立ちするためと表現しています。初代Wiiの販売から2度のクリスマス商戦が終わった2008年春、次世代機のコンセプトを考えるため、Wiiの問題点を開発陣と話し合いました。

 Wiiは8割の利用者が家庭のリビングルームの大画面テレビで楽しんでいます。家族全員が集まって一緒に体を動かす新しい遊びが生まれました。一方で、居間のテレビは家族全員の共有物でもあります。

 「テレビを見たいからどいてくれ」と言われれば、ゲームを続けることはできません。世の中でタブレットがこんなにブームになる以前から、テレビがなくてもゲームを中断しなくて済むようにと考え、我々は(タブレットのような)ゲームパッドの開発に取り組んでいたわけです。

 問 SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のように、ゲームを楽しむ利用者同士の交流機能を強化しています。

 答 自分の分身キャラクターでほかのゲームプレーヤーと交流する新機能「Miiverse(ミーバース)」がそうです。これも、どうすればもっとゲームを楽しんでもらえるかを考えて、生まれたものです。

 ゲーム機は発売当初は話題性があるので多くの人が遊んで盛り上がりますが、時間が経つと飽きられて、極端な話、押し入れに入れて遊ばなくなってしまう。ビッグタイトル(話題作)が出るとまたハードの「稼働」が伸びる。こうしたサイクルを描きます。

 Miiverseはプレーヤー同士がゲームについて遊び方を語り合う場があります。ここで交流することで、以前ならゲームに飽きていたタイミングで新しい遊び方を知ることができるかもしれません。また、試してみたいゲームについて事前に情報を得られます。

 今までもインターネット上で似たようなことはできましたが、情報の信頼性に問題がありました。MiiverseはWii Uの利用者向けの交流機能なので、本当にゲームで遊んだ人の発言なのか、遊んだことのない人の発言なのか、分かるようになっています。

 ゲームを長く遊んでもらえれば、ハードの稼働の落ち込みを少なくすることができるはずです。

 問 スマホやタブレットの普及で無料、あるいはかなり安価で遊べるゲーム市場が拡大しています。対抗策はありますか。

ゲームの価値を維持する

 答 私はゲーム制作者向けの会議で「ゲーム制作者は創作物であるゲームの価値の維持には徹底的にこだわるべきだ」と強調しています。

 音楽や書籍を見れば明らかですが、デジタル化した作品は価格がどんどん下がる傾向がありますから。そうならないよう、制作者は神経質であるべきだと考えています。無料や1ドル(約80円)程度のゲームの横に、我々のソフトが並んだ時に、価値の維持は難しくなるので、一線を画さないといけない。

写真:宮田 昌彦

 映画産業が好例です。テレビという「破壊的イノベーション」が生まれて産業としては衰退したという見方がある一方で、プレミアムな作品を作って米国のハリウッドは生き残っている。むしろテレビ登場以前よりももっと大がかりなことをやって、巨額の収入を上げていませんか。

 デジタル化で価格の“チープ革命”は進んだかもしれませんが、ハリウッド映画のような道もあるはずです。

 11月8日、任天堂は3DS用に「とびだせどうぶつの森」というゲームソフトを発売しました。3DSのソフトの中で一番早くミリオンセラーになるほどで、特に大人の女性に受けています。

 「スマホでゲームをするからゲーム機は買わない」。最もこうした消費行動が強いと見られていた大人の女性が、現実に3DSを選んでいるのです。

 かつて携帯型ゲーム機「ゲームボーイアドバンス」を販売していた頃、携帯電話が高機能化してゲームが遊べるようになりました。「ゲーム専用機を買う人などいなくなる」と言われましたが、結果はどうだったでしょうか。

 その後、「ニンテンドーDS」は大ヒットしました。任天堂のゲーム機にしか提供できない価値があれば市場で生き残るし、そうでなけば生き残れない。単純に何かと競争して勝つとか負けるとかではないと思っています。

 問 従来の携帯電話に比べてスマホやタブレットは格段に機能が高くなっています。ゲーム専用機の優位性は残っていますか。

 答 CPU(中央演算処理装置)の処理能力などハードの性能で比べると以前ほど、ゲーム専用機に優位性がないのは事実です。

 ですがゲーム機の価値はこれだけでしょうか。コントローラーの形状や操作ボタンの作り込みなどは当然違ってきます。我々はゲームを楽しむことを最優先に考えてハードを開発しています。スマホやタブレットは「ゲームも楽しめる装置」ですが、「ゲームのための装置」ではありません。

 単純に「スマホの登場=ゲーム専用機のピンチ」とは捉えていません。スマホに利用者の時間を奪われるとの声もありますが、目新しい指摘ではないのです。携帯電話でメールが普及した時も、他社がゲーム専用機を発売した時も言われました。

 最大の敵は別のところにあります。我々は常に消費者の無関心と戦っています。つまり、ゲームにどうやって興味を持ってもらうかです。スマホやタブレットの登場で環境は変わりましたが、本質は何も変わっていません。

 環境の変化に対応しないと言っているのではありません。スマホやタブレット向けのゲームを出すつもりはありませんが、ゲームの魅力を伝えるためには利用していきます。実際、Miiverseはスマホやタブレットでも閲覧できるようにする予定です。

競争環境は変わらない ソーシャルゲームはブーム スマホは情報発信に利用

 問 ソフトメーカーに目を向けると、スマホ向けのソーシャルゲームに注力する姿勢が目立ちます。

 答 ソフトメーカーは常に、どのゲーム機、どのプラットフォーム向けにソフトをどれだけ開発するか、それぞれの可能性に賭けて、世の中の動きに敏感に対応してきました。スマホなどにも可能性が広がっただけです。

 ビジネスモデルの変革は常に起こり得ますが、今のソーシャルゲームの異常な盛り上がりが、このまま中長期的に続くとは思えません。

 かつて日本の高性能な携帯電話、いわゆるガラケーに相当な経営資源を割いたメーカーもありました。今はスマホにシフトしていますが、ゲーム専用機向けに投じる資源を極端に減らすことはないでしょう。

 問 ゲームソフトの販売方法は最初は無料でのちに課金するフリー・ツー・プレーや月額課金、ダウンロード販売など多様化しています。

 答 メーカーとしては、今おっしゃったような販売方法に対して、できるだけ自由度の高い仕組みを提供した方がよいと考えています。現実に既に販売されているWii、Wii U用の「ドラゴンクエストX」(スクウェア・エニックス)は月額課金ですし、フリー・ツー・プレーを任天堂のゲーム専用機でトライしたいというソフトメーカーからの申し出もあります。時期など具体的なことは申し上げられませんが、可能性はあるということです。

 問 ソーシャルゲームでは利用者の射幸心をあおり高額な課金を得る「コンプガチャ」が社会問題となり景品表示法で規制されました。

 答 違法なものは当然認めませんが、法律で許されている範囲でゲームソフトメーカーが制作するものについて、我々が何かを強制するつもりはありません。フリー・ツー・プレーで面白いゲームを提供できるのであれば、我々も世に問うてみたいと思います。

 問 中国など新興国への展開は。

 答 人口が多く経済発展している市場は娯楽に使うお金も時間も増えてきますから、当然、我々にとって重要な市場だと考えています。中長期的にはしっかり取り組んでいきます。しかし今、重要なのは新製品のWii Uをきちんと立ち上げて、年明け以降も勢いを持続させることです。3DSも軌道に乗ってきましたから、既存の市場で販売を伸ばしていくのが先決です。

 問 多様な端末が登場して販売方法も変わっていく。その中でヒットを生み出す法則を導き出すのは、非常に難しくなっている気がします。

 答 ヒットを生む方法をお話しするなんて極めて傲慢なことで、我々はお客様がこれが楽しいのではないかと一生懸命考え、試行錯誤するだけなんです。自分たちで触ってみて、自分たちの感性で期待した通りに動いているかを確認するだけです。

 Wii Uにとてもわくわくしていますが、最後は、「こんなものを作ったのでぜひ試してみてください」とお客様に差し出しているのが本音です。

 一方でソフトメーカーに本気で取り組んで、いいソフトを作ってもらうためには、早く成功例を作る必要があります。WiiのヒットのおかげでWii Uへの期待は高まっており、早期にソフトを出したいというところがたくさんあります。失望に終わらせないよう、きちんと結果を出していきます。

 問 オーナーの山内溥相談役からは日頃、どんなアドバイスを得ていますか。

 答 大株主ですから、新聞で読んで初めて知るのは嫌だろうと思うことは、先にお伝えして相談していますよ。しかし、ああしなさい、こうしなさいというのは、驚くほど少ないです。多分、我慢されているんでしょう(笑)。

 ゲームのプラットフォームのサイクルと、決算で毎年、評価される収益を出していくのは相性が良くないと思うことがあります。ただ、目の前の決算の誘惑に負けず、お客様に喜んでもらえることと、中長期の会社の価値を高めることを重視したい思っています。

傍白
 「無料のゲームの横に、我々のソフトが並んだ時に、価値の維持は難しくなるので、一線を画したい」。エンジニア出身だけに、ゲームソフトの価値への強いこだわりが感じられました。恐らく、岩田さんが「『マリオ』をスマートフォンにも出す」と言えば、任天堂の株価は短期的には上昇するかもしれません。しかし、それは長期的には同社の価値を減じる行為だというのが岩田さんが言いたかったことなのでしょう。とはいえ、足元の収益にひと頃の勢いは感じられない。ファミコンの誕生から約30年。任天堂は正念場を迎えています。Wii Uの成否は、フリーの時代にコンテンツの対価がどこまで認められるかの試金石であり、それは我々メディアにとっても他人事ではない命題です。
日経ビジネス2012年12月10日号 118~121ページより目次