スマートメーターの普及が世界各地で本格化している。国内最大の顧客を抱える東京電力も、2014年度から導入を開始。家庭の機器などと連携し、省エネ化を図る自動技術の研究も進む。

 米国でトーマス・エジソンが実用的な白熱電球を発明したのが1879年。それ以降、世界のあらゆる場所に電力網は張り巡らされるようになった。近年では、環境問題やエネルギー不足の問題などを受けて、電力網全体の信頼性・効率性を高める次世代送電網への取り組みも始まっている。

2016年には1億台超の市場に

 この次世代送電網の中核となる「スマートメーター」の普及が今、世界各地で急速に進んでいる。北米や欧州を中心に普及し、日本でも段階的な導入が始まった。試験導入を含め、関西電力が約150万台、九州電力は約18万台を設置済みだ。国内最大の契約者を抱える東京電力も、2014年度から導入を始める。同社は2018年度までに、管内需要家の6割強に相当する約1700万台のスマートメーターを設置する計画だ。日本全体に関しては、政府が2016年までに、電力の総需要の8割をスマートメーターで対応できるようにする方針を打ち出した。

 スマートメーターの導入を検討しているのは、欧米や日本だけではない。例えばアジアでは、中国や韓国も導入計画を進めている。米国の調査会社IDCの調べでは、世界のスマートメーターの年間出荷台数は、2011年の2540万台から、2016年には1億4020万台に達する見通しだ。世界には17億台ものメーターが稼働していると言われるが、早晩その多くがスマートメーターになる。

 特に日本では、スマートメーターに対する注目度が高い。東日本大震災後の原子力発電所停止による電力不足を背景に、政府やエネルギー業界、家電業界、通信業界などが強い関心を持っている。東京電力が2012年3~4月にスマートメーターの仕様に関する意見を募集すると、88の企業などから482件もの意見が寄せられた。

 東京電力のスマートメーターは電力使用量を計測する「計量部」の仕様が決まり、現在は通信機能の仕様を策定中だ。既存の電力メーターを生産していた東光東芝メーターシステムズ、大崎電気工業、三菱電機、GE富士電機メーター、エネゲートの5社に加え、パナソニックも参入を表明している。

エネルギー消費量を遠隔検針

 スマートメーターの仕様は国や地域によって異なるが、求められる機能はほぼ共通している。「遠隔自動検針」「遠隔開閉」「エネルギー消費量の見える化」「HEMS(家庭用エネルギー管理システム)などEMSとの連携」、そしてこれらの機能の実現技術となる「双方向通信」という5つの機能だ。

 2000年代初頭にイタリアやスウェーデンで導入が始まった初期のスマートメーターは、「オートメーテッド・メーター・リーディング (AMR)」と呼ばれていた。AMRに必要とされる機能といえば、一方向通信による遠隔自動検針だけだった。

 AMRの主な導入目的は、事業者の検針業務のコスト削減と検針精度の向上による収益増加である。従来のアナログ式メーターは検針員がその場に足を運び、検針値を自分の目で読み取る必要があった。一方、AMRは赤外線などの通信機能を備えており、検針員がメーターに検針器をかざしたり、付近を通過したりすることで半自動で検針データを収集することが可能だ。

 半自動化によって少ない人数の検針員で広い領域を担当できることから、事業者にとっては人件費の削減になる。さらに、目視による検針のミスもなくなるので、事業者はより正確に使用量を把握できる。つまり、正しい使用料金を常に請求できるようになり、収益向上にもつながるわけだ。

 その後、AMRに双方向通信による遠隔操作機能が追加され、「オートメーテッド・メーター・マネジメント(AMM)」と呼ばれるようになった。遠隔操作の機能を追加した主な目的は、電力/ガスの不正使用を防ぐことである。メーターの不正操作などによる不正使用が起きた場合に、電力/ガス事業者はAMMを遠隔操作して速やかに供給を遮断できるようになった。

 ただし、こうしたAMRやAMMの導入目的は、いずれもエネルギー事業者にとってのメリットであり、需要家にとってはむしろ電気/ガス料金に転嫁される形で導入コストを背負う可能性がある。このため、スマートメーターに対する関心はエネルギー業界以外では盛り上がっていなかった。

 だが近年、世界的に環境やエネルギーへの問題意識が高まったことで状況が一変。先進国を中心に、需要家の多くが省エネを意識した消費行動を取るようになった。また、太陽光や風力といった再生可能エネルギー由来の電力が電力系統に流れ込む「逆潮流」により、電力系統全体が不安定になることも課題視されるようになった。こうした理由から、省エネ化や電力系統の安定化の手段としてスマートメーターを活用しようとする機運が高まっている。

 このような流れを受けて、新たに2つのスマートメーターの導入目的が見えてきた。需要家が電力やガスの使用量を逐次把握できるようにして使用の抑制を促すことと、電力/ガス事業者側や需要家側のEMSと連携して全体の需給バランスを最適化することだ。前者は既に一部の国で実用段階にあり、スマートメーターから情報を受け取って表示する宅内ディスプレーが米国などで製品化されている。

省エネ化の自動技術の研究も

 一方、後者については、全体の需給バランスに応じて需要家のエネルギー使用量を変更する「デマンド・レスポンス(DR)」のサービスが米国などで始まっている。また、DRを自動化する「オートメーテッド・デマンド・レスポンス(ADR)」の研究も活発化。中でも、米ローレンス・バークレー国立研究所が開発した通信データ・モデルの「OpenADR」は、米国の国立標準技術研究所(NIST)に採用されたことから注目されている。

 OpenADRでは、事業者のADRサーバーが「DRシグナル」を需要家側に送信する。DRシグナルでは、エネルギー消費の抑制依頼やエネルギーの価格情報、エネルギー系統の信頼性といった情報を通知し、それにどう対応をするかは需要家側に委ねられる。

 例えば、スマートメーターなどを経由してHEMSやBEMS(ビル用エネルギー管理システム)のコントローラーがエネルギー消費抑制依頼のDRシグナルを受け取ると、コントローラーが全体の抑制計画を立て、その計画に基づいて機器を制御する仕組みだ。

 日本でもOpenADRの実証実験が進められており、早稲田大学大学院先進理工学研究科の林泰弘教授を中心とする取り組みが始まっている。ただし、ADRの研究はまだ途上にある。

 例えば、スマートメーターとコントローラーの役割分担がその1つ。エネルギー事業者がADRを始めた場合、公平性の観点からすべての需要家が利用できるようにすべきだとの声がある。コントローラーしか機器を制御できないとなると、HEMSやBEMSを導入していない需要家はADRを利用できない。このため、スマートメーターに機器を制御する機能の一部を組み込む方法も検討されている。しかし一方で、機器の制御はすべてコントローラーに任せ、スマートメーターの機能は単純にすべきだとの意見もある。

 これまでスタンドアローンだったメーターが「つながる」機能を備える。そして、それが巨大な投資によってエネルギー管理のインフラとなる――。

 そのインパクトは電力やガスのシステムだけでなく、家庭、企業、家電、通信、EV(電気自動車)などにも及ぶ。スマートメーターによって築かれたインフラは、新たなサービスや技術が生まれ育つ「ゆりかご」になる。ADRは、その最たる例と言える。スマートメーターの進化とともに、「人々の快適性」と「省エネ」を両立する高度なADRのサービスや技術が登場し、それに対応する形でHEMSやBEMS、個々の家電、EVが進化する可能性もある。

(中島 募=日経エレクトロニクス)

日経ビジネス2012年12月10日号 80~82ページより目次