習近平新政権は、既得権益層に配慮した保守的な政策を志向すると見られている。だが、成長重視の経済政策が限界を見せる中、格差是正など課題は山積している。行政を担う注目の官僚が語る、中国が今後10年で克服すべき課題を紹介する。

 中国共産党は先日閉幕した第18回党大会で、2020年に国民1人当たりの所得、GDP(国内総生産)を2010年の2倍に引き上げる目標を掲げた。人件費が上昇し、かつ高齢化が進む中国において、目標達成にはいかに「中所得国の罠*1」を回避するかが課題になる。

*1=新興国において、都市化の進展などから安価な労働力の供給が細り、かつ市場の開放や民主化が進まないために国内経済の高度化が進まず、1人当たりGDPなどの経済指標が伸び悩む現象を指す

 1つの切り口は都市と農村の格差是正だ。単に農村への資源投入を増やせば解決できる問題ではない。名実ともに都市と農村の一体化を目指さなければ、成長の前提となる社会の安定を維持できないからだ。

 以下に挙げるように、格差を是正するための制度的な環境整備は途上だ。(1)労働力市場では戸籍や性別、年齢による差別が依然として存在し、人材のミスマッチが多い(2)人口政策が高い出生率を前提としており、高齢化や労働力不足が問題になっている(3)行政サービスが農村から都市へ人口が移動するスピードに対応できていない(4)優秀な人材を登用する制度がなく、イノベーションが起きづらい社会構造になっている──。

都市と農村の経済格差、制度差別は厳然と存在する(写真:Photoshot/アフロ)

 過去10年で国民の生活は大きく改善したが、一方で所得配分の不均衡は加速し、ジニ係数は高止まりしている。この是正には漸進的改良ではなく、トップダウンによる強い政策が必要だ。

 党大会では積極的な雇用政策を通じて所得の再配分を進め、公共サービスの均等化も図るとした。土地などの公共資源から上がる収益を公平に分け合う仕組みも取り入れるという。具体的には、以下のような政策が考えられる。

 まず土地や鉱物資源を開発する際には、法に基づきルールにのっとって事業を進めることを徹底する。権力の介入を運用で改善することは難しく、制度面で断ち切る必要がある。

 次に、既にある不合理な分配に対しては、税制により解決を図る。所得の再配分に効果のある相続税や不動産税などを早急に打ち出すべきだ。資源の不平等な占有により形成された収入については、累進性を高めることが必要だ。間接税が重く、直接税が軽い現行の税制は改めなければならない。

 2020年までに「小康(シャオカン)社会*2」を実現するカギが農村にあるのは明らかだ。

*2=多少ゆとりのある、まずまずの生活水準のこと。衣食には事欠かない「温飽(ウェンパオ)」と、豊かな「富裕(フーユィ)」の中間に位置する

 「三農(サンノン)問題*3」の解決が叫ばれて久しいが、農業、農村、農民からなる「三農」が、自ら三農問題を解決することはできない。農村の発展の遅れ、農民と都市住民の格差は、都市と農村で異なる2つの社会システムが運用されているという、三農の力が全く及ばないところに問題の根底があるためだ。

*3=農業、農村、農民がそれぞれ深刻な問題を抱えていることを指す。農業は近代化が遅れ現金収入を稼げず、農村は衛生や公共サービス、社会保障が立ち遅れ、農民は困窮していることを意味している

 三農問題の解決にはまず、都市と農村を社会保障の面から平等にし、農民が経済発展の恩恵を享受できるようにすることが重要だ。インフラや公共サービスだけでなく、年金や医療などの平等も推し進める必要がある。

 次に必要なのが戸籍制度の改革だ。都市部に出稼ぎに出ている「農民工」の転籍制度を確立すべきだ。農民工に公平な公共サービスを提供し、その子女の義務教育を保証することだ。これにより、都市への移住者にも社会保障を途切れることなく提供できる。

 第3に、農民が都市化に伴う土地の値上がり益を享受できるようにする。農村の集団所有地を国有地と同様に開発計画に参画できるようにすれば、農民が都市化、工業化の枠外に追いやられることはなくなる。

 第4に農業の高度化も必要だ。集約化、専業化、組織化、社会化された新たな経営スタイルを構築する。土地に関するルールを確立し、小規模な個人経営の農家から、ある程度の規模を備えた農場経営へと転換させていく。政府や企業などによる農業への進出を促し、農業の近代化や質、効率の向上を進めることも重要になるだろう。

 中国の政治改革はどこへ向かうのか。胡錦濤・前総書記による党大会の活動報告は「執政手法の改善に一層力を注ぐ」と述べている。取りも直さず、現在の政治体制から生じている歪みを修正する意思表示だと理解できる。

 具体的には、活動報告で政府機関に対する監督強化、とりわけ政府予算の審査・監督体制の拡充を挙げている。

 政府は収入と支出のすべてを全国人民代表大会(全人代、国会に相当)に報告してはいない。予算外収入や支出、社会保障に関する予算、国有企業の収支、土地の譲渡による利益などは全人代の予算に盛り込まれていない。

 活動報告は審査・監督体制を拡充する対象を「すべて」としており、これは上記のすべてが白日の下にさらされることを意味する。このことは政治改革にとって特別な意義を持つ。「財政の民主化」は「政治の民主化」を実現するうえで欠かせない要素だからだ。

2010年、中国の民主活動家・劉暁波氏へのノーベル平和賞授賞式は本人不在のまま執り行われた(写真:ロイター/アフロ)

 活動報告は、全人代の制度改革も重点課題だと指摘した。(2007年開催の)第17回党大会の報告では、都市と農村の人口比率に応じて全人代代表(国会議員に相当)を選出することを打ち出した。第18回党大会では新たに職業という切り口を加えた。これは、全人代代表のうち工場労働者や農民、知識人の割合を増やし、共産党幹部の比率を下げることを意味する。

 全人代代表にとって行政府の監督も職責の1つ。だが、官僚が全人代代表の7割近くを占めていてはチェック機能が働かない。将来的には全人代代表から全官僚が退くことが望ましい。

 非効率の温床とされる国有企業の改革について、活動報告は「経済体制改革の核心的問題は政府と市場の関係を適切に処理すること」という新たな発想を打ち出した。従来は「経済体制改革の要は国有企業の改革」という表現だった。今回、「市場」という極めて重要なキーワードが加わった。

 国有企業は会計基準や監査、企業再編などについては熱心に国際ルールへの適応を進めてきた。これも一種の「市場化」だが、企業の保有、ガバナンス構造の「市場化」は緒に就いたばかりだ。

 「経済体制改革の要は国有企業の改革」と提唱されていた頃は、企業と言えば100%国有企業だった。だが、現在は所有制度も多様化した。国民生活に多大な影響を及ぼす巨大企業がすべて国有企業である必要はない。

 「中央企業」と呼ばれる、中国を代表する上場企業の株式保有構造を見ると、親会社のほとんどが純粋な国有企業だ。昨年の全人代での政府活動報告でも指摘されたように、この親会社に民間資本を導入すべきだ。この目標は断固として推進する必要がある。

 同時に、中央企業などによる独占や寡占の解消も進めなければならない。一般に、独占や寡占解消に対する抵抗勢力は中央企業だと思われている。もちろん企業には既得権益があるが、改革を実行するか否かは企業が決められることではなく、国がどう改革を進めるかがカギとなる。中国では国が決断さえすれば解決できないことはない。

 不幸なことかもしれないが、国有企業改革の原動力が経済情勢の変化によりもたらされる可能性がある。国有企業が経営不振に陥れば改革に向けた問題意識が高まり、既得権益層の認識を一致させるのも容易になるからだ。

土地収用を巡り地元政府と住民が対立した広東省烏坎村(ウーカン)では「民主」選挙が実施された(写真:AP/アフロ)


 党大会の活動報告では「対外開放戦略を断固として進める」との方針を打ち出した。これは非常に正しい判断だ。これまで外資の導入が主体だったが、今後は中国の資本収支もバランスを取り戻していくだろう。つまり中国企業による海外直接投資が増える公算が大きく、規制は足かせでしかない。

 かつて中国企業による海外直接投資と言えば国有企業が中心だったが、今後は民間企業が多くを担うようになる。国有企業にとって重要なのは技術と資源だが、民間企業は技術だけでなく管理ノウハウを求める。これが中国産業の高度化に大きな役割を果たす。

 従来は沿海部や他国と隣接する地域が経済成長の中心だったが、今後は内陸部の重要性が増す。中国は国内の発展段階が均一ではなく、東部と中部、西部の格差が大きい。東部の斜陽産業を海外ではなく内陸部に移すことで発展のバランスを取ることができる。

 「国際収支のバランスを取り、世界経済リスクに備える」との提言は意義深い。世界的な債務危機はいまだ解決の糸口が見つかっていない。西側諸国は紙幣を増刷してこの危機をやり過ごそうとしている。世界最大の債権国である中国はいかに自国の権益を守るかという難しい課題に直面している。

 国際収支の均衡を保つことは中国経済のリスク削減にもつながる。中国は消費を経済成長の柱とするモデルを確立する必要があり、このためには金利と為替の市場化をさらに進めることが重要になる。金融市場の開放を進め、債券発行など資金調達手段を拡充しなければならない。付随して金融リスクへの対策を強化することも必要だ。

(「新世紀」2012年11月12日号©財新傳媒)

日経ビジネス2012年12月3日号 131~133ページより目次

この記事はシリーズ「世界鳥瞰(2012年12月3日号)」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。