巨大ハリケーン「サンディ」がニューヨークなど米北東部を襲ってから1カ月が過ぎた。特に被害の大きかったニューヨーク州での被害総額が推計328億ドル(約2兆7000億円)に達するなど歴史的な大災害となった。

 長期化した停電、地下鉄やトンネルへの浸水など、脆弱さを露呈した都市の災害対策について様々な意見が出ているが、それと並んで気候変動に対する議論が浮上している。こうした災害を想定していなかった地域にサンディのような巨大ハリケーンが到来したのは、地球温暖化による影響ではないのかという見方だ。

ハリケーン「サンディ」は米東海岸に大きな爪痕を残した(写真:ロイター/アフロ)

 まずビジネス誌「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」が、サンディが東海岸に被害をもたらした直後の号でこのテーマを取り上げた。表紙に躍るのは「IT’S GLOBAL WARMING, STUPID(問題は地球温暖化なんだよ、愚か者)」の文字。これは1992年の大統領選で当時のジョージ・ブッシュ大統領(父)に挑んだビル・クリントン氏の陣営が、争点を経済に引き寄せるために打ち出した「It’s the economy, stupid(問題は経済なんだよ、愚か者)」という有名な言い回しをもじったもの。記事では、温暖化によってハリケーンが強力になる確率が高まっていることなどを挙げ、警鐘を鳴らしている。

 同誌を発行するブルームバーグは、ニューヨーク市長を務めるマイケル・ブルームバーグ氏が設立した会社。同市長はサンディの直撃を受け、温暖化対策への取り組みを理由に11月の米大統領選でバラク・オバマ大統領支持を表明した。自ら影響力を持つメディアをも通じて地球温暖化への対応強化を訴えた格好だ。

 声を上げているのは市長だけではない。11月19日にはニューヨークの名門、コロンビア大学で「サンディ後~気候と東海岸の未来」というフォーラムが開かれた。

エネルギー自給期待は“逆風”か

 気候学者など5人のパネリストが、公衆衛生やインフラ、社会へのダメージといったサンディがもたらした影響について熱弁を振るった。パネリストの1人、ゴダード宇宙科学研究所のシンシア・ローゼンツヴァイク博士は「サンディは気候変動(議論の)大きな転換点となった」と指摘している。

 ただし、今回の大災害でこのまま米国が温暖化対策に力を入れ始めるかというと、逆に働きそうな流れもある。

 11月12日、国際エネルギー機関(IEA)が「2017年までに米国が世界最大の産油国になる」「シェールガスとシェールオイルの生産拡大などで、2035年までに米国は国内のエネルギーを自給できるようになる」との見通しを明らかにした。

 地下水の汚染など環境問題への懸念が指摘されるものの、頁岩層から天然ガスや石油を掘り出す「シェールガス」や「シェールオイル」への期待は高い。安価なエネルギーは国内産業の国際競争力向上やガソリン価格の抑制につながるからだ。

 温暖化対策の強化で化石燃料の利用に歯止めをかけようという話になれば、「米国に訪れたせっかくの好機に水を差す」と反対する動きも予想される。しかも、オバマ大統領が1期目に推進してきた再生可能エネルギー産業は順調に立ち上がっているとは言い難い。化石燃料から再生可能エネルギーへの移行は明らかに失速している。

 11月26日にはカタールのドーハで温暖化対策の国際枠組みを話し合う第18回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP18)が開幕した。中国と並んで温暖化対策に消極的な大国とされてきた米国は今後、どう動くのだろうか。

細田孝宏のコラムは日経ビジネスオンラインにも掲載します。
日経ビジネス2012年12月3日号 136ページより目次

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