「NTTドコモが市場支配力を行使し得る地位は低下している」「NTT東西が実際に市場支配力を行使する可能性は低い」――。9月に総務省が公表した「競争評価2011」の報告書で、私はこう指摘しました。約10年間にわたり総務省とともに通信業界の競争監視に携わってきましたが、NTTグループに対してこのように評価したのは初めてで各方面から反響がありました。

 総務省の指導によるSIMロックの解除やMNP(番号持ち運び制度)の導入でNTTの市場支配力が弱まってきたことは一定の成果ですが、その間に米国のグーグルやアップル、アマゾン・ドット・コムなど全くレイヤーの違うプレーヤーが出てきて、競争の軸は一変しました。

 我々が想定してきたのはネットワークの寡占による市場支配力です。光ファイバーが独占だから価格をコントロールされたら困る――こうした発想でNTTを監視し、許認可権で縛るということをしてきました。iモードのようなプラットフォームが登場しても、通信事業者に直結していたから監視の対象にできたのです。

 しかし、グーグルやアップルのような世界的プラットフォーム事業者が登場し、サービスや端末のOS(基本ソフト)を囲い込む中で、国内の通信事業者が太刀打ちできない状況が生まれてしまった。こうなることまでは予想できませんでした。

 例えばドコモは利用者の位置情報や購入履歴情報などをむやみに利用することができません。通信の秘密を守る規制があるからです。一方、グーグルやアマゾンに対する縛りは緩く、こうした情報をターゲットマーケティングなどで有効に利用しています。総務省が力を入れてきた規制が、結果的に通信会社を弱め、角を矯めて牛を殺す状況になってしまったのは全くの想定外だったのです。

 ドコモはタワーレコードや野菜宅配のらでぃっしゅぼーやを子会社化するなどM&A(合併・買収)を加速させ、「ライバルはアマゾンだ」と言っています。5年前ならこうした動きは脅威だったでしょうが、今は三段目の力士が横綱の白鵬に対戦しようというようなものでしょう。競争の枠組みが変わってしまったのです。むしろ白鵬と友達になったり、同じ部屋に入ったりすることを考えた方がいいのかもしれません。

 「競争評価2011」では、コンテンツから端末まで垂直統合でサービスを展開するグーグルやアップルが顧客を囲い込む不当な支配力を行使する可能性にも言及しました。報告書のために実施したアンケートでも一般ユーザーから懸念の声が上がっていたからです。

 しかし、総務省が管轄する国内法で、海外企業を実際の競争政策にどう当てはめるのか明確ではありません。NTTの支配力ばかり意識してきたので、規制する条文も権力も持っていないのです。

 20年間通信業界に携わってきましたが、正直なところ、反省と挫折感が残りました。今はスマートグリッドなど電力分野に関心が移っています。(談)

日経ビジネス2012年12月3日号 38ページより

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