(写真:村田 和聡)

 問 米グーグルや米アマゾン・ドット・コム、米フェイスブックなどインターネットの最上位層から提供されるサービスや、米アップルのiPhoneのような強力な端末に付加価値が移り、回線を提供するだけの通信会社(キャリア)のビジネスは土管化が進んでいます。

 答 世界中のキャリアが次のビジネスを模索しています。携帯電話会社は顧客1人当たりの通信収入が上がることを前提に競争を続けていますが、今のようなビジネスはいつまでも続かないでしょう。キャリアはまるでアップルや韓国サムスン電子の代理店のようになっている。将来の利益を当て込んで、安く端末をばらまいているようなものです。

 グーグルやフェイスブックのようなOTT(Over The Top)と呼ばれる企業は通信回線などどこでもいい、ネットワークフリーでサービスを提供したいと思っています。さらに、これらのプラットフォームの上でコンテンツを提供する人々は、OS(基本ソフト)さえフリーでやりたい。ではユーザーはどうか。端末からもフリーでありたいというのが本意だと思います。

 ネットワークも、OSも、端末もフリーになるという動きが普遍的なテーマとしてあります。次のステージではこれに注意しなければなりません。日本は3社とも同じモバイル高速通信規格であるLTE(ロング・ターム・エボリューション)を推し進め、うち2社が同じiPhoneを売っている。世界で一足先に、先ほど申し上げた状況に突入し、次のビジネスモデルをいち早く考えなくちゃいけない状況に直面しています。

iPhoneは短期的には効果

 問 NTTドコモはレコード会社や通販会社、野菜の宅配会社などを傘下に入れ、総合サービス会社に変身する意向のようです。

 答 現時点ではドコモの加入者にサービスを提供するためにやっています。まだネットワークの競争があるし、利益が出る以上そういったやり方を否定しません。しかしいずれ違った形にしていかないといけないでしょう。

 サービスを提供する側はドコモだけでなくソフトバンクやauの利用者にも提供したいでしょう。特定のキャリアにぶら下がっているビジネスなど誰もやりたくない。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で特定のキャリアだけサービスを展開したい企業などいない。

 ドコモは事業会社ですからは目先の戦いをする必要があります。ただ、持ち株会社としては次の戦いにも備えたい。

 問 もう少し詳しく言うと?

 答 キャリアと顧客という分け方ではなく、すべての端末に提供するということです。極論すれば、別のブランドを作って別の会社でやってもいい。競争の土俵が変わるはずです。いえ、変わるのではなく、変えていくのです。

 問 ドコモは頑なにiPhoneなしの路線を貫いていますが、そうした生態系を作るうえでiPhoneの存在を受け入れ難いのでしょうか。

 答 従来のキャリアの土俵で独り相撲しようとするならiPhoneは危ないパートナーかもしれません。ネットワークをフリーにして、アップストアを独占的な立場にするのがアップルの考え方です。共存できると見るか、全く相容れないと見るか。これから考えていけばいい。

 問 足元の顧客流出ではかなりの苦戦が続いています。iPhoneを扱えば流出を止められるのでは?

 答 今日明日の競争を考えるのなら非常に有力な端末だが、自分たちが考える次のモデルの時にはどうか。仮に「iPhone 10」まで出たとして、競争力は今のように続いているでしょうか。米マイクロソフトが「ウィンドウズフォン8」でどう挑むか? グーグルはどうするか?

 短期的な見方に立って扱い始めれば、“2年間縛り”が終わった後にドコモに戻ってくるユーザーは多いでしょう。2年ごとに動いていくユーザーを相手にするビジネスならそういう選択肢もあるでしょう。一方で、長期に使ってくれているユーザーを大切にするビジネスにしなくちゃいけないという思いもあります。

固定・携帯で知恵を出す

 問 KDDIはスマートフォンと固定ブロードバンド(高速大容量)をセットで割り引く「auスマートバリュー」で攻勢をかけています。

 答 NTTに技術的にできないのであれば参りましたと言いましょう。なぜ同じようなサービスが我々にできないのか。技術的に劣っているのではなく、過去の電話時代の規制の名残のためにできていないだけです。

 (KDDIは)過去の規制を逆手に隙を突いているだけです。今の規制が残っている限り、仮にシェアが高くなれば我々と同じような規制がかかり、KDDIにもできなくなるのです。

 電話時代にNTTに「ハンディ」を負わせる非対称規制があったのはしょうがない。しかしハンディがなくなったのに規制だけが残っている。ライバルができるサービスがNTTにはできない。それでは何のための規制でしょうか。規制はNTTや競合企業のためにあるのではありません。ユーザーのためです。規制改革は時間がかかりますが、それでもやるか、あるいは知恵を出して同じことをやるかです。

 問 自前主義を脱却すると表明してアナリストなどから評価を得ています。

 答 基本的には自前主義をやめようということをグループ各社と合意しました。NTTには一貫性のある設備やサービスを作りたいというDNAがあり、ややもするとほとんど自前で作っていました。なぜ自前で打たなければいけないのか。クラウド時代には、いいサービスは借りてでも使えばいい。いい設備は借りてでも自分の設備として利用すればいい。

 そういう意味でドコモは携帯電話基地局から端末まで最もNTTのDNAが濃く、自前主義が強かった。これからは私が声を上げて脱自前主義を進めていきますし、ドコモの中でも分かっている人がたくさんいます。

行間を読む

 「久々に、自分の言葉でしゃべる、顔の見えるNTTトップの登場だ」。11月8日、NTTの2012年度第2四半期決算説明会に出席したあるアナリストはこう鵜浦博夫氏を評価する。鵜浦氏はNTTにありがちな原稿の棒読みではなく、スライド1枚で2時間にわたる説明をこなした。海外投資家のために同時通訳が用意されたが、鵜浦氏が打ち合わせにないアドリブで受け答えするため通訳が困惑していたという。

 説明会で「自前主義をやめる」とか、「2016年3月までに売上高設備投資比率を15%に抑える」と明言したことが好感され、翌日の株価は150円値上がりし3725円となった。「本当に基地局の費用を削減できるのか」と問われると「今月中に工事会社に話に行く」と行動力を見せ、アナリストを驚かせた。

 NTTは伝統的に24万人の組合員と対峙する労務畑や、技術畑が社長を輩出してきたが、鵜浦氏は本流ではない「人事畑」。6月のグループ社長交代でNTTドコモ、NTT東西、NTTデータに新社長が登場。いずれも鵜浦氏の年下で、企画部門時代に「一緒に仕事をした仲」(鵜浦氏)だ。グループに遠心力が利きすぎ、効率の悪さが指摘されていたNTTに強力な司令塔が立つことになる。

 加入者が争奪されているドコモが米アップルの「iPhone」の販売を解禁するかどうか注目が集まるが、鵜浦氏はしっぽを見せない。ただ「iPhone 10まであるだろうか?」という言葉は、アップルへの強烈な皮肉ではなく、わずか数年間で状況が一変するIT(情報技術)の世界に翻弄されてきた鵜浦氏自身の経験から出た言葉と読み取ることもできる。

日経ビジネス2012年12月3日号 34~35ページより

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