世界的グループに成長した韓国LGを1990年から10年以上支えてきた日本人がいる。会長、社長とともに経営改革を断行し、成長の仕組みを作り上げた。「日本のトップは、後発から這い上がり生き抜いてきた彼らの姿を学ぶべき」と話す。

写真:陶山 勉
赤羽 雄二(あかば・ゆうじ)氏
東京大学工学部を1978年3月に卒業後、小松製作所(現コマツ)で建設現場用の超大型ダンプトラックの設計・開発に携わる。86年、マッキンゼーに入社。90年から10年半にわたってフルタイムで韓国企業、特に財閥の経営指導に携わる。2002年、ブレークスルーパートナーズを創業。情報通信・IT・半導体などの分野のベンチャーを支援。そのほか経済産業省「産業競争力と知的財産を考える研究会」委員、総務省「ITベンチャー研究会」委員、総務省「ICTベンチャーの人材確保の在り方に関する研究会」委員などを務める。現在、1社当たり500万円出資、オフィス・サーバー無料提供のインキュベーターである、ブレークスルーキャンプ by IMJ 運営統括。ブログも運営。

 日本の大企業は復活できるのか。赤羽雄二氏にこの質問をぶつける理由は、国内外の大企業再建に携わってきた実務者だからだ。コマツの技術者を経て、1986年からはマッキンゼーで韓国LGグループの経営改革に取り組んできた。LGでは、10年もの長期にわたり、トップとともに改革を推進。いわばLG躍進の陰の立役者である。2000年からは日本のベンチャー育成に注力してきたが、今年からは再び、大企業の課題解決にも着手し始めた。「いよいよ日本が危機的になってきた」からだ。

 「我々の技術力、商品力はまだまだレベルが低い。だけど夢は大きいし、やり遂げる自信もあります。だから、ぜひ手伝ってほしい」

 LGグループのトップたちは皆、驕りもなければ卑屈さもなく、ただただ驚くほどのハングリー精神と真剣さ、真摯さで協力を求めてきました。「こんなトップたちがいるのか」。私はその姿勢に本当に感銘を受けたのです。

 1990年から2000年まで、私は韓国LGグループの経営改革に10年半取り組みました。LGグループは今でこそ世界的なグループであり、携帯電話や家電、FPD(フラットパネルディスプレー)、リチウムイオン電池などで圧倒的な存在感を誇ってますが、1990年当時には、はるかに低いイメージしかありませんでした。それを、先代会長、現会長、多くの社長が先頭に立ち経営改革を推進してきたのです。

 マッキンゼーは会社トップへのコンサルティングの会社ですが、現実には巨大企業の場合、会長、社長と直接取り組む案件ばかりではなく、事業部長クラスがクライアントになるケースが大半です。それだけにLGグループへのコンサルティングは、本来のトップマネジメントコンサルであり、非常にやりがいがある貴重な経験でした。

 マッキンゼー社内でも人気のプロジェクトで、私が世界中から100人以上のコンサルタントを呼び集め、入れ代わり立ち代わり参加していただきました。LGグループ各社からも最優秀の人材を数人ずつ推進本部に派遣してもらい、合計30人のチェンジエージェント(変革の担い手)集団を作りました。すべてのマッキンゼープロジェクトに彼らを1~2人ずつアサインしてコンサルタントと全く同様に、問題把握・問題解決力を養うためのトレーニングと実践を積んでもらいました。ユーザーインタビュー、データ収集、分析、報告書作成、組織改革、実行支援すべてです。その後、今度は彼らを核に、50社それぞれにビジョン推進チームを作り、平均10人程度の新たなチェンジエージェントを育成し、数百のプロジェクトを実施し続けました。

 トップマネジメントコンサルティングの場合、マッキンゼー以外の会社でもそうだと思いますが、通常、我々がプロジェクトを実施し報告書を出す段階でいったんは終了になります。このため、クライアント社内で吟味した結果、結局は実践しないケースも多いのです。数千万~1億円を超すコンサルティング報酬は何のためだったのか、ということになりがちです。

 ですが、LGグループの経営陣は違いました。「提案を受けたことはすぐやる」「すべてやる」と言って、即実践していました。そうなると、提案作りから一緒にやっているわけですから速いです。電光石火です。

 強く印象に残っていることが1つあります。先ほど申し上げたように、LGグループの経営改革チームはマッキンゼーのコンサルタントとLGグループ各社から選抜された社員で構成されます。マッキンゼーのコンサルタントには同じ社内の人間なので厳しく指導しましたが、LG社員はお客様だったので、最初は私も遠慮して接していました。

 その時、推進本部のチームリーダーで後にLG電子のCEO(最高経営責任者)になられた方が「赤羽さん、なぜ私の部下を差別するのですか。もっともっと厳しく指導してマッキンゼーのコンサルタントを育てているように徹底的に育ててください」と強く求めてきました。自分の部下を育てなければただではおかないぞ、というこれ以上ない真剣な姿勢でした。

 その時から彼らへの私の接し方が激変したのは言うまでもありません。選ばれたメンバーの目の色も変わりました。最高の成長機会を生かし、プロジェクトリーダークラスになったら、月給の12~18カ月分(通常は6カ月分)のボーナスが支給される特別待遇も導入しました。これは、私が交渉して作り上げたものです。やがて彼らはLGグループ十数万人中のエリートになりました。

 最初は、推進本部に優秀な社員を出すことを渋っていたグループ各社の社長も、半年ほどすると見違えるようになって帰ってくることを知り、必要以上に派遣するようになりました。こうやって、LGグループは、高いフィーを払ってマッキンゼーを雇いながら、その何十倍以上の成果を出すべく最善手を尽くし、その果実を勝ち取ったのです。グループ各社がプロジェクトメンバーとして社員を推進本部に送り込み、グループ全体で数百人を投入し、大成果を上げました。今日の躍進は確実にその結果です。

 こういった大規模な活動をするうえでは、組織の反対やノイズも大きかったと思いますが、LGのトップは中心となって活動している私には一切ノイズを入れず、大きな成果を出すことだけ求め続けました。社員にも最高速度で成長すること、あらゆる施策を徹底的にやり遂げること、私から何もかも吸収することを求めていました。

 あの10年間、私はリーダーとして月曜日の朝、韓国に行き、金曜日の夜に日本に戻ってくる生活を続けました。家族は大変でしたが、それだけハードな生活に耐えられたのは、彼らのあまりにも真剣な態度に応えようと思ったからです。

日本企業の経営力は低い

 では、今の日本はどうでしょう。トヨタ自動車などの自動車産業、パナソニックなどの家電・電子機器産業、日立製作所などのシステム・機器産業、新日鉄住金などの製鉄産業…かつて輝いていた企業たちは皆元気がありません。日本国内では雇用の源だけに、倒れれば大変です。

 確かに今の日本は円高、震災ショック、エネルギー不足、世界経済の減速、中国問題など外的な悪材料が揃っています。ただ、それは低迷のきっかけにすぎません。最近、私は「経営力が低下したのではなく、実はもともと日本企業は経営のレベルが低いのでは」という仮説を持ち始めています。

 元来、日本は村社会をベースにしています。村で暮らす人たちにとっては、チームワークが大事で、強い自己主張をせずに協力し合うことをよしとしてきた社会です。それに加えて、手先が器用で、徹底的に工夫することも厭わない人が多い。種子島の鉄砲のように、あっという間に見よう見まねで大量生産できる高い能力があります。箱庭、盆栽など、限られた空間でのきめ細かな工夫を重ねることもできます。集団での力強さは、高度成長期の大量生産体制では遺憾なく発揮されました。

 ですが、だから日本のリーダーが優れているのかと言えば実は違うのではないかと最近は考えています。このところの大企業リーダーの体たらくはご存じの通りです。戦略がお粗末。軍に例えれば兵站の混乱、諜報戦の感度の低さなど、ダメなリーダーが指揮する組織の典型です。

 日本はチームワーク、団体行動が重要な大量生産は得意でも、成熟期の方向転換、不確実な時代での舵取りは苦手なのではないでしょうか。

 リーダーの問題以外にも、社会全体の保守性の問題があります。不思議なことに、日本はリーダーがいなくなり、「上」がいなくなった混乱期だけ、若者が出てきて元気になるのです。幕末の混乱、終戦直後しかり。日本は組織、社会としての「上」がいない時に成長するわけです。戦後成長してきたのも、年寄りたちがいない混乱期ゆえ、誰もがチャンスがあったからです。ライバルとなる国も周辺にはいなかったし、米国の購買力が一気に伸びた時代です。この追い風に乗って輸出で急成長し、終戦23年後の1968年にはGNP(国民総生産)が資本主義国家の中で世界第2位になりました。

 しかし、事業を大きく右から左に転換する大胆な意思決定で成功した企業は、実はそれほど多くなかったのではないでしょうか。ですから「昔の日本人経営者は素晴らしいのに、今の連中はなぜできない」と言うのも、ちょっと違うのかもしれません。日本人は、あるいは日本人の組織は、今の大企業が必要としているような経営の舵取りに必要な意思決定、ダイナミックな方向転換、システム構想力、商品企画力が本質的に弱いと見ています。

『道はひとすじ』。LGの前会長が綴る改革史。20年前の本で、韓国ではベストセラーになった

 多くの日本人が後発と見ていた韓国のサムスンなどは、経営者が果敢に決断をし、事業を発展させてきましたし、携帯電話などでも企画力・開発力が高く成功しています。サムスンもLGも、多くの技術・部品を日本に依存しながら最終商品では日本企業をさっさと追い抜いていきました。日本企業の企画力の弱さが露呈してきたのです。

 「弱点」があるのは仕方ないことです。どの国にも強みもあるけど、弱みもある。今私たちにできることは、日本企業の経営力、商品企画・開発力はレベルが低いという自覚をもって、驕ることなく本気で変わろうとするしかありません。痛みの伴う決断をし、真剣に取り組むことです。私の知っている欧米の一流大企業、韓国の一流財閥などに比べ、日本の経営者の本気度、徹底力、経営改革貫徹力は低いのです。

日本の大企業も変われる

 しかし、日本の経営者の意識が変わり、果敢に立ち上がって、決めるべきことを決め、取るべき責任を取り、官僚的な組織を壊し、しっかり旗を振るようになれば大企業もかなりのスピードで変わります。方法論は明確ですし、確立しています。

 まずは足場固めとして、既存事業のビジョン・戦略・ビジネスモデル・組織を時代に即して整理し直し、1年後、2年後、3年後の目標を設定し、選択と集中、商品企画・開発力の強化、グローバルな開発・マーケティング体制構築を進めるべきです。

 新事業に関しては、社長直属か、あるいは副社長か事業本部長直属の新事業立ち上げチームを複数置き、市場導入まで、社内での開発競争を促すとよいでしょう。チームリーダーには経営者の視点で、部下に徹底的に要求し、議論し、最善の手を打っているかどうか、とことん追求させねばなりません。それがトップの責任です。

 社長がその気になれば、新事業のチームリーダーに、熱意、向上心、柔軟性のある責任者を任命することができるはずです。強力な推進・支援体制を構築して、アクセルを一気に踏むこともできるでしょう。LGグループは今の日本の大企業よりはるかに不利・不安な状況から全力疾走を続け、真剣勝負を続け、今の地位を築きました。もちろん、今もアクセルは踏みっぱなしのままです。

 新事業を進める時には、注意すべき点がいくつかあります。例えば、既存事業のメンバーが新事業部門の足を引っ張ることが起きるはず。表だって引っ張らなくても、土地勘のない領域での新事業で不安な立ち上げメンバーの心を折る発言は容易にできます。本人たちに自覚はなくても、悪意のある発言となる場合もあります。

 従って新事業は既存事業から隔離した場所で立ち上げを進め、他事業のメンバーとの接触を絶つことが大事です。米IBMがPC(パソコン)事業に進出した際の例を持ち出すまでもありません。

 また、新事業であるがゆえに、必要なスキル・人材・経験・文化が社内に存在しないことがよくあります。だからこそ気骨のあるプロジェクトリーダーを選び、現場に最大限権限を与え、最速で外部から人材を確保し、事業を推進できる環境をつくらねばなりません。この時、事業を成功させた経験のない管理部の人間に「管理・支援」をさせるとかなりの確率で足を引っ張ります。そういった管理部の人間がどんなに好意的・良心的に接しても、新事業のスピードをそぐ方向になりがちだからです。新しい分野での新事業立ち上げは、管理部ではできません。特に、管理部で口がたつ人は要注意です。新事業立ち上げの責任者は容易にやり込められてしまったり、管理部の人の自己満足や保身のために、延々と資料作成をさせられたりしています。

社員の心理を織り込んだ改革案

 もし、社長がこういった新事業立ち上げの旗振りをしない場合、下の人間は悩んでしまいます。プロジェクトリーダーを厳選して、複数の新事業プロジェクトを立ち上げ、それを新事業支援チームで支援しつつノウハウを蓄積し、外部のノウハウも積極的に導入する。それ以外に改革を成功させる手はありません。

 社長が率先垂範し、反対を押し切り、実績を出せば、周囲の見る目が少しずつ変わってきます。ある時点を超えると、本当に雰囲気がガラッと変わってくると思います。その時、日本の村社会は大きく変わり、付和雷同型で雪崩を打って変わっていくと思います。

 うちの社長はそういったことはとてもできない、と社長室長、執行役員が心配する大企業がほとんどかもしれません。そういった社長は本当はすぐ交代していただきたいのですが、それがかなわない場合、会社として新事業立ち上げにどう取り組むべきかのガイダンスを十分に整備することです。研究開発を成功させたり、新商品をヒットさせることに比べはるかに簡単です。

 私は、LGグループの改革の際、大人数の経営会議で社長が大テーブルの端に座っていたのを真ん中に座っていただいたり、社長がジャケットを脱がないと誰も脱げないので、脱ぐようお願いしたりもしました。「寒いかもしれませんが、ジャケットをお脱ぎいただけますか?」とまで言ってです。このレベルのアクションを数百積み重ねることで会社は変わります。

 リストラや提携など、再建プランを描くことは外部の専門家でもできますが、組織にいるのは人間です。実際に成功させるには、社員の心理を織り込んだ実務プランが必須です。人間心理、社会学を無視した再建などありません。例えば、日本では、新事業チームを結成しても、なかなか最適な人材を集めることができないものです。それで余っている人材だけでチームを構成することも多いのですが、そういうチームが真剣勝負をし、背水の陣で臨むことは期待しづらい。

 多くの会社では、死に物狂いで頑張っても、あるいは普通に仕事をしていても、昇給にも昇進にもあまり関係ないことが多い。逆に、失敗すると評価が下がる。これでは、新事業立ち上げに全力投球しようという人は現れません。社内ベンチャーも難しい。ベンチャーとは名ばかりで、何もリスクがない中で活動しているだけでは、命を懸けた取り組みには到底なり得ません。

 その意味では、新事業としての立ち上げを図る研究所や事業部のチームを、そのまま100%子会社として分社化し、しばらく別会社として運営するというやり方が日本ではいいのではないかと考えています。

 従来のような「ポストのために作る戦略性がない」子会社ではありません。100%子会社でもちゃんと別会社として経営する会社です。リーダーが育ち、経営できる人材が育ちます。経験を重ねるうちに、見違えるほど成長し活躍する社長が生まれてくるはずです。やがて、その会社に「出資したい」と言う外部企業や投資家が登場し、資金調達の可能性も生まれます。

 この時、経理・管理部門は本社で一括するなど、子会社のコストはなるべく抑えるようにすることも大切です。追加コストを最小化し、新事業立ち上げ支援チームにも問題把握・解決力の高いメンバーを入れ育てて支援すれば、新事業を成功させる確度が高まってくると思います。会社として新事業立ち上げスキルが格段に上がります。

 私が提案している100%子会社化は、あくまで「新事業」にフォーカスしたものです。既存事業の経営改革と、有望な新事業立ち上げは、確実に成果を出せます。経営者がコミットし、腕まくりして取り組んでいただければ本当にうれしく思います。

(構成:瀬川 明秀)

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日経ビジネス2012年12月3日号 96~99ページより目次