『新幹線お掃除の天使たち』
遠藤 功(えんどう・いさお)
あさ出版
1470円
ISBN978-4-86063-547-3

(写真:スタジオキャスパー)

 本書は東日本旅客鉄道(JR東日本)管内の新幹線の清掃を主な業務とするJR東日本テクノハートTESSEI(テッセイ)の現場力について描いている。

 東北・上越新幹線の発着の際に、揃いのユニホームを着てきちんと整列している一団を見たことがある人もいるかと思う。彼ら・彼女らこそ、本書の主役である。約半分は体験談で綴られており、速い人なら数時間で読了できるだろう。

 「わたしはこの会社に入るとき、プライドを捨てました。でも、この会社に入って、新しいプライドを得たんです」

 このコメントは体験談の一節である。清掃の仕事を恥ずかしいと思っていた人が、なぜ新しいプライドを得ることができたのか。しかも彼らはチームを組み、わずか7分間で完璧に車内清掃をこなす。どうやってこうした強いチームを育て上げたのか。

 同社は約820人の社員・パートで構成され、平均年齢は52歳。その半数が女性。言い方は悪いが、いわゆる「パートのおばちゃん集団」だ。だがその仕事ぶりは海外メディアを中心に注目を浴び、本誌「日経ビジネス」の表紙も飾った。

 もっとも、数年前まで同社は「普通の会社」だったそうだ。与えられた仕事はそつなくこなすが、それ以上のことはしない。JR東日本のグループ会社として安定した仕事があり、新しいことに挑戦する意欲や熱意が欠けていたという。

 そこに着任したある人物が、社内に蔓延する「自分たちはしょせん清掃員」という後ろ向きの意識や、経営陣と現場との距離の遠さ、一体感のなさを感じ、「テッセイをトータルサービスの会社にしたい」と考えた。

 やる気のあるパートを正社員に登用する人事制度をはじめ、様々なプロジェクトを立ち上げスタッフ同士で話し合う場を設けた。自分自身の中に問題意識を持たせ、経営陣も課題の改善に協力する。それらを「エンジェル・リポート」として形に残しているところも自発性を促す仕掛けとなった。今年は権限を現場に委譲するプロジェクトも立ち上げ、さらなるステップアップを促しているという。

 本書を読むと、「組織改革」「人事改革」「意識改革」それぞれについて、段階を追って施策を打ってきたことが分かる。適切に組織を活性させ、現場力を高めるための指南書として活用できるだろう。

 もっとも、改革は一朝一夕には進まない。2500日もの歳月をかけて、現場と向き合うことで強いチームを作り上げてきたのだ。

 私たちファミリーマートも2005年に全社員が参加する「ファミリーマートらしさ推進活動」をスタートさせた。自分自身で考え、やらされるのではなく、自発的な行動を促すワークショップである。2009年にはアルバイトも参加する「加盟店ワークショップ」にまで拡大した。

 当社には全国で十数万人のアルバイトスタッフがいるが、その日々の働きの積み重ねが1兆円を超える売り上げを生み出してくれる。彼ら・彼女らをどう戦力化するかが加盟店、そして本部の利益につながってくるのである。立派な戦略・戦術を描いても、現場の戦闘力が伴わなければ絵に描いた餅にすぎない。

 著者は最後に「現場に対するリスペクトは、輝く現場を生み出す起点なのです。リスペクトを感じた現場は、実行主体としてのプライドをもち、意欲的に仕事に取り組み始める」と指摘している。本書の肝はまさにここにある。つまり、人を動かすということは、人の心を動かすことにほかならないのである。そのことを改めて感じさせる1冊だ。人を動かす立場にいる人に、ぜひ読んでいただきたい。

日経ビジネス2012年12月3日号 62ページより目次