習近平総書記が率いる中国共産党の新体制が発足した。保守派の江沢民氏に近い人が最高指導部の過半数を占めた。格差縮小などへ向けた改革が停滞する恐れがある。

 習近平総書記が率いる中国共産党の新指導部が11月15日、発足した。派閥間の激しい権力闘争の結果、元総書記の江沢民氏らが優勢となり、最高指導部の政治局常務委員7人のうち4人を江沢民氏に近い人たちが占めた。積極的なインフラ投資で経済を急成長させ、利権を通じて自分たちの勢力も拡充。既得権益を脅かす政治・経済改革に後ろ向きと言われる江沢民路線が今後も続けば、中国の成長戦略は5年後にも行き詰まるとの見方が出ている。

 「腐敗し大衆から懸け離れた幹部がいる。党は厳しい試練に直面しており、団結して的確な答えを出す」。11月15日、習近平氏は総書記就任演説でこう述べた。「現実をしっかり踏まえたいい内容だった。少し期待が持てる」(30代の中国人)と感じた人も多かったようだ。だが、常務委員の構成を見ると、習近平氏がリーダーシップを発揮して改革ができる体制とは言いがたい。

 常務委員のうち、上海市党委書記の兪正声氏ら4人が、江沢民氏直系の上海閥や、有力政治家の子息からなる太子党でも江沢民氏に近い人で占められた。習近平氏も、父親が元副首相という育ちの良さなどから大胆な改革はしないと踏んだ江沢民氏らの支持で、総書記に上り詰めた経緯がある。

 前総書記の胡錦濤氏は、深刻化した格差拡大や環境破壊など急成長のひずみを正すため「和諧社会」を標榜。景気の過熱を抑えるとともに、環境対策への貢献度を地方政府幹部の重要な評価基準にして、成長優先の考えを改めようとした。だが「上海閥などの抵抗もあり、十分な成果を上げられなかった」(日本政府関係者)。常務委員会は多数決制だ。胡錦濤氏が退任し、江沢民氏に近い人たちの勢力が増せば、少なくとも5年後の党大会までは、江沢民氏の意向が通りやすい体制が続く。

人民大会堂で11月15日、新しい常務委員が紹介された(左が総書記に就いた習近平氏)(写真:AP/アフロ)

5年後にもマイナス成長の恐れ

 経済運営はどうなるのか。ニッセイ基礎研究所上席主任研究員の三尾幸吉郎氏は、江沢民氏らが主導権を握れば「投資や成長重視に傾く」と指摘する。だが「このままなら5年後にも経済は行き詰まり、マイナス成長に陥る恐れもある」と警告する。

 この見方は中国専門家の多くに共通する。日中産学官交流機構特別研究員の田中修氏は「2010年代後半の中国の金融状況は1980年代後半の日本に似てくる」と見る。日本は金融自由化を受けて不動産や大企業の設備投資が急拡大。その後、バブルが弾け不況に陥った。中国でも金融自由化が始まっており、2010年代後半には加速されるだろう。これに投資拡大が加われば景気が過熱。「2017年にもバブル拡大・崩壊が現実味を帯びる」。国民が十分に豊かになる前に「ハードランディング」を余儀なくされれば、社会不安が広がり政権基盤すら揺らぎかねない。

 巨額投資を牽引役にした成長戦略は限界にきている。2008年のリーマンショック後に打ち出した4兆元(約50兆円)の景気対策は、一時的に景気浮揚の効果があった。だが、国有企業を中心にやみくもなインフラ・増産投資が広がり、鉄鋼などの生産過剰が深刻化。融資や投資に資金をつぎ込んだ地方政府の財政も悪化し、エネルギーの浪費や環境破壊にもつながった。

対日強硬路線も続く

 日本総合研究所主任研究員の三浦有史氏はこの状況を「燃料が漏れているエンジンをガンガンにふかしている状態」と表現する。労働力の供給がピークを迎え、潜在成長率が低下すると言われる中、新たな成長の原動力を育てるには「独占的で非効率な国有企業を優遇する規制を緩め、新しい企業を育成することが大切」と指摘する。

 中国は産業構造の転換や消費を発展の原動力にするなど、新しい成長モデルへ切り替えなければならない大切な時期に入っている。それにもかかわらず、改革に消極的と見られる指導者を多く選んだ今回の人事は、中国にとって「リスキーだ」と田中氏は言う。

 「改革開放」を唱えた鄧小平氏の発展モデルは、巨大な市場を武器に外資などを呼び込み、投資主導の成長を果たした。貧しい人たちを数多く抱えた以前の中国では効果的だったが、改革開放が始まって30年以上。格差拡大など多くの矛盾も噴出している。改革が遅れ、経済が行き詰まれば、日本へも大きな打撃を及ぼしかねない。

 対日関係はどうか。江沢民氏は総書記時代に反日教育を広め、根深い反日感情の基盤を作った。沖縄県・尖閣諸島問題に端を発した反日行動も、江沢民氏が後ろで糸を引いていたとの見方がある。新しい常務委員の構成を見ると「しばらく日本に甘い態度は取らない」と田中氏は予測する。だが、求心力のなさを覆い隠すため、反日感情をあおって愛国心を盛り上げるやり方がいつまでも通用するとは考えにくい。

 5年後に開く次回の党大会でも密室の派閥抗争で指導者を決めるようでは改革のリーダーシップを誰がどう発揮するのかいつまでも見えてこない。習近平体制の曲がり角は意外と早く訪れるかもしれない。

新指導部人事、譲歩重ねた胡錦濤

 新指導部の人選を巡って最後まで熾烈な暗闘が繰り広げられた。前総書記、胡錦濤氏の支持基盤である共産主義青年団(共青団)出身者と、有力政治家の子息からなる太子党の争いに、元総書記の江沢民氏ら長老が介入する構図だ。

 首脳となる7人の政治局常務委員は江沢民氏が率いる上海閥や、太子党に連なる人物が多く就いた。胡錦濤氏は表面上、譲歩を余儀なくされたが、次の共産党大会(2017年)で常務委員の候補となる政治局員には何とか共青団の実力者を送り込んだ。

 常務委員の顔ぶれを見ると、胡錦濤氏に近い共青団出身者(団派)と明確に呼べるのは序列2位で副首相の李克強氏だけだ。序列5位で党宣伝部長の劉雲山氏は団派にも位置づけられるが、江沢民氏と親密だ。人数のうえでは上海閥などが優勢のように見える。

 ただ、新しい常務委員は総書記の習近平氏、李克強氏を除けば60代半ば。共産党には党大会時点で68歳に達した人物は常務委員を退くルールがあり、次回は習近平氏と李克強氏を除き全員が交代する可能性が高い。次に常務委員に就くのは、党序列で下部にある政治局員の有力者だ。

 政治局員には胡錦濤氏と近い内モンゴル自治区党委書記の胡春華氏(49歳)や吉林省党委書記の孫政才氏(49歳)が選ばれた。常務委員から漏れた広東省党委書記の汪洋氏(57歳)や党組織部長の李源潮氏(62歳)も再任された。胡錦濤氏から見れば、次代の常務委員候補に自らの息がかかった人物を残せたとも解釈できる。

 共産党指導部の経験者は公職を退いた後も一定の権力を保てる構造になっている。毎年夏に河北省の避暑地・北戴河に集う首脳会議への出席を認められているのは、その象徴だ。指導部の人選が密室で決まり、長老の発言力も認める現在のシステムでは権力闘争はやむことなく続く。

(宮澤 徹、張 勇祥)
日経ビジネス2012年11月26日号 12~13ページより目次

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