メッツコーラが火をつけた、5年ぶりのブームを謳歌するトクホ業界。一方ドラッグストアは、3年越しで「最強の武器」を手に入れようとしている。「中性脂肪」を巡るトクホとクスリの異種格闘技戦。そのゴングが鳴る。

 長らく低迷が続いた特定保健用食品(トクホ)市場で、メーカー待望の第2次ブームがようやく花開きつつある。

 先陣を切ったキリンビバレッジの「キリン メッツ コーラ」は、11月上旬時点で1億2000万本、520万ケースを突破。トクホで久々のヒットとなった。

 遅れること7カ月、サントリー食品インターナショナルは11月13日に「ペプシスペシャル」を発売した。同社のペプシは昨年、ブランド全体で3000万ケースを販売。「3年後にはペプシスペシャルを、1000万ケースを超えるブランドにしたい」(広報)と強気の目算を掲げる。花王も「来春にヘルシアブランドでコーヒー市場に参入する」と澤田道隆社長が発表するなど、大型の新製品も相次いでいる。

 トクホの第1次ブームは2006~07年。当時は「メタボ」が流行語になり、花王「ヘルシア緑茶」とサントリー「黒烏龍茶」が大ヒットした。だがブームは長く続かず、この4年で市場規模はほぼ4分の3にまで落ち込んだ。

 今回のブームは果たして「本物」なのだろうか。

メッツコーラ、ペプシスペシャルの登場で、トクホ市場がヒートアップしている

「脂肪頼み」のトクホブーム

 「要望が受け入れられず残念だった」。大塚製薬のマーケティング担当者は悔しさをにじませる。

 同社は11月1日、粉末タイプのトクホ「賢者の食卓 ダブルサポート」を発売した。「賢者の食卓」は2005年から「血糖値が気になる方に」というコピーで売られていた商品。今回、新たに中性脂肪についての臨床試験を行い、許可を受けた。血糖値と中性脂肪のダブル効果をうたったトクホは史上初だ。

 その担当者は「脂肪や糖分の吸収を抑える」という表示の許可を望んでいた。だが消費者庁からの許可表示は、「もともと血糖値で出していたから」という理由で「糖分や脂肪の吸収を抑える」と、糖分と脂肪を逆にしたものになった。

 大塚製薬が順番にこだわった理由は何か。トクホにおける昨年の「中性脂肪・体脂肪」関連市場は1107億円。それに対して、「血糖値」市場はわずか180億円。どちらを先に書けば売れそうか、その答えは明白だ。

 トクホの市場規模で一番大きいのは「整腸」(昨年2900億円)だが、これは定番商品の「ヤクルト」や「明治ブルガリアヨーグルト」がトクホを取っていることによるもの。メッツコーラもペプシスペシャルも中性脂肪関連のトクホだ。ブームと言っても勢いがあるのは、結局「脂肪系トクホ」だけということになる。

 今回のブームを歓迎するのはメーカーばかりではない。売価の高いトクホは、販路となるスーパーやコンビニエンスストアにも恩恵をもたらす。日本健康・栄養食品協会によると、トクホの販売チャネルはスーパー、コンビニ合わせて5割を超えるという。

 一方でブームを忸怩たる思いで見つめるのがドラッグストア。トクホは健康効果を売り物にした商品にもかかわらず、ドラッグ・薬局での売り上げは全体のうちわずか6%弱にとどまる。

 そのドラッグストアが、ここにきて一発逆転の切り札を手に入れようとしている。

異例の「3度目の正直」

 「これまでのスイッチOTC(医療用医薬品から一般用医薬品への転用)とは意味合いが異なる。まさに悲願だった」。日本チェーンドラッグストア協会の宗像守事務総長は手放しで喜ぶ。

 今年10月、厚生労働省が主催する薬事・食品衛生審議会の一般用医薬品部会で、高脂血症治療薬「エパデール」のスイッチOTC化が了承された。

 宗像氏がエパデールに入れ込む理由は、この薬が転用薬では初となる「生活習慣病薬」だからだ。これまでのスイッチOTC薬は一時的な疾患を改善、緩和する対症療法的な薬が多かった。だが高血圧や高脂血症などの生活習慣病は、長期的な服用が必要とされる。ドラッグストア側としては持続的に購入、服用する顧客が期待できる、是が非でも売りたい商材。裏を返せば、これまで独占的に扱えていた医師側としては、継続的な受診が望める生活習慣病薬は、手放したくない薬だった。

 実際、一般用医薬品部会は紛糾を極めた。「医師ではない方に何度言っても分からないと思うが(中略)、高価な薬を延々と自己負担で飲ませ続けるべきではない」「私どもは患者さんを捕まえて、無理やり薬を飲ませているわけではない」――。

 2010年に行われたエパデール了承の是非を巡る部会では、医師と薬剤師が激しい議論の応酬を繰り広げた。エパデールは2009年に承認の申請が出されていたが、過去2回の審議では、議論は互いの“ポジショントーク”に終始。平行線をたどっていた。

 今年10月の3度目の審議でも医師側の反対意見はあった。だが「議論は出尽くした」との判断で、部会はエパデールの了承という結論を下す。「反対者がいる中での了承は、少なくともここ最近では異例」(業界関係者)。年内にも厚労省が承認。大正製薬から発売される見通しだ。

 エパデールが市民権を得れば、そのあおりを受けるのはトクホにほかならない。奇しくもメッツコーラやペプシスペシャルと同じ、主に中性脂肪をターゲットにした商品だからだ。「中性脂肪値が高い」と診断され、より高い効果を求める人がエパデールに流れるのは自然の成り行きだろう。

 そもそも、これまで一般用医薬品で認められていない「中性脂肪」「血圧」などの文言を、食品であるトクホが次々にうたい文句にしていること自体が、不自然だったとも言える。業界が頼みの綱とする脂肪系トクホ市場に突如現れた、実績十分の医薬品という強敵。メーカーのみならず流通チャネルも巻き込んだ、異種格闘技戦が幕を開ける。

(佐藤 央明)

日経ビジネス2012年11月26日号 14~15ページより目次

この記事はシリーズ「時事深層(2012年11月26日号)」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。