家電各社が資金調達に奔走している。シャープは米半導体大手に出資を要請。ソニーは転換社債発行で一段の環境悪化に備える。

 「1999年以来、当社は特定の端末・部品メーカーとは組まないことを基本方針にしてきた。上場企業への多額の出資というのも、恐らく前例にない」

 経営危機のシャープが、米インテルとともに数百億円の出資を要請中とされる米クアルコム。クアルコムジャパン幹部は、「日本では状況を把握できていない」と断りつつも、こうコメントする。

 クアルコムはスマートフォンの半導体チップで圧倒的シェアを握り、好業績が続く。自前工場を持たず技術開発に特化し、多くの端末・部品企業と広く取引して成長してきた。シャープがクアルコムの出資を取りつけるには、飛ぶ鳥を落とす勢いの同社に、大胆な戦略転換を迫る必要がある。

 こうした事情はインテルにも共通する。同社日本法人の吉田和正社長は、「インテルはオープンで標準化された技術を重視する。(特定企業との)提携が可能かは分からない」と話す。

 交渉は容易ではないが、格付けが投機的水準に低下し、銀行の追加融資も望めないシャープに残る選択肢は少ない。クアルコムやインテルからの支援は資金面での頼みの綱と言える。

 モバイル市場の拡大で、半導体の競争は激化している。タブレットや薄型軽量PC(パソコン)を巡っては、インテルとクアルコム、さらに米エヌビディアなどが覇権を争う。

 中でも各社がしのぎを削るのが低消費電力化だ。クアルコムは、「半導体の省エネだけでは限界」(同社)として、新方式のディスプレーを手がける新興企業を買収する力の入れよう。シャープは省エネ性に優れた虎の子の液晶パネルの優先提供を条件に、各社に出資を求めているもようだ。

 仮に交渉が不調に終われば、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業との提携条件にも影響が出かねない。ホンハイ関係者は、「(半導体大手との交渉は)シャープの一部経営陣が独断で進めている。ホンハイに打つ手はないが、焦って介入する必要もない」と静観する。

「成長投資」を疑問視

 2012年3月期まで4期連続で連結最終赤字のソニーも、財務強化を急ぐ。同社は14日、9年ぶりの新株予約権付社債(転換社債=CB)発行で1500億円を調達すると発表。「市場環境から見て今が最適の時期。調達資金はカメラ用センサーの生産増強やオリンパス株取得などに充てる」(同社)と“成長投資”を強調する。

 だが、メリルリンチ日本証券の片山栄一アナリストは、「(センサーへの)投資は本来自己資金で賄える規模。1500億円ものCBを発行する必然性があったのか」と指摘する。14%(9月末)に低下した自己資本比率の底上げが真の目的と見る向きは少なくない。

 発表翌日の15日、ソニーの株価は1株価値の希薄化が嫌気され一時前日比11%安の772円まで下げた。その後800円台を回復したが、本業のエレクトロニクス事業が低迷する同社への視線は厳しい。

 シャープもソニーも眼前の資金調達が重要なのは事実。だが本業の回復こそが財務体質改善の最大の特効薬にほかならない。

(田中 深一郎、戸川 尚樹)

日経ビジネス2012年11月26日号 16ページより目次

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