南シナ海に面する人口40万人の小国ブルネイ。天然ガスや石油の資源国としての顔を持つ。日本は昨年の大震災以降、原子力発電所の停止に伴い、同国からガスの輸入量を増やしている。実は、2年後をメドに、ガスの一部がいつもとは違う「お金」の取引で日本に運ばれる。

 ブルネイ政府系の海運会社に対し、今年7月に約130億円の協調融資を取りまとめたのがマレーシア三菱東京UFJ銀行。特定目的会社を複雑な取引の間に挟み、通常の貸出金利ではなく、基本的にリース料を受け取る形で13年弱の契約を結んだ。

 この方式は「イスラム金融」と呼ばれる。イスラム教国家のブルネイは国策として推進しており、海運会社も銀行団の入札の際に適用を求めた。

 「イスラム教徒は金融機関で働くことをあまり望みません。理由は『金利にまみれたくない』からです」

 同銀のイスラム金融課で働く長島俊一氏はこう話す。イスラム教徒が豚肉やアルコールを好まないことは一般的に知られているが、金利を嫌うのはなぜか。まず歴史を振り返る。

 アラビア半島では7世紀、預言者ムハンマドが人としてどう生きるべきかを説き、イスラム教の聖典コーランにまとめた。「人が従うべき道」の意味を持つ「シャリア」が戒律であると同時にイスラム法として確立された。

 イスラム金融は、このシャリアに則した金融取引の総称を指す。通常の金融と異なるポイントは2つある。

 1つはイスラムの教えに反する事業が絡む取引の禁止。豚肉やアルコール、ギャンブル、ポルノ、武器…。もう1つは利子という概念の禁止。富を持つ者が自らの余剰資金を貸し、労せずして利子収入を得るのは好ましくないと考えるからだ。

 メガバンクで最も早くマレーシアの市場に参入した三菱UFJは2008年に認可を受けた後、これまでスズキの現地製造・販売子会社なども対象に10件を超える融資実績がある。

 代表的な例が「ムラバハ」と呼ばれる物品を介する取引だ。これは利子の概念を回避するため、銀行が顧客に代わり、実物のモノを第三者から現金でまず購入する。個人客なら自動車や住宅、企業が相手ならヤシの実から作るパーム油などが対象になり得る。

 物品を購入した銀行は、代金に一定のマージンを乗せたうえ、顧客に事後払いを受ける形で転売する。この売買益となる上乗せ料金が通常の金融の利息に当たり、イスラム法では利子の概念を避けて取引したことになる。

 イスラム金融は資本を投じて利益やリスクを取ることは禁じられていない。長島氏は「基本的には実体に則した取引を行い、資産の評価を間違えなければバブルは起きない」。リーマンショックとは無縁の世界と言える。

 イスラム教徒は世界の人口の4人に1人に相当する16億人超。イスラム金融市場は総額100兆円を突破し、現在も年率1割のペースで拡大を続ける。アジア最大の市場がマレーシア。イスラム金融の融資残高は昨年末にリーマンショック直後の倍に成長した。

 なぜ日本の金融機関がイスラム圏に入り込む必要があるのか。

 視線の先には、マレーシアと中東のオイルマネーが融合する形で拡大するイスラム圏市場が浮かぶ。今後、日本企業がイスラム圏に進出する際、食品販売でもイスラム金融で資金調達を迫られる可能性が出てくる。

 11月2日。マレーシアで金融事業を拡大する好機が到来したと胸を高鳴らせる日本人の経営者がいた。イオンクレジットサービス現地法人の笠井康弘社長だ。前日にイオンが仏カルフールのマレーシア事業を買収すると発表した。現地の店舗は約30から倍近く増える。それに伴い、カード関連事業をテコ入れできる――。

 「イオンのカードはお持ちですか。クレジット機能もつけられますよ」

 マレーシアの首都、クアラルンプール市内のイオン店舗を訪ねると、若いインド系の職員が日本と同様にカードの売り込みに励んでいた。店舗にはカードの申し込みを受けるカウンターが3カ所もあり、買い物客の家族や映画帰りの若者に加入を呼びかけている。人海戦術によって、週末は多い日で1日に20人がカードに入会するという。

 イオンクレジットのマレーシア進出の歴史は古い。1996年に開業し、5年前にはマレーシア証券市場に株式を上場した。直近の営業収益は100億円弱に上る。クレジットカード事業に加え、バイク、中古車、家電、家具の割賦販売など、業務は多岐にわたる。

 驚くのは営業収益のうちイスラム金融の割合が既に半分を占めることだ。

 2002年に始めたバイクの割賦販売は、イオンクレジットが最初に製品を買い取り、顧客が3~5年にわたって分割で支払うイスラム金融方式を最初から取り入れた。2007年には日本企業で初めて債券に近い性質を持つ有価証券「スクーク」を発行している。

 笠井社長は言う。「イオンはグローバルな動きを踏まえ、ローカルに着眼点を置いて事業を広げる。イスラム金融が必要という顧客の要望に合わせ、新しい商品開発や調達を手がける」。

 検討するのはイスラム金融を取り入れたクレジットカード事業。現在は通常の金融手法を使うが、イスラム圏で取引の「現地化」を一段と進める。

 グローバル化に邁進する日本企業を支える金融サービスは進化を遂げつつある。顧客が金融に求める役割は日増しに多様化し、担い手である金融機関にも変革を迫る。次ページからは、メガバンクの苦闘と挑戦の軌跡に迫る。

日経ビジネス2012年11月26日号 32~33ページより

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