「自分1人では何もできなかった。ここまでしてくれる金融機関は見たことがない」

 東京都檜原村に工場を持つ飯田ウッドワークシステムの飯田信男社長は驚きを隠さない。同社は今年10月、多摩のスギ材を活用した断熱内窓の事業が、農林水産省・経済産業省の「地域産業資源活用事業計画」に認定された。これにより、補助金が交付されたり、政府系金融機関による融資を受けられるようになったりした。認定の黒子として活躍したのが、東京都中野区に本店を置く西武信用金庫だった。

 飯田社長は国の支援策を知ってはいたものの、認定されるには高い壁がそびえ立っていた。事業計画書の作成だ。中小企業経営者にとって、国の厳しい審査基準を通るような事業計画書を独自に作成するのは難しい。

 この悩みを聞き、西武信金は飯田ウッドに対して、経験豊富な中小企業診断士を派遣した。事業計画書を作成するのにかかった期間は3カ月。その間の飯田ウッドの負担は、何とゼロだ。すべてを西武信金が負担している。

 これは、同金庫が誇るサービス「専門家派遣事業」を活用したものだ。企業が抱える課題を解決できるプロフェッショナルを紹介するもので、派遣する専門家は弁護士や中小企業診断士、弁理士、大学教授など、様々な分野の1000の機関とのネットワークがある。

 驚くべきは、費用をすべて西武信金が負担するという点だ。弁護士や弁理士などは相談するだけで1時間に3万円程度の費用がかかることもあるが、これもすべて西武信金が負担する。この制度で年間700件近い相談に応じているという。なぜここまでするのか。

 「金融機関も、自ら投資する姿勢が必要だ。融資先企業は我々の財産。その財産の価値を高めることが、信金の使命と考える」と落合寛司理事長は言い切る。融資先企業が成長すれば、新事業での融資も増える。そのためには自ら身を切って投資をする姿勢が必要不可欠だという考えだ。

 このような考えはどこで醸成されたのか。それを理解するには、西武信金が金融界の常識に挑み、自らの体制を変化させ続けた歴史をひもとく必要がある。

 時計の針を13年前に戻そう。時はバブル経済崩壊後の不況期で、金融機関の破綻処理や、大規模な再編が進みつつある時期だ。そんな嵐の真っ只中で、西武信金は「集金業務」を廃止したのだ。

 自転車などを使って取引先をこまめに回る集金業務は、今でも信金業界では当たり前の仕事だろう。顔と顔を突き合わせたコミュニケーションは、地域金融にとって必要不可欠なサービスだと思われていた。

 しかし、西武信金の考えは逆だった。1日数分のつき合いでは企業経営者とのコミュニケーションは深まらないと判断。集金をやめる一方で、月に1度は1時間程度のまとまった時間を取って担当者と経営者がじっくり話し合う場を作ることにした。

 この時間が、企業との間に信頼関係を構築した。お互いに腹を割って話し合い、課題を持ちかければ解決すべく全力でサポートする。その結果、「課題解決サポート」サービスが生まれた。

 求められるのは原点回帰。西武信金の挑戦は、金融機関としてある意味当たり前である顧客志向の姿を思い出させてくれる。

日経ビジネス2012年11月26日号 31ページより

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