事業に必要な資金は金融機関から借り入れる。発想を転換すれば、こんな常識にとらわれる必要はなくなる。国内外の社内マネーを上手に活用すれば、余分なコストをかけずに資金を生み出すことができる。

 社内グループ間の決済件数が年間8000件から550件に削減――。連結売上高が約1兆円、世界29カ国・地域に117社の関連会社を構える花王は、昨年から世界に散らばるお金を東京本社で一括管理する「CMS(キャッシュ・マネジメント・システム)」を採用した。

 従来の社内決済は、日本から欧州の子会社、または米国からアジアの関連会社といった具合に、クモの巣を張り巡らせるかのような複雑な構図。各拠点を結ぶ糸ごとに手数料や為替費用がかかり、取引する金融機関などに支払っていた。

 花王は総資産に占める現金の割合が13%に上り、米国の競合他社の5%前後と比べると高い水準にある。「資金をもっと有効に利用できるはずだ」。社内からこんな声も上がり、2年前からグループ間で資金の活用策に関するルールの作成を始めた。

ドル、ユーロ、ポンドの通貨別の資金管理で、為替費用の節減につながった(写真:丸毛 透)

 手を組んだのが国際的な資金決済業務を得意とする米系のシティバンク銀行。グループ会社間の決済を相殺する「ネッティング」、ドルやユーロ、ポンドの通貨別に資金を管理する「プーリング」という2つの規定を設けた。

 世界43社の決済を日本にすべて集約することで、決済件数の削減と同時に年間1億円の手数料や為替費用の節減につながった。

 通貨別の管理はドルの場合、ニューヨークの口座に世界21社からお金が日々集まる。どこでお金が足りないかも瞬時に分かり、銀行から借り入れていた分を資金が余っている地域から融通できるようにもなった。これで年間5000万円のコスト削減効果が生まれた。

 欧州危機を機にユーロも厳格に管理し、資金需要が細っている欧州から日本の本社に150億円を持ち込み、アジアなどへの投資に回すことを決めた。花王の牧野秀生・資金課長は「為替管理と世界にまたがる資金の見える化で財務戦略が立てやすくなった」と語る。

 シティバンクには日本企業からの依頼が増えている。担当するティモシー・タイナン氏は「CMSは資金繰りの予測もできるため、グローバル企業に一段と利用が広がりそうだ」と話す。進出先の経済の変調や為替相場の変動に備えた自衛手段がグローバル市場で攻勢を狙う企業に新たな武器を与えた。

日経ビジネス2012年11月26日号 29ページより

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