インド工場での暴動、中国での反日デモ、米国から4輪撤退。防戦一方のスズキはASEANに活路を見いだそうとしている。タイ工場に派遣した日本人技術者170人はその覚悟の証しだ。

決算発表会見の翌日にタイへ飛び、精力的に販売店や工場を視察した鈴木修会長(中央)

 スズキが東南アジア諸国連合(ASEAN)の自動車市場攻略に向けて力を入れている。同社は今年3月、タイで初めてとなる4輪工場を立ち上げた。現地従業員を徐々に増やして10月末には950人を確保し、2交代制で新型「スイフト」の生産をしている。

 タイに賭ける強い意思は、日本から送り込んだ技術者の数に表れている。11月上旬現在、ベテランを中心に総勢170人が集う。現地社員5~6人に日本人が1人つく計算である。彼らのヘルメットには日本人を表す「J」の文字が見える。

 スズキが海外工場へ一度にここまでたくさんの日本人を派遣したことは過去にない。現地を視察した鈴木修・会長兼社長は「通常は現地社員に教えるためだけに来るものだが、今回は自らの手で作りながら同時に教えてもらう」と語る。170人は早期に新工場の生産効率を高める“即戦力”としての役目も負っている。

2カ国を1市場として捉える

 タイにおいて、スズキは日系自動車メーカーとしては最後発だ。昨年の同国内における販売シェアもわずか1%にすぎない(グラフ参照)。「厳しい立場にある。インドのようにはいかないだろう」(鈴木会長)。市場の黎明期にいち早く飛び込んで制したインドとは、正反対の戦いが強いられる。昨年の洪水前の時点で既に先行各社はフル生産状態にあり、今年に入ってからも増産計画を発表してきた。

 それでも、ASEANに命運を託さねばならない。インドは7月に起きた工場での暴動後、順調に生産を再開しているものの、暴動の原因はいまだつかめないままだ。中国では反日デモの影響で販売数を落とし、長らく不振が続いた米国市場では4輪販売事業の撤退を発表している。

 そんなスズキにとって反攻の糸口がタイだ。

 鈴木会長は「タイとインドネシアは一体の工場、市場として捉える」と語る。両国はASEAN内で国別自動車販売台数で首位の座を争っている。この両国市場に向けて、それぞれの国にある自社工場から相互に車種を補完するように輸出し合う予定だ。両国間では完成車輸出に関税が課せられないメリットを生かす。

 同社は年明けにタイからオーストラリア向けの輸出も始める。日本から多くの技術者をタイに派遣するのは、タイを周辺国への輸出基地として重視している証左でもある。

 スズキは11月12日に生産開始から8カ月遅れで、タイ工場の開所式を行った。同社は通常、生産開始から数カ月後に開所式を行う。祝うのは生産ラインが落ち着いてからというのがその理由だ。堅実な社風を象徴しているが、タイ市場への出遅れにも映る。

 4割弱を握ると見られる首位のトヨタ自動車からスズキまで日系メーカーを中心に9社がタイでひしめく。「インドのスズキから、アジアのスズキ」(鈴木会長)を目指す険しい挑戦が始まる。

(上木 貴博)

日経ビジネス2012年11月26日号 17ページより目次

この記事はシリーズ「時事深層(2012年11月26日号)」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。