中小型液晶最大手のジャパンディスプレイが快走している。高性能液晶を武器に、タブレット向けパネルの受注増を狙う。業績が低迷するシャープとの競争が激化しそうだ。

 11月初め、横浜市で開かれたディスプレー技術の展示会で、来場者の視線を集めた1つのブースがあった。出展者は、ソニー、東芝、日立製作所の中小型パネル事業が統合して4月に発足したジャパンディスプレイ(JD)だ。

 展示の目玉は、「イノベーションビークル」と名づけた最新の液晶ディスプレー。東芝の高精細技術に日立の高コントラスト技術、ソニーのタッチパネル内蔵技術などを“てんこ盛り”にした高性能ディスプレーを開発した。

 JDの有賀修二CBO(チーフビジネスオフィサー)は、「新ディスプレーは薄型・高精細で低消費電力。端末の製造コスト低減にもつながる技術だ」と語る。展示会ではスマートフォン(高機能携帯電話)用、タブレット用、車載用の3種類を出品し、技術力をアピールした。

 発足から半年が過ぎ、JDの業績は好調そのもの。2012年4~9月期は、統合前の3社合計で営業赤字だったとみられる前年同期から、黒字に転換した。歩留まり改善で工場の固定費を圧縮したうえ、6月に稼働した能美工場(石川県)など全国6工場が軒並みフル稼働に近づく。2012年度の売上高は前年度比で約1000億円増え5500億円前後となる見込みだ。

 牽引役は、駆動素子に「低温ポリシリコン(LTPS)」という材料を使う高精細液晶パネル。LTPSは、JD以外にはシャープなど一部企業だけが扱う先端技術だ。JDは米アップルのiPhone 5をはじめ、国内外のスマホメーカーからLTPS液晶の受注を伸ばす。新開発のイノベーションビークルも、LTPSを採用している。

 JDは来夏、パナソニックから取得した茂原工場(千葉県)で第6世代のガラス基板を使ったLTPSの生産ラインを稼働。2014年度の生産能力は2012年度比2倍となる見通し。LTPSをテコに、現在中小型市場で2割弱の世界シェアを一段と拡大したい考えだ。

 快走するJDとは対照的に、シェア2位のシャープは不振にあえぐ。同社はスマホ向けにLTPSも手がけるが、現在最も強く打ち出すのは酸化物半導体「IGZO」を素子材料に使う液晶。しかし、肝心の受注が伸び悩み、第8世代のラインを持つ亀山工場(三重県)の稼働率低迷の元凶になっている。

LTPSとIGZOが優位を争う

 ライバルであるJDの攻勢は、シャープの液晶事業にどんな影響を与えるのか。これを占ううえで注目されるのが、今後両社の主戦場になると見られるタブレット向けパネルだ。

 タブレットはスマホに比べ、まだ高性能パネルの採用が進んでいない。「Retina(網膜)」と呼ぶ高精細が売りのアップルのiPadでさえ、パネルを供給する韓国勢が採用するのは「アモルファスシリコン」と呼ぶ従来型の技術。シャープのIGZOは、韓国勢と水準を揃えるため性能を引き下げて搭載しているのが実情だ。現状ではLTPSもIGZOも、タブレット向けには“過剰品質”で、市場に食い込めていない。

 ただ今後、高精細と低消費電力を両立するタブレットの需要が増えるのは確実。現在タブレット向けシェアがほぼゼロのJDも、「来年後半には、高精細タブレットでLTPSの採用が始まる」(有賀CBO)と期待する。

 シャープにしてみれば、JDとの競合でIGZOの優位性が脅かされる恐れもあるが、高精細需要の拡大は援軍となる可能性もある。調査会社ディスプレイサーチの早瀬宏バイスプレジデントは「高精細パネルが本格普及すれば、第8世代工場を持つシャープのIGZOが有利。一方、LTPSは特殊用途などで強みが出る」と見る。

 タブレット市場で、技術が売りの国産液晶2社が“共栄”できるか、注目される。

(田中 深一郎)

日経ビジネス2012年11月19日号 18ページより目次

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