より「個人化」する対立軸

『アメリカン・デモクラシーの逆説』
渡辺 靖(わたなべ・やすし)
岩波新書 798円
ISBN978-4-00-431277-2

 4年前、バラク・オバマ大統領が誕生した時の米国の高揚感をノスタルジックに振り返るところから本書は始まる。再選が決まった今、あの頃の情熱は米国にない。自由を保証するはずの民主主義が、逆に自由を圧殺する――。現在の米国で起きているこうした民主主義の転倒現象を、丹念なフィールドワークや多くの米国論に基づきながらリポートした1冊である。

 著者によれば、オバマ大統領はリベラル/保守という2元対立を超えた多元的な価値の尊重を掲げて大統領に就任したものの、現実には「党派やイデオロギーの対立は一向に収まる気配がない」。

 なぜか。小さな政府・規制緩和・民営化などを柱とする新自由主義が時代の潮流となり、共和党と民主党の政策的な差異は「コークかペプシか」程度の違いしかなくなっていった。それゆえに人工妊娠中絶や死刑制度、同性婚といった人々のアイデンティティーに関わる対立が顕在化してきた。つまり政策的な違いが薄れることでイデオロギー対立が際立つという逆説だ。

 小さな政府による公共サービスの低下を補うために富裕層による閉鎖的な街が増殖する。その閉鎖性は「自由からの逃走」を意味するのではないかと警鐘を鳴らす。

 米国社会が抱く負の逆説事例集のようだが、同時に、「1つのアメリカ」への市民的な統合機運が健在であることも随所で指摘しており、著者が米国民主主義の自己修正能力に期待していることをうかがわせる。


党派内の分裂が深刻に

『分裂するアメリカ』
渡辺将人(わたなべ・まさひと)
幻冬舎新書 882円
ISBN978-4-344-98254-3

 オバマ大統領が4年前に唱えた「チェンジ」が実現されたかどうかに対して、米国では正反対の評価が下されていると著者は言う。「小さな政府」を金科玉条とするティーパーティー活動家は「チェンジがどんどん実行されている」と危機感を募らせ、リベラル派は「チェンジが起きない」と幻滅している。

 しかも保守、リベラルともに一枚岩ではなく、それぞれの内部でも深刻な分裂を抱えている。例えばティーパーティーは共和党右派と見られがちだが、「内部では社会争点という価値を巡る分裂、外交争点という介入を巡る分裂を『時限爆弾』として抱え込んでいる」。彼らは「小さな政府」という薄皮一枚でつながっているだけであり、共和党の確実な票田というわけではないらしい。一方、民主党も、世俗派と信心派との対立は深まっており、「オバマ政権が誕生してから、民主党内の世俗派は、宗教性の過度の侵蝕に戸惑いも見せ始めている」。

 こうした分裂の深化は、政党のみならず、ヒスパニック(スペイン語系米国住民)系をはじめとしたエスニック集団、カトリック系組織などの中間団体にも見られ、「1つのアメリカ」として統合することの難しさを物語る。

 かつてヒラリー・クリントン氏の上院選本部に勤めた経験を持つ著者だけあって、取材相手からホンネを引き出す質問力に長けており、様々な組織党派のインタビュー集としても読み応えがある。

(企画・文:連結社)
(写真:スタジオキャスパー)

日経ビジネス2012年11月19日号 68ページより目次