写真:稲垣 純也

 東芝の社長時代と東京証券取引所の社長兼会長時代に、経営改革に取り組み、様々な教訓を得ました。1つは、会社が危機の時はある程度お金をかけてでもスリムダウンする必要があること。もう1つが、そうした緊急事態の際には必ず、会社の実情を全社員に周知徹底しなければならないことです。

 1998年、グループである芝浦製作所の小型モーター事業を、同社と東芝、日本電産3社による共同出資会社に、東芝のATM事業を沖電気工業にそれぞれ譲渡。事業に携わっていた社員も東芝を離れました。

 賛否両論の声が上がりましたが、続けるわけにはいきませんでした。当時100あった事業の半分は赤字。いくら総合電機だからといって、すべてをやるわけにはいきません。加えて、赤字事業なのに社員にはあまり危機感が見られませんでした。残しておいても黒字化するメドがない事業を売却することは、業績改善のみならず、危機意識の醸成にもつながると考えたのです。

 とはいえ、構造改革を断行するだけでは、社内のモチベーションが大きく下がりかねません。今まで一緒に仕事をしていた人たちが相当数辞めさせられたり、辞めたりするということが目の前で起こったら、誰でも動揺するはずです。リストラを進めるうえでは、この危機は乗り越えられる危機なんだと、将来のビジョンを明確に打ち出す必要があります。そのためにはまず、会社の状況を包み隠さず従業員にオープンにすることが欠かせません。

 2005年6月に東京証券取引所の会長に就任し、そのことの大切さを痛感しました。この年、システム障害が相次いだ東証は経営危機に陥り、同年12月に社長兼会長になり大きな改革を迫られました。そんな中、当時の社員には東証の正確な状況がほとんど伝わっていませんでした。このため社員はテレビや新聞など外から入る情報に振り回され、本当に不安だったと思います。

 そこで私は、トップから直接メッセージを送って会社の状況を分かってもらうとともに、月1回の記者会見をすべて社内放送でリアルタイムに流すことにしました。同時に、40人ぐらいずつに分けて対話会をやり続けました。

 今どんな危機が起きていて、それをどう解決するのか、報道される前に社内に理解してもらうことに努めたんです。記者会見をリアルタイムで聞いていれば、テレビで流れているニュースや新聞に書かれている記事について、家族にも説明できます。そのことで家庭の中の平安も違ってきます。

 経営者にとって、社外に対して説明することが大事な仕事であるのは言うまでもありません。ただ、それと同じくらい大切なのが、社内にメッセージを出し続けることです。重要なことであれば繰り返し何回も説明する。そうしないと社員は分かってくれません。

 「西室君、社長になったら、自分でも本当にこんなに同じことを言ってもいいのかと思うぐらい繰り返して言わないと、社員は分かってくれないよ」。東芝の社長になった時、前社長の佐藤文夫さんに言われたことですが、まさにその通りだと思います。(談)

日経ビジネス2012年11月19日号 126ページより目次

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