電子書籍の拡大は書店を苦境に追い込むのではないか。そんな周囲の声をブックライブが覆そうとしている。書店との共存路線で米アマゾン・ドット・コムに対抗する。
米アマゾン・ドット・コムが「Kindle(キンドル)」の日本市場投入で、年末商戦に向け熱を帯びてきた電子書籍市場。迎え撃つソニーや楽天に加え、対抗勢力の一角を担う伏兵が現れた。
電子書籍ストア「BookLive!」を運営する凸版印刷グループのブックライブ(東京都台東区)は12月10日、電子書籍専用端末を発売する。価格は8480円で、毎秒最大40メガビット(メガは100万)の通信が可能なWiMAX(ワイマックス)の通信モジュールを内蔵しているのが特徴だ。
アマゾンはNTTドコモの3G(第3世代)回線を無料で利用できる「Kindle Paperwhite(キンドル・ペーパーホワイト) 3G」を11月19日に発売するが、データ容量が大きい漫画はWi-Fi環境下でダウンロードする必要がある。ブックライブは漫画中心で拡大してきた日本の電子書籍市場の特性に合わせ、無料で使える高速通信機能を提供し、漫画のダウンロードにも対応する。
だが、これだけで先駆者たちを追いかけるのは難しい。同社が差異化を狙ったのは「価格」でもなく「仕様」でもない。書店を巻き込んだ「売り方」だ。

書店巻き込み一大勢力築けるか
ブックライブは販売当初、電子書籍端末を家電量販店では売らず、国内36店舗を展開する三省堂書店と直販サイトだけで販売する。端末販売やコンテンツ販売から得られる収益を書店にも分配する仕組みだ。
三省堂書店は店舗に専用の検索端末を設置。目当ての書籍を検索し、電子版がある場合はバーコードを印刷して店頭のレジで決済できる。当初は三省堂書店の有楽町店と神保町本店で対応し、来春をメドに対応店舗数を約30店に増やしていく考えだ。
現在、書店の得る粗利は電子書籍よりも紙の書籍の方が高いが、電子書籍の販売によって、紙の書籍の在庫がない場合でも機会損失を防げる。何より、電子書籍市場拡大の煽りを最低限に抑えられる利点は大きい。
米国では、電子書籍市場を牽引するアマゾンの影響もあり、書店は苦境に陥っている。2011年2月には米国で約670店舗を抱えていた米書店チェーン2番手のボーダーズ・グループが連邦破産法11条の適用を申請。同年9月に最大手の米バーンズ・アンド・ノーブルが同社を買収した。
海外では、楽天が買収したコボが欧州において、書店と組むスキームでシェアを伸ばしている。しかし、楽天幹部は「最大の売り場である楽天市場がある以上、日本で同様の手法は不要」と話しており、現時点で書店を巻き込む販売形態の採用予定はない。
ブックライブが書店と協調路線を取った理由は、本好きが集まる最大の“狩り場”であると同時に、「電子書籍ストアの最大のネックであるセレンディピティ(偶然の出会い)が補える」(関係者)から。書店では販売員が様々な切り口で書籍を陳列しており、書店ならではの売り方と電子書籍の店頭決済で独自の市場開拓を目論む。
ブックライブは地方の書店にも同様の仕組みを提供し、書店との共存体制を広げていく構想を描く。電子書籍市場の拡大に恐れをなす全国の書店を巻き込めれば、対アマゾンの一大勢力となる可能性もある。
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この記事はシリーズ「時事深層(2012年11月12日号)」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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