金融機関のトップながら「脱原発宣言」を声高に叫んだ吉原理事長。経済界に激震が走ったが、東京電力の電気をやめ、取引先を含めた節電に邁進する。金融のあるべき姿と、脱原発への思いをすべてぶちまけた。 (聞き手は 本誌編集長 山川 龍雄)

写真:丸毛 透
吉原 毅(よしわら・つよし)氏
1955年東京生まれ。77年慶応義塾大学経済学部卒業後、城南信用金庫に。同金庫は現在、信金業界2位の預金規模。振り出しは東京都大田区内の営業店で町工場や商店街といった中小企業への融資を手がけ、80年代から企画畑を歩み、懸賞金付きの定期預金など新しい商品を開発した。92年に理事・企画部長、その後に常務理事や副理事長を経て、2010年から理事長を務める。趣味はサイクリング。休日は近場の多摩川を走らせて楽しんでいる。

銀行は利益を目的にしている お金しか考えずバブルを起こす 信金の役割は健全な姿への是正

 問 そもそも、信用金庫と銀行の違いはどう定義づけられていますか。

 答 いろいろありますが、やはり銀行は利益を目的にしているんですよね。だから、お金も利益に流されやすいんですよ。例えば、極論すれば、現在の3メガバンクや地方銀行のいくつかには年金ファンドとかの外国資本が3割くらい入っている。外国の年金ファンドにとって、会社は何のためにあるかというと、配当を増やすことが一番の目的だから、公共的か、良識を持った経営をしているか、持続的かなんて、考えなくて済んでしまう。考える必要がないわけですよ。

 だって、外国の会社って、配当が良ければそれでいいわけですから。そうなった場合に、当然その株主の思惑に人事権だって握られているわけです。当然そっちの方が最優先になりますよね。とりあえず目先の損金を出したらいけないから、将来よりも短期的な視野になる。

 これはアダム・スミスが『国富論』でちゃんと書いていることなんですね。

 上場会社というのは経営者も株主の短期的な視野につながるから、お金のことしか考えなくなっちゃう。それで不健全な方向にいって、バブルなんかをしょっちゅう起こすんだと。それがまさに現実化して表れるわけですよ。

 それを是正するには、どうしたらいいか。アダム・スミスは長期的な観点で、良識のある、コミュニケーションを持った経営をしなければと。そうすると、その1つの形態が信金の協同組合と言えるわけですよね。

 問 具体的にどういう姿ですか。

 答 自分で出資して、自分で経営して、自分で働く。協同組合はお金の暴走や株式会社の弊害を是正するため、1840年に英国で生まれた新しい企業の形態です。お金に流されてしまうのが銀行だとしたら、信金はお金の弊害を是正するのが1つの大きな役割になる。つまり公益事業なんです。

銀行は市場開放で良識失った

 問 まず最初の成り立ちが違うと。

 答 もちろん銀行も明治時代に英国から伝わった時、健全な金融というのを教えられている。まずは資金使途を考えなさい。使途が不健全だったら、いくら儲かってもダメだという考え方です。銀行員はそういう考え方でやらなきゃダメですよと教えている。

 銀行だって、やってきたんですよ。ところが1980年代の金融ビッグバン以降、米国に金融市場開放を求められる中で変わった。利益が上がっている銀行が一番上なんだと。

 その時に何をやったか。90年代にかけ、地上げを行い、サラ金に手を出し、利益を上げる銀行が素晴らしいと、散々やったわけですよ。その結果、お金や自由化が目的になり、銀行としての良識が失われたわけです。

 問 最近普及しているインターネット銀行はどう見ていますか。

 答 利用される人はいますから、一定の規模では便利に使われるんじゃないですかね。それでも、ある程度の段階で限界が来ると思うんですよね。

 便利は便利ですが、単にATMやネットがあればいいのか。例えば、最近増えている資産承継の問題はネット上のQ&Aの相談業務でどこまで対応できるのかなと。ネット銀は1つの有効なチャネルかもしれないが、最後の信頼関係の部分はどうかという気はします。お金の問題は、生き方の問題と密接に関連していますからね。

 問 では信金の理事長として、どんなことをやられているんですか。

 答 お金は個人主義、そして自意識を助長する。だから、人間がお金を意識した瞬間から、コミュニティーや良識がどんどん離れていく。それが生まれながらのお金の性質です。

 最近のグローバリゼーションの中でお金が世界的に暴走し、米国でさえもコントロールできない状況になった。そうすると、人間の意識自体もどんどんおかしくなってしまう。グローバル金融が世界の人々を不幸にし、貧富の差が拡大していく。

 我々としてはもう一回、国家やコミュニティーのために、お金をコントロールして健全に使うという金融をやらなければいけない。

 そうした中で11月1日には全国63の信金が協力し、「日本を明るく元気にする『よい仕事おこし』フェア」をやりました。東京ドームを借り切り、630の出展ブースを作り、東北の企業や被災地とのビジネスマッチングを試みた。日本全国が復興支援にどれだけ関わることができるか。信金は今、その企業を支援していくことを考えなければいけないと。

 問 理事長が音頭を取られた?

 答 そうですね。うちが事務局で言い出しっぺではありますけど。63信金の共同開催は初めてです。協同組合はこんな役割を担っていると、自分たちで確認するとともに、世間に対するアピールが大切ということですね。

 問 いわゆる信金の原点に立ち返りながら、利益もちゃんと出すのはとても大変な気がするのですが。

 答 儲けようと手っ取り早く思えば、投資信託の販売手数料収入を増やしたり、消費者金融をやったりすれば、利ざやは取れる。でも、それはやらない原則です。1回手を染めたら、それに依存する体質になっちゃいますから。

 銀行のように国債で儲けることも基本ありません。運用で利益を上げるのは邪道なので。マーケットは、地球上のほとんどの人が関わっています。みんながやるということは、結局、儲からないんです。だからサブプライムローンみたいなのに引っかかるわけです。

 現状、世の中にお金が余っています。目をつぶって貸すことは、どこの金融機関にもできる。しかし、貸すも親切、貸さぬも親切という言葉がある。本当に大事なのは顧客の経営体質を改善したい、売り上げを上げたい。そういう問題に踏み込む力なんですね。

 我々は融資で収益を上げている。3代、4代にわたる取引先もあります。これは長年の信頼、信用という目に見えない財産が大きい。例えば投資で損をさせた銀行は、信頼が非常にマイナスになる。でも我々はそういうものがないじゃないですか。だから、資産家が安心して取引してくださる。

 問 中小企業は何に一番困っている状況ですか。

 答 やはり売り上げですね。円高で輸出が伸びず、取引関係がある大企業も国内から出て、空洞化が進んでいる。この中でどうしようと思っている経営者がいっぱいいます。お客様の売り上げと利益をどう確保していくか。それに対する販路拡大のアドバイスが求められていますね。

 中小企業は技術や商品を組み合わせ、どう最終的な仕事に結びつけるかというところがやっぱり弱い。ほかの会社との連携機能、お客様のニーズにどうコミットさせるのか。今回のフェアを通じ、信金業界に全国ネットワークを確立したいと思っています。

 問 中小企業にとっては、返済猶予を認めている金融円滑化法が来春に期限切れを迎えると、倒産が一気に増えるとの見方があります。

 答 我々のお客様はほとんどありませんが、対策を先送りしてきた企業もあり、円滑化法によって問題が拡大している会社もあるでしょう。そうした会社は突っかい棒が外されると、どうなるのか懸念はある。

 資金だけ延命の治療をしても、経営改善に取り組まないと意味がない。問題を先送りして、金融機関が企業の不健全な未来を招くようなことがあっちゃいけない。円滑化法でモラトリアム(返済猶予)があったとしても、企業の改善にどれだけ真剣に取り組んできたか。それはいつの時代も変わらない話ですよ。

 問 お金を貸すことが顧客にとっていつも良いとは限らない。時には心を鬼にしなければならないと。

 答 ぎりぎりの判断って、あると思うんですよ。苦境をこう改善して、こうなるというシナリオが立てば、うちも思い切って貸しましょうと。だけど全く見通しが立たない、だけど延命したいという経営者もいるわけです。

 現実にこんな経験があります。どんどん赤字を出し、資産を食い潰している方がいた。何で赤字を出すかというと、非常に優しい人なので、過剰な従業員をずっと抱えている。それで資産を食いつぶし、最後に倒産なんてことがある。そんなことがあるわけです。

 だったら途中でやめて、別の事業展開を考える。従業員さんには退職金も多少出す。ただ単純にお金を貸せば済むという問題はほとんどありません。今の時代、知恵の出し方、コンサルティング機能を持ち合わせないと、金融機関はできない。

「脱原発宣言」から1年半

 問 話は変わりますが、吉原さんと言えば、東日本大震災後の「脱原発宣言」が世間の関心を集めました。東京電力からは電気を調達しないと。今、当時を振り返って、どう総括しますか。

写真:丸毛 透

 答 あの宣言から1年半ほど経ちました。あの時点でやむにやまれぬ気持ちということで、決断しました。企業として、より良い社会にどうコミットするかが大事だと思ったのです。

 原発問題はまさに最大の環境問題であり、金融機関としてできることは、節電すること、そして自然エネルギーの開発を促すことでした。だから、原発に頼らない安心できる社会作りをメッセージとして発信したのです。

 問 それにはものすごい勇気が必要だったのでは。金融機関として、電力会社を敵に回すわけですから。

 答 いや、何とかして社会を良くしたいという思いから始まった行動です。電気が足りないから原発を再稼働させようという話もありましたので、それなら節電する、そして、よそから調達するということでした。

 東京電力から特定規模電気事業者のエネットに切り替えると、コストも年間1000万円ほど下がった。この方が実際に安いんですよ。原発依存じゃない電気の方が安いという現実を、皆さん、どうお考えでしょうかと。

 問 経済界では、3割近い発電を担っている原発をなくすのは、経済合理的に合わないし、現実的でないという意見が多いようです。

 答 もし日本が昭和30年代から原発をやってこなければ、その方がコストは安かったのではないでしょうか。研究開発費や補助金などに膨大なコストがかかっており、しかも成功していない。今後予想されるコストとしても使用済み核燃料の保管や廃棄があります。そもそも保管する場所も廃棄する場所もない。解がないということは、コストは無限大ということです。

 原発は危険なプラントなんです。安全性が疑問視されている。それを確認せずに稼働し続けるのは、民間企業の常識としてはあり得ないですよ。

大震災を受けて「脱原発宣言」 間違っているとは言われないが、後に続いてくれる人もいません

 問 「脱原発宣言」を出してから、経済界の反応はどうでしたか。

 答 残念ながら、多くの人は続いてくれませんね。黙して語らず。おっしゃることは分かるけれど、政治的なことだからコメントできないという立場です。しかし、私はどの政党を支持しているわけでもありませんし、主義、主張、党派とは関係ない。逆に「吉原さんは間違っている」とも言われません。お客様がじんわり引いたかと言われれば、それはあったかもしれない。しかし気がついていませんね(笑)。

 問 節電の関連では、オフィスを29度にしてみたとか。

 答 やってみましたよ。しかし、正直、29度はきついです。お客さんが参っちゃうし、我々も参っちゃいました。そこで29度はやめましょう、28度にして扇風機を使いましょうと。

 問 取引先が取り組んでいる節電や再生エネルギー事業に関しても支援の姿勢を明確にしています。

 答 金融商品として「節電プレミアム預金」や「節電プレミアムローン」などを出しています。省エネに関する一定の設備投資をした場合、その顧客の定期預金金利は年率1%と赤字覚悟で優遇します。

 それを見たある支店のお客さんが「吉原理事長、よく言った。俺たちも何ができるか考える。みんなで相談しよう」となりました。そして、「そうだ、節電のためのアラーム商品を作ろう」と。うちはセンサー、うちは設計、うちはプリント基板と、みんなが得意な技術を持ち寄って、家庭のブレーカーに取りつける商品を作ったんです。これを取りつけると、基本電力を下げられる。

 問 理事長は職員の成果主義も廃止したと聞いています。

 答 昨年からやめました。100mの短距離をやっても仕方ないでしょう。1回の勝負なら、高性能のシューズで走ってもタイムは出るし、ストップウオッチを操作しても数字は上がるわけです。しかし、それが組織をメチャクチャにしてしまう。上司に取り入る人ばかり増やしてしまうのです。

 日本的な能力主義というのは、長距離を走って、絶対に実力があるんだという人が、上に上がるのが筋ですよ。成果主義は一般の社員ではなく、経営者だけやればいい。

 問 理事長は自身の年収についても上限を決められたとか。

 答 年収1200万円にしました。信金の支店長クラスの平均は1350万円ですからね。私よりもらっている人が結構います。正直言えば、やせ我慢の世界ですよ。私は日頃から、人間はカネのために働いているんじゃないと公言しています。言った以上はやらないと。

 取締役だから給料を上げろというのは米国から来た考えでしょう。その結果、自分の地位保全や、天下り先を考えるような人ばかり増え、実際、出世していく。電力会社もそんなところがあるでしょう。

 うちの顧客には立派な人がいます。身銭を切って、資産をすべて担保に入れて、従業員を必死に守ろうとしている。ほとんどはオーナー経営者。サラリーマン経営者でそこまで覚悟をしている人は少ないでしょう。結果、真面目に働いて泣いている人がいる。我々はもっと頑張らないといけないんです。

傍白
 電力会社も銀行もバッサリ。噂には聞いていましたが、ここまで歯に衣着せぬ発言が続くとは。しかも、会員の協同組織である信金とはいえ、金融機関のトップです。ちなみにインタビュー中、「ここはオフレコで」という発言は一切なし。思わず「銀行の頭取だったとしても、同じ発言をしますか」と聞いてしまいました。返ってきた答えは、「自爆覚悟で同じことを言います。株主がクビにしたいなら、するでしょう」。どこまでも潔いというか、ケンカ腰というか。ただ、過激な発言には本質を突いたところがあります。本文では触れませんでしたが、「原発もマネーも麻薬のようなもの。銀行も下手をすれば、今回の電力会社のようになる」という警鐘にはハッとさせられました。
日経ビジネス2012年11月12日号 132~135ページより目次