東京都知事を4期目の途中で突如、辞任。新党を立ち上げて国政復帰を狙う。都政で感じた国への不満を解消すべく、80歳が立ち上がる。尖閣問題の引き金を引いた老政治家は次の衆院選で、台風の目となるのか。

 10月末、石原慎太郎氏は約14年間務めた東京都知事の職を辞した。80歳にして新党を立ち上げ、国政を目指す理由は何か。石原氏の真意を読み解く。(10月25日の辞任会見を基に構成)

写真:AFP=時事

 このたび、最後のご奉公をしようと思い東京都知事を辞任すると決めました。私は14年、正確には13年と8カ月にわたり都知事を務めてきました。ほかの県と違い、東京の問題は日本全体の問題です。(国政復帰は)東京のためだけではなく、日本のためになります。

 (都知事時代は)国の妨害に遭って苦しい思いをしてきました。新党を作ってやろうとしていることはすべて、都知事としてやってきたことの延長です。

 現在の中国共産党で国父とされている毛沢東が書いたものに「実践論・矛盾論」があります。私は学生時代にそれを手にしました。矛盾を解決するには、背後にあるもっと大きな問題を解決しなければならないという話です。私は共産主義は嫌いですが、(この言葉は)まさにその通り。

 国政で解決したい大きな矛盾がいくつかあります。最たるものが、占領軍が日本に与えた日本国憲法。絶対平和という日本人独特のパシフィズム(平和主義)を植えつけ、権利と義務のインバランス(不均衡)が我欲を培い、国民全体がセルフィッシュ(利己的)になった。それに政治が迎合せざるを得ない今日の状況を作ったのです。

憲法問題に続いて熱弁を振るったのは、国の財政問題。財政再建に向けて官僚支配の変革を訴える。

 日本の財政はピンチと言いますが、余力はある。だが、それを引き出せていないし、使えていません。中央官僚はそれを把握しながら、隠しています。国の財政にはバランスシートがありません。これで健全にできるわけがない。都は複式簿記で合理化し、財政再建の道筋を作りました。会計方式を世界基準に変えればいいのです。

官僚には発想力がない

 国家との摩擦の中で感じたことは中央官僚の独善です。官僚には発想力がない。自分で責任を持って判断し、解決しようとしません。尖閣の問題もそう。こうした通弊を変えなくてはならないのです。

 例えば文部科学省が主導した、ゆとり教育はどうなったか。たちまち学力が落ちました。その過ちを文科省が取り消しましたか。厚生労働省の保育所問題もそうです。国は「預かっている子供1人当たり1.5坪の遊び場を作れ」と言う。だけど、20~30人の子供を預かるとして、それだけの土地を買おうとしたら、東京の地価ではべらぼうな値段になります。これでは保育所を新設できない。民間が持て余す資産で子供を遊ばせようと動いたら、猛反対を食いました。

 役人は一切、現場を見ません。そういう行政が続いているのです。私が代議士の頃から、米軍横田基地の問題があります。長い滑走路を有しながら、米軍に占領される形になっています。何で活用できないのかと官僚に聞いても、「(米国の)国防総省だけは刺激しないで」と答えるのです。

 横田基地の問題などの解決は、国民全体のためになることです。国は国民や市民を無視している。私はこれが限界に来たと考えています。中央集権を削除しないと受け入れられない問題がたくさんある。有志の方と協力して、これらの問題解決に臨みたい。

新党は政界に何をもたらすのか。石原氏は日本維新の会との合流に含みを持たせながら、今後の展開を語った。

 政策については、橋下(徹・日本維新の会代表)君と話し合ってきました。エネルギー問題などで意見が違う部分もありますが、そこは話し合えばいい。それが政党というものです。

 維新と連合を組むかどうかは(現状では)分かりませんが、自民や民主と組むつもりはない。当然、小沢(一郎・国民の生活が第一代表)とも。私は自民にいた当時、苦い思いをした人間。自民に戻らないし、戻りたくもない。

 80歳といい年ではあります。体力は落ちてきていますが、気力は年々増しています。都知事を辞任しても、政治家を辞めるわけではありません。もうちょっと違った形で、大きな形で、お国に最後のご奉公をしようと思っています。

(構成:白壁 達久)

「石原新党」見切り発車に政界困惑

 石原慎太郎氏の新党結成表明は衆院解散・総選挙をにらむ与野党各党に衝撃を与えた。「政界再編の起爆剤になる」「全国的なブームにはならない」など見方は分かれるが、各党は選挙戦略の見直しを迫られている。

 最も影響を受けそうなのが民主党だ。民主内には石原氏の政治姿勢に賛同する保守系議員が少なくない。衆院での与党の過半数割れが視野に入る中、新党に合流する議員が相次げば、内閣不信任案の可決が現実味を帯びてくる。

 石原氏の後継を選ぶ東京都知事選も民主にとってマイナス材料でしかない。政権与党として独自候補擁立を目指すのが筋だが、民主幹部は「逆風が吹き、苦戦必至の現状では慎重にならざるを得ない」と漏らす。都内選出の国会議員を擁立する案や、次善策として石原氏が名前を挙げた猪瀬直樹・都副知事を支持する構想も取り沙汰されるが、12月16日投開票の「首都決戦」に様子見ムードが漂う。

 臨時国会召集直前というタイミングでの石原氏の新党結成表明には、「年内衆院解散」への風を起こす狙いがある。民主の一部に早期解散を容認する声もあるが、民主のある閣僚は「とても都知事選と連動して衆院選を戦う雰囲気ではない。各種世論調査で、内閣支持率は一層沈んでおり、年内解散はますます遠のいた」と語る。

 自民党にも波紋が広がっている。保守色を前面に出す石原氏の政治姿勢は安倍晋三総裁の政策と重なる部分が多い。自民内では、衆院選後の石原新党との連携や連立を期待する声も上がるが、ある自民幹部は「先の話よりまずは衆院選。東京を中心にうちの支持層が石原新党に流れる可能性が大きい」と身構える。自民のあるベテラン議員は「目論見通り、自民、公明で過半数を獲得できるかどうか、分からなくなってきた。政権奪還後も不安定な政権運営が続くのではないか」と顔を曇らす。

 石原氏が唱える、橋下徹・大阪市長が率いる日本維新の会など第3極による「大連合」についても、不透明感が漂う。維新関係者によると、石原氏のこの時期の新党結成と維新との連携への意欲表明は「寝耳に水」。石原氏の動きは、維新への根回しなしの見切り発車だったというわけだ。

 実際、第3極結集には政策のすり合わせと、共倒れを防ぐための選挙区調整というハードルがある。

 例えば、次期衆院選の争点になる原子力発電所問題については、維新とみんなの党が将来の脱原発を掲げるのに対し、石原氏は必要不可欠との立場だ。石原氏が消費増税を容認する一方、維新とみんなは「消費税の地方税化」を主張し、抜本的な見直しを掲げる。石原氏周辺からは「政策の違いは大きな問題ではない。今後の話し合いで溝は埋まる」と楽観的な見方も出ているが、安易な妥協は「野合」との批判を浴びかねない。選挙区調整に関しても、石原新党とみんなはともに関東が拠点だけに困難が予想される。

 それでも自民幹部は「衆院選の構図が不明確になるほど、その後の出番があると石原さんは賭けに出たのだろう」と語る。狙い通りの“乱世”を生み出せるのか。「石原劇場」の最終章が幕を開けた。

(編集委員 安藤 毅)

日経ビジネス2012年11月5日号 12~13ページより目次

この記事はシリーズ「時事深層(2012年11月5日号)」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。