尖閣問題によって、中国での日本車需要は大幅減が避けられない。その影響を完成車メーカー以上に受けるのが部品メーカーだ。超円高を背景にした完成車各社の部品調達改革も追い打ちをかけ、再編もささやかれる。

 「中国事業は来年2月の春節後に元通りになると期待も込めて考えているが、要因が要因だけに正直、予測は立てづらい」。ホンダの岩村哲夫副社長は、苦渋の表情を浮かべた。

 10月29日。ホンダは2012年度の連結業績予想を下方修正し、純利益は3750億円と従来予想から950億円引き下げた。言うまでもなく、尖閣諸島の国有化に端を発した中国での反日感情の高まりが主因だ。今年度の中国での4輪車の販売台数は、当初計画より13万台少ない62万台に修正した。

 中国販売の不振は、トヨタ自動車や日産自動車なども同じ。株式市場では自動車株に売り圧力が強まっている。

完成車以上に売り込まれる

 だが、実は完成車メーカーよりさらに下落しているのが部品メーカー株だ。下のグラフは、日本政府が尖閣諸島を国有化した9月11日以降の主な自動車・部品株の値動き。特に、カルソニックカンセイやユニプレスといった中国事業の比率が高い日産関連メーカーの下げがきついのが分かる。

 完成車メーカーは中国における規制のため、現地子会社には最大5割までしか出資できず、出資分の範囲内で連結決算に反映させる。それに対して、部品メーカーの多くは連結子会社で、収益の全額を決算に取り込んでいる。主要顧客である完成車メーカーの変調は、カウンターパンチのように倍の衝撃となって部品メーカーを揺さぶる。

 メリルリンチ日本証券の自動車担当アナリスト、中西孝樹氏は「仮に今年10~12月に日系自動車メーカーが中国で5割減産する場合、今年度の連結純利益を約5%押し下げる。しかし、部品メーカーへの影響額は10%とさらに大きくなりそうだ」と指摘する。

 自動車部品株下落のワケは、中国問題だけにとどまらない。クレディ・スイス証券の秋田昌洋氏は「部品会社の苦境は構造的なもので、長期トレンドで見ても完成車を下回る株価推移が続いている」と指摘する。

 超円高が続く中、完成車メーカーの海外調達が加速し、部品メーカーも海外進出を迫られる。その結果、「部品メーカーの利益が減少している」と秋田氏は分析する。従来、円建て取引で完成車メーカーが肩代わりする構図にあった為替リスクを、部品メーカーが取らざるを得なくなっているためだ。  2012年4~9月期の連結業績を上方修正し、純利益が前年同期比2.8倍の301億円となった三菱自動車。東南アジアで小型車の販売が好調なうえ、中国事業の比率が相対的に高くないことが幸いした。理由は、それだけではない。

 10月25日。主力車種のSUV(多目的スポーツ車)「アウトランダー」の新商品発表会で、益子修社長は「(好決算は)海外からの部品調達が加速していることが大きい」と強調した。

 同社は、2013年度に国内生産車の海外調達比率を25%に高めるとした目標を、1年前倒しで今年度に達成する見通し。特に、ロシア向けを除く全量を国内生産する新型アウトランダーでは、海外調達比率が31%に達する。海外部品メーカーの実力が向上してきたこともあり、今年度はエンジン用アルミダイカストやタイヤ回りの部品を新たに海外から調達するという。

 中国リスクが小さく、米国での販売増を受けて業績が絶好調の富士重工業も、部品の海外調達を増やしている。今年、海外調達の専門部署を設置。現行で10%台の海外調達比率を、継続的に引き上げる方針だ。

 三菱自と富士重の取り組みが成果を上げていることは、そのまま部品メーカーの苦況を象徴する。今年1~9月の国内生産比率は三菱自がほぼ5割、富士重が75%と、大半を海外生産するトヨタなど大手3社に比べて高い。企業規模からも海外生産を一気に拡大するのは難しく、国内部品メーカーから見ると、安定的な受注が見込める“上得意”だった。だが、その両社がリーマンショックとその後の超円高を受け、海外調達拡大に静かにハンドルを切っていたのだ。

 完成車メーカーが調達改革に乗り出したのに加えて、中国で勃発した尖閣問題。部品メーカーを襲う内憂外患の中、中西氏は「世界規模で部品メーカーの再編が起こる可能性がある」と予想する。

 その目玉となりそうなのが、伝統的なケイレツの色彩を比較的色濃く残すトヨタ系各社。トヨタは今年4月、部品共通化と商品力向上の両立を目指す新しい開発手法を導入すると表明。トヨタが発注する部品の種類が減れば、受注する部品メーカーの数も当然減る。日産なども部品共通化を進める。

 これまで日本車の強さを支えてきた日系部品メーカー。いよいよ待ったなしの状況だ。

日産が仕掛ける日韓部品競争

 「部品の在庫日数を25日から3日程度に圧縮できる」。日産自動車で購買部門を担当する山内康裕・常務執行役員は胸を張った。

 日産は10月、韓国製部品をトレーラーに搭載し、フェリーを介してそのまま日産自動車九州(福岡県苅田町)に直送する物流方式を始めた。従来は韓国の部品工場からトレーラーで集荷した後、港でコンテナに部品を移し替える手間が発生していた。

 トレーラーはヘッドと呼ばれる牽引車と、シャーシと呼ばれる荷台部分に分かれており、それぞれが専用のナンバープレートを取得している。今回は日本のナンバーを取得したシャーシを、韓国の公道でそのまま走行する許可を韓国当局から取得した。日本から韓国へ空の状態のトレーラーを輸送し、韓国から日本に部品を積んで戻る。韓国で走行する場合は、韓国の物流業者である天一(チョンイル)定期貨物自動車のヘッドにシャーシを連結。船で日本に運んだ後は、日本通運のヘッドに連結して日産九州まで運ぶ。

 船に載せる際にシャーシの中身をコンテナに積み替える必要がなくなるため、物流日数を大幅に短縮でき、発注サイクルを月次から日次へと切り替えられたという。積み替え作業が発生しないので、積み荷が傷むリスクも減る。

 来年には韓国ナンバーのシャーシを日本の公道で走らせる許可も日本当局に申請し、さらに物流を効率化する考えだ。この場合は、韓国ナンバーに加えて日本のナンバーを取得して張りつける必要がある。

自動車部品をコンテナに積み替える手間がなくなる(写真:ロイター/アフロ・写真はイメージ)

 韓国では自動車部品企業が育っているほか、電子部品などの工場も集積している。日産の取り組みが成果を上げれば、九州に生産拠点を持つほかのメーカーにも、同様の取り組みが波及する可能性が高い。国土交通省は「中国とも取り組みを進める意向はある」(物流政策課)としている。

 日産は物流費などを含めたトータルの部品調達コスト削減への取り組みを強化しており、「地場調達」を旗印に日産九州をモデル拠点と位置づけてきた。ただし、ここでいう地場という言葉の定義は「九州を含むアジア」のこと。物流コストが大幅に下がれば、日系部品メーカーと海外勢の競争はさらに激化する。日産の狙いはまさにそこにある。

(広岡 延隆、伊藤 正倫)

日経ビジネス2012年11月5日号 14~15ページより目次

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