知られざるファッション商社の世界最大手、香港の利豊(リー&フォン)グループ。デザインから物流まで一手に請け負うサプライチェーンで2000以上のブランドを支える。成長するアジア市場では自らブランドを買収、ファストファッションに殴り込みをかける。

 消費者にもよく知られた数々のファッションブランド。そうしたブランドを、消費者には見えないところで支えている巨人企業がある。

 香港の利豊(Li&Fung=リー&フォン)グループ。日本では、その名をほとんど知られていないが、世界の著名ブランドを多数顧客に持ち、ザラやH&Mに匹敵するスピードで商品を提供する。ブランドのファストファッション化を支えることで急成長を遂げ、今や世界最大のアパレル商社と言っていい存在だ。

 「すべてのブランドがザラやH&Mのように世界展開できるわけではない。そこに、我々のビジネスチャンスがある」。リー&フォングループの会長、ウィリアム・フォン氏は語る。

「中国市場を攻める」と語るリー&フォンのウィリアム・フォン会長(写真:Sunny Chan)

2000以上のブランドの黒子

注:インディテックスの決算は1ドル=0.8ユーロ、H&Mは1ドル=7クローナで換算。リー&フォンは2011年12月期、インディテックスは2012年1月期、H&Mは2011年11月期

 強さの秘密は、世界中に張り巡らされたサプライチェーンにある。全世界にある1万5000以上の業者や工場をネットワークで結び、精緻な受発注システムを構築している。その生産網は中国、ミャンマー、バングラデシュといったアジア近隣諸国から、トルコ、中南米、アフリカにまで及ぶ。

 この巨大なネットワークの中から、顧客の要求に応じて「最も安く、速く製造できる手段」を割り出し、商品を供給する。例えば、「ジャケットを5000枚」といった発注が来ると、表生地は中国で、裏生地は韓国で調達、それらを人件費の安いバングラデシュで縫製し、そこから欧米の顧客の店舗まで出荷するという流れを瞬時に構築する。納期は製品にもよるが、平均で3週間程度。商品供給の速さでインディテックスやH&Mとほぼ肩を並べる。

 ファストファッションの世界では、自前で製造拠点を管理することはリスクが伴う。例えば、近年、中国の人件費が高騰している。これを回避するため、バングラデシュに工場を移そうと思っても、自前では時間も費用もかかる。「だが我々に任せていれば、そんな心配は無用」(フォン会長)。

 事実、リー&フォンの世界最適生産網を頼るブランドは多く、米著名ブランドのアバクロンビー&フィッチ、トミーヒルフィガー、DKNYなど、2000以上の取引顧客を抱える。実はインディテックスも、ザラブランドの衣料品の一部をリー&フォンに委託する大口顧客である。


 2011年12月期の売上高は200億ドル。業態の違いはあるが、インディテックス(172億ドル、2012年1月期)やH&M(157億ドル、2011年11月期)を規模で抜く。世界的なファストファッション需要の拡大によって、2006年12月期に2.8億ドルだった純利益は2011年12月期に6.8億ドルと倍以上に増えた。5年間の年間平均成長率は19.3%に達する。

 さらに、リー&フォンは自前のデザイン部門も保有している。単なる下請けにとどまらず、自ら製品を開発し、ブランドに新しいファッションを提案する。取り扱う製品も衣料品から、バッグや小物などの雑貨、玩具、化粧品にまで広げることで、ファッションブランド以外の大口顧客の獲得に成功している。一例が、世界最大の小売業であるウォルマート・ストアーズとの提携。今年9月には従来の調達代行契約を見直し、デザインなど調達以外のサービスも提供する契約に切り替えた。

 2011年、リー&フォンが扱った商品点数は60億を超え、同社の貿易量について、世界景気を反映した指標として英エコノミスト誌が紹介するなど、欧米からは流通の世界企業として認知されている。世界に張り巡らせた物流網は、それ自体が事業としての価値を持ち始め、三井物産など日本企業も、同社の物流事業と提携し、ビジネスを展開している。

 このファッション業界最大の「黒子企業」が今、自らファストファッションに乗り出している。

韓国で展開する「H:CONNECT」。商品の高速回転が売りだ

 韓国の主要都市に展開中のブランド「H:CONNECT」。リー&フォンの小売部門が開発し、今年10月にデザインを刷新した、戦略的なファストファッションブランドである。若い世代をターゲットに、カジュアルなデザインを揃える。品揃えに当たっては、これまで培ってきたリー&フォンのノウハウを最大限生かしている。

 例えば、デザイナーが韓国の街頭で流行しているファッションを調査し、商品化の参考になりそうな着こなしを発見すると、それをスマートフォンで撮影、韓国オフィスのデザインスタッフに転送する。商品化の判断が出れば、すぐに商品サンプルを作製、即座に発注情報が中国の縫製工場に飛ぶ。完成した製品が店舗に届くのは、現状ではスマホでの撮影から3週間程度だ。

目指すは「ザラ1.5」

 「納期はさらに早める。従来は、春夏と秋冬にシーズンと相場が決まっていたが、うちは毎日がシーズン」と、ブランド統括責任者のブライアン・リー氏は言う。目指すのは、インディテックスやH&Mを上回る製品投入サイクル。「ザラ1.5」とリー氏が呼ぶゆえんだ。ただし、インディテックスやH&Mのような世界展開は考えていない。「我々にとっては庭のようなアジアに集中することで、大手ブランドとの戦いに競り勝つ」とリー氏は言う。

 デザインから材料の調達、縫製までをアジア内で完結し、商品展開の速度を上げることで、欧州勢に対抗する。欧米のファッションとの違いを強調し、韓国の人気アイドルとのコラボレーションモデルも発表した。

 中国は、リー&フォンにとっては創業の地。欧米市場では世界のブランドの黒子を演じてきたが、アジア市場となると話は別。「世界の消費市場となった中国を中心に、アジア地域はグループを挙げて攻める」とフォン会長は語る。ここ数年はアジア地域でアパレルブランドを積極的に買収している。2011年は13のブランド保有会社を傘下に収めた。既に、ブランドを展開するアジアでの店舗は、中国、香港、台湾、韓国、及び東南アジア地域で2900を超えた。「保有ブランドも店舗の数も、今後さらに増やす」とリー氏は言う。

 その先には、悲願の日本市場進出も視野に入る。今年8月、2007年に資本提携していた兼松の子会社、兼松繊維を100%子会社化。ユナイテッドアローズやライトオンといった日本の衣料品小売りを顧客とすべく、着々と準備を進める。フォン会長は、可能性があればアジアでのM&A(合併・買収)も検討するとしており、日本国内で名が知れ渡るのも、そう遠い将来ではないかもしれない。

 自らのブランドを掲げ、ファストファッションに参入する新勢力。成長市場である新興国を舞台に、欧州勢との競争は、激しさを増す一方だ。だが、この喧騒の中で、存在感を示せる日本企業は少ない。世界的なファストファッションの流れに取り残されつつある日本のアパレル企業に、打つべき手はあるのだろうか。

日経ビジネス2012年11月5日号 36~38ページより

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