足元の停滞感はともかく、中国、韓国経済は中長期的に見て成長潜在力を持っているのか。日中、日韓関係の悪化とともに、企業の視線はその一点に向かいつつある。中長期で多額の投資を継続できる市場かどうか、政治問題で再認識され始めた「カントリーリスク」に注目しているのだ。

 まず関心を寄せるのは長期的な中国の成長力。既にGDP(国内総生産)で世界第2位の大国となったが、実は先進国とは大きく異なる2つの特徴がある。

 その1つは、住宅投資、設備投資に公共事業などを合わせた固定資本への投資でGDPを高く押し上げる構造になっていることだ(下グラフ参照)。

 「道路や橋、施設などへの公共投資と民間のマンション・戸建て、オフィスビル、工場などへの投資を猛烈に行うことで経済を拡大させたのがここ10年の超高成長の実像だった」(武者陵司・武者リサーチ代表)

 特に目立ち始めたのは胡錦濤・国家主席が中国共産党中央委員会総書記に就任した2002年頃から。それまでGDPの33%程度だった固定資本投資は、この時期から急増し始め、昨年は45.7%に達している。

 もちろん、新興国が成長をする過程で、投資が多くなるのは珍しいことではないが、日本とほぼ同程度の経済規模を、日本(約20%)の倍以上の固定資本投資で作り上げ続けているとなると、その継続性とバブル発生の可能性に不安が出てくる。成長のためには毎年、前年以上の規模の投資をし続けなければならなくなるからである。

 「胡政権の10年は、北京オリンピック、上海万博など多額の固定資本投資ができるイベントエコノミーの時代だった」。富士通総研の柯主席研究員はこう指摘する。だが、そうした巨大イベントは終わり、大型投資の対象がないうえに、「投資を継続するための資金を中央政府と地方政府は調達し続けられるのかという疑問がある」(柯主席研究員)。

浮かぶ共産党一党支配の「限界」

 しかも、市場経済が徹底していないから、過剰投資が蔓延し、例えば国有企業が中心の鉄鋼業界は、生産設備の過大な建設で鉄鋼が需要以上に生産され、アジアの市況を低迷させるまでになっている。JFEホールディングスは、今年4~9月期の連結経常利益が前年同期比約90%減となったが、主因は中国の過剰生産による市況低迷だった。

 利用者の少ない道路や地下鉄などへの投資は、経済の拡大再生産効果が低いから税収増につながりにくく、政府の首を絞めることになる。それでも投資を続けると、バブルが生まれ非効率な企業でも生き残れることになる。「胡政権の下で国有企業の再編がほとんど進まなかった」(第一生命経済研究所主任エコノミスト、西濱徹氏)のはそのためだ。

 世界の工場として輸出を成長の牽引役としてきた中国のこれまでの姿も変質しつつある。要因の1つは最低賃金の上昇。工場の現場従業員の賃金は、製造業が一定の地位を占めるアジアの国・地域では韓国、台湾、マレーシアに次ぐ位置に達し、「低賃金を生かし、低コストでモノを作る拠点という中国の位置づけは変わりつつある」(若松勇・日本貿易振興機構アジア大洋州課長)。

 ここ数年、ベトナム、タイ、インドネシアなどに日本企業の工場進出が増え始めた裏にはこれがあり、輸出増でGDPを押し上げるのは今後、一段と難しくなると見られる。

 さらに根深い問題となっているのは、経済成長の果実が一般国民にまで十分渡っていないと考えられることだ。GDPに占める個人消費の割合が、先進国の半分に近い35%しかないのが、その表れだ。

 「最低賃金を上げても平均賃金は抑えられ、労働分配率は40%程度しかない。一方で腐敗は広がり、共産党幹部や国有企業、民間企業幹部が多額の“報酬”を取っている」(富士通総研の柯主席研究員)とさえ言われる。

豊かさを十分享受できない農民工

 内陸部から沿海部の大都市周辺の工場に働きに出てきた農民工と呼ばれる人々は、戸籍を地元から移せない制度があるため、都市部で子供が生まれると就学時には、本籍地に戻らざるを得ない人が多いという問題もある。結果、都市部と農村部の所得の差は既に3倍にも広がっている(上グラフ参照)。

 一般国民の平均賃金が上がらないうえに、こうした問題もあるため、経済規模の割に中産階級が育っておらず、それが投資主導の経済成長をまた助長するといういびつな状態を生んでいる。9月の反日デモが暴動に発展した裏には、こうした社会の矛盾が基になった「富の2極化拡大」(佐々木智弘・アジア経済研究所副主任研究員)への不満の爆発があったと見られる。

 だが、こうした問題を放置したのは結局、本来の市場主義経済がないためでもある。突き詰めれば共産党一党独裁の限界である。

 中国経済の難題は、これからさらに続く。その1つは、生産年齢人口(15~64歳)が2014年、総人口も2026年をピークに減少し始めることだ。「生産年齢人口の減少は、労働需給を逼迫させ」(伊藤信悟・みずほ総合研究所中国室長)、中期的な資産価格の下落にもつながる。これは、潜在成長率の低下の恐れを広げるだけでなく、過剰投資で押し上げられた不動産価格を長期低落に転じさせかねない震度さえ持つ大問題だ。

 実は、これらの難題は韓国も同様に抱えている。生産年齢人口と総人口の減少が2010年代と2020年代半ばに始まり、財閥主導で国際競争力を高めた成功の果実は財閥幹部など一部のエリート層以外に渡っていない。「富の2極化が問題になっている」(向山英彦・日本総合研究所上席主任研究員)のだ。

 財閥系大企業に入社したエリート予備軍も多くは、40歳あたりで退職する“慣行”となっており、退職後に自営業に転じて失敗する人も少なくない。失敗で借金を背負う人が増える一方、激烈な競争に勝ち残るため、子供の教育投資が膨らみ続け、個人の負債が急増し、社会問題にもなりつつある(グラフ参照)。

 電機、自動車産業などで日本に追いつき、追い越そうとしている韓国もこれまで同様の成長力の維持は次第に容易でなくなる局面に差しかかりつつあるのだろう。

 日本企業は、中韓への中長期の投資、事業戦略を改めて見直さなければならない時期に来ているようだ。

日経ビジネス2012年11月5日号 50~51ページより

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