尖閣諸島の国有化を受けた中国の官製デモや暴動には暗澹たる気持ちにさせられた。日本のスーパーや工場が破壊されたり、日本車が集中的に被害を受けたりで、どうしてこんなにメチャメチャをするのか、憤りを覚える。中には、日本車に乗っていた中国人が暴行され、重傷を負ったという報道すらある。

 それにしても、どうしてこんな時に長年の懸案事項を表面化させたのか。世界政治、つまりパワーポリティクスの観点から疑問を感じる。

 今、中国は勢いに乗っている。昨年末に日本を抜いて世界第2位の経済大国に躍り出てきたところだし、13億人の巨大市場を背景に世界のビジネス意欲をどんどん吸い寄せている。

 一方、日本経済は20年以上のジリ貧とデフレに苦しみ、国全体に元気がない。今や凋落の途に就いた国と見られがちである。こんな時に領土問題を持ち出せば、中国が高飛車に出てくるのは火を見るより明らか。その対抗措置がデモや暴行という形で表面化したのは、中国もお粗末なものだが。

 タイミングが悪すぎた。考えてもみよう。これから10年もしないうちに、中国はものすごい勢いで高齢化社会に入っていく。一人っ子政策の影響で、2015年には生産労働人口がピークになるとも言われている。

 その先、中国経済がこれまでと同じように高度成長を続けられるのかは、神のみぞ知るところ。恐らくではあるが、まだ国全体が十分に豊かになりきれていない中国で高齢化が急速に進み始めると、いろいろと社会的な歪みが噴き出てこよう。

 そうなると、政策運営は極度に難しくなる。共産党独裁政権がどうなるかは置いておいても、相当な混乱が見られよう。その時までに日本は経済を立て直し、国力を充実させておくことだ。外交など交渉事は経済力を高めておけば、いくらでも有利に運べる。

 領土問題はパワーポリティクスの最たるもので、時とタイミングを捉えるべきである。今は、とにかく日本経済を元気いっぱいにさせてしまうこと。それからだ、次の一手は。

中国各地で起こった反日デモでは、日本車も標的になった(写真:ロイター/アフロ)

13億人が知った「豊かな生活」

 一時的には、日中の両国間でいろいろな問題が噴き出てこようが、長い目で見れば相互的な経済関係は深まる一途だろう。

 たとえ共産党政権が反日教育を徹底強化しようと、人々の生活が教条主義的な枠の中にいつまでも収まっているとは思えない。もう誰も人民服を着ていないのだし、その水準はともあれ豊かな生活を知ってしまった中国の人々が、果たしてどこまで日本製品や日本的サービスをボイコットできようか。

 政治や外交は国に任せておくとして、民間ビジネスでは13億人の人々が絶対に必要とする、あるいは欲しがるモノやサービスの提供に注力すべきだろう。先方が必要とする限り、摩擦も軋轢も発生しない。

 気楽なことを書いていると思われるかもしれないが、世界のグローバル企業の発展の歴史を見れば、学習事例はどこにでも出てくる。むしろ、世界中で遭遇するいろいろな挫折を乗り越えて、いずれの企業も真のグローバル企業となっている。

 日本企業もじっくり時間をかけて現地化を進めていくか、絶対に買わざるを得ない製品に特化していくことだ。それによって、徐々に中国ビジネスが安定軌道に乗っていく。その過程で、中国の人々には1980年代の開放政策時に日本企業がどれだけお手伝いしたかを思い出してもらいたいものだ。

澤上 篤人(さわかみ・あつと)氏
澤上 篤人(さわかみ・あつと)氏 1947年名古屋市生まれ。スイスの投資会社などに勤務した後、79年からスイス、ピクテ銀行の日本代表。99年にさわかみ投信を設立。

(写真:陶山 勉)

日経ビジネス2012年11月5日号 114ページより目次