飛行機とヘリコプターの長所を併せ持つ垂直離着陸機「オスプレイ」。だが事故が相次ぎ、“未亡人製造機”と揶揄される悪役になってしまった。オスプレイは本当に危険な航空機なのか、その性能とともに紹介する。

 垂直離着陸輸送機「オスプレイ」が米軍普天間基地に配備された。沖縄県では、配備撤回を呼びかける抗議行動が続いている。オスプレイに対するアレルギーは、過去に起きた複数の事故が原因だ。

 果たして、オスプレイは本当に危険な航空機なのだろうか。

 オスプレイとは鷹の一種である「ミサゴ」のことで、正式名は「V-22」。海兵隊・海軍型(MV-22)、空軍型(CV-22)の2機種があるが、約90%が同一の機能となっている。見た目は、MV-22の方が白っぽい。

 用途は、MV-22が人員や物資の輸送を主とする揚陸作戦に、CV-22が救出・救難を主任務とする戦闘作戦に使われる。沖縄に配備されたのはMV-22である。

飛行機+ヘリの利点を採用

3つのモードで飛行

エンジンの先端に約5mのブレードが3枚ついた、左右2つのローターによって推力を得る。離陸は垂直離着陸モードか転換モードで行う(固定翼モードでは地面にブレードが接触してしまう)。垂直離着陸モードから固定翼モードまでの移行時間は約12秒

(写真上・下:AP/アフロ、写真中:ロイター/アフロ)
飛行機とヘリの利点を持つ

 そもそも垂直離着陸機の構想は、1950年代には定まっていた。様々な試作を経て80年代初頭、米国防総省が輸送ヘリ「CH-46」の後継機としてオスプレイの開発を発表。一言で言えば、飛行機(固定翼機)とヘリコプター(回転翼機)の「いいとこ取り」をした航空機と言える。

 一般的な飛行機は、エンジンの推力とともに翼で空気の流れを取り込み、揚力を得ながら飛行する。大気の流れ、いわば「他力」を利用するので、(1)速いスピードで(2)長い距離を飛行することができる。しかし、離陸のために長い滑走路が必要で、空中で止まること(ホバリング)ができない。

 一方、ヘリコプターは機体上部の翼全体が回転し、下降気流を生じさせながら浮上、飛行する。よって(3)狭い場所での離着陸や(4)ホバリングが可能になる。半面、速度が遅く、長い距離の飛行には不向きだ。

 オスプレイは離陸後、エンジンの向きを垂直方向から水平方向に変えることができる。そのため、(1)~(4)のそれぞれの長所を持てるようになった。垂直離着陸モード(地面に対し90度)、転換モード(同84度~1度)、固定翼モード(同0度)の3つのモードでの飛行ができる。

 例えば現在、自衛隊に配備されているCH-46はオスプレイとほぼ同じ大きさだが、その能力差は一目瞭然だ。CH-46に比べ、速度は2倍、行動半径は4倍、航続距離は5倍、荷物の積載量は3倍になる。

 沖縄を起点にした場合、CH-46では不可能だった尖閣諸島への移動も、オスプレイであれば悠々可能だ。「尖閣諸島で有事が起きた場合、CH-46では船で近くまで運ばなければならず、6時間以上はかかる。オスプレイでは2時間以内の移動が可能になる。今後、様々な場所で、オスプレイは非常に有効な安全保障上の手段になり得るだろう」(ボーイング・ジャパン)。

 機体の材料にも最新技術が使われている。全体の43%に複合材が用いられた。民間航空機の「B(ボーイング)787」に利用されている炭素繊維複合材ではなく、グラファイト繊維素材が主だ。従来機に比べて強度が増したことで、被弾した際の破壊のリスクが減り、同時に燃費や飛行速度も向上した。

 オスプレイは、空母などに搭載されることも想定されている。軍用機にとって塩害は悩みの種だが、オスプレイを構成する材料の多くは非鉄なので錆にも強い。例えば燃料タンクは特殊ゴムでできており、直径12.7mmの弾丸を受けた場合でも、瞬時に穴が塞がる「セルフ・シーリング・タンク」を採用している。空中給油も受けることができる。あらゆる面で、理想を追求した軍用機と言えるだろう。

 2005年に本格運用が始まると、米軍にとっては軍事上のエポックメーキングとなった。ヘリコプターよりも高い空域を飛行でき、スピードも速い。そのためCH-46と比べれば、騒音面でも格段に改善されていると言える。

 つまり、敵に気づかれずに接近でき、戦術上も有利に展開できるということだ。イラクやアフガニスタンでの戦闘ではオスプレイが多数投入され、数千の作戦に参加し、成果を上げた。

 オスプレイの胴体は、輪切りにすると四角く、空間に無駄が少ない。兵員24人のほか、内部に貨物9100kgを搭載できる。医療機器を載せれば、飛行中に簡単な外科手術も可能だ。

 こうした利点は、災害時に生かせることもある。2010年に31万人以上の死者を出したハイチ地震では、災害救援活動に参加。大量の物資を速く、狭い場所に運び入れることができ、人道的な観点でオスプレイの活躍に世界の目が集まった。VIPの輸送にも使われた。オスプレイの使途は、多岐にわたっている。

ホバリングしながらの軍事作戦(左)と機内への医療機能搭載の例(右)

数値上は従来機より低リスク

CH-46との差は歴然
基本性能の比較(出所:防衛省)

 問題は安全性だ。これまで7件の墜落事故を起こし、計36人が死亡している。

 開発過程にあった1991年から2000年にかけて4件の墜落事故が起き、原因究明の末、エンジン部分や飛行制御コンピューターに改良が加えられた。最終的には米国政府が安全宣言を出し、ようやくオスプレイは量産体制に入ることができた。

 だが2012年に入り、モロッコ(4月)とフロリダ州(6月)で続けて墜落事故が起きた。いずれも、オスプレイの最大の特徴である翼のモード転換時に発生している。モロッコの事故では、垂直離着陸モードで離陸後、追い風を受けていた際に転換モードへと移行。突然、バランスを崩して落下した。

 フロリダの事故は、転換モードで編隊飛行中に、先行機が起こす後方乱気流に巻き込まれて墜落。モードチェンジの構造的な問題も指摘されたが、事故報告書はいずれも「マニュアル通りではない操縦が要因」とし、技術面ではなく、運用面に問題があったとしている。

 ちなみに、運用開始以降の10万飛行時間当たりの事故率はCH-46の1.14に対し、オスプレイは1.12(「MV-22の普天間飛行場配備と日本への運用に関する環境レビュー」による)。海兵隊航空機全体を見ても平均値以下で、数値上は従来機よりはリスクが低い。

 「オスプレイは従来機と比べて危険」という説には根拠がないというのが、専門家の一致した見解である。ただし、「安全な航空機」と断言できるかどうかは別問題だ。軍用という特殊な任務を負っていることが、最大のリスク要因。さらに、オスプレイは飛行機でもヘリコプターでもない「新たな航空機の領域」を作り出した。運用経験の浅さゆえ、今後、様々な課題が出てくる可能性は否めない。

 いかにリスクをゼロに近づけるか。それは、パイロットへの教育の徹底に加え、住民不安を取り除くための情報開示や説明責任にかかっている。

(鵜飼 秀徳)

日経ビジネス2012年11月5日号 78~80ページより目次