Photo by AP/アフロ

「宇宙の上」の存在
内村 航平
体操選手

text by 森末慎二=元体操選手、ロサンゼルス五輪男子鉄棒金メダリスト

 「五輪金メダル」という果実は、4年に1度しか訪れない大会が、アスリートとしてのピークのタイミングとぴったり重なり合わなければ手中にできないものだと思う。

 僕は、内村航平が北京五輪で銀メダルを取り、翌2009年の世界選手権で金メダルに輝いた時が、まさに彼の絶頂期だと感じていた。そこからロンドン五輪までの3年間はあまりに長く、さすがにピークを維持できないだろうと見ていた。

 しかしその後も、彼は3回の世界選手権をことごとく制して、しかも大会ごとに進化していった。ほかの選手からすれば、彼の存在は「雲の上」どころではないだろう。「宇宙に飛んでいった人」くらいのレベル差を感じているはずだ。

 本人は「どんな大会だろうと、一切、緊張しない」とコメントしているが、それは自他共に「ライバル不在」ということを確信しているから出てくる言葉だ。

 そんな内村も、ロンドン五輪の団体では危うく「雲の下」まで落ちそうになった。がしかし、個人種目では相変わらずで、星の彼方まで飛び出すような「宇宙人」ぶりを見せつけた。

 では、彼はどこまで飛躍するのか。今度こそ、ピークは「今」だと思う。さすがにもう、伸びしろがないはずだ。とはいえ、ケガさえなければ、次のリオデジャネイロ五輪でも金メダルは十分ありうるが…。

 同時に期待したいのは、新技「ウチムラ」の誕生。床での「後方抱え込み2回宙返り・4回ひねり」など、国際舞台で初成功させると命名される。「ウチムラ」は、地上で「内村」と呼ばれる宇宙人にしか実現できない神業なのだ。

芸術は垣根を越えて
庄司 紗矢香
バイオリニスト

text by 江川紹子=ジャーナリスト

Photo by 読売新聞/アフロ

 太くて密度の高い音色とスケールの大きい闊達な音楽作りが魅力。その演奏には、すでに堂々たる風格さえ感じさせる。メータ、テミルカーノフ、チョンなどの巨匠たちにも愛され、世界各地で共演を重ねてきた。

 とにかく勉強熱心だ。1999年に16歳でパガニーニ・コンクールで優勝した時には、史上最年少、日本人初の快挙と騒がれたが、そうした声はさらりと聞き流し、ドイツやフランスでの勉強を優先。共演者や曲目を慎重に選びながら、演奏活動の幅を広げていった。

 古楽奏法の指揮者との共演など、新たな試みには積極的にチャレンジし、現代音楽にも熱心に取り組む。とかく音楽会の主催者は、チケットの売れやすいポピュラーな曲目ばかりを期待しがちだが、商業主義には安易に妥協しない頑固さも秘めている。

 画家である母の影響か、絵画や映像などのヴィジュアル・アートにも造形が深い。自ら絵を描き個展も開いた。読書家でもある。愛読書は、ドストエフスキー、カミユ、カフカなど「精神性の高いもの」。本から音楽のイメージを膨らませることも。そうした様々な芸術のエッセンスを注ぎ込み、彼女の音楽の世界は、ますます広がり、深化している。

“軽量”大横綱の予感
日馬富士
第70代横綱

text by 小林照幸=ノンフィクション作家

Photo by 日刊スポーツ/アフロ

 大関在位22場所で2桁勝利は11場所ながら、秋場所では双葉山と貴乃花に次ぐ大関での2場所連続全勝優勝を果たし、場所後、第70代横綱に昇進した。

 まさに「覚醒」。相撲界で言う「化けた」わけだ。「全身全霊」。優勝インタビューや横綱伝達式では、迷いのない口調で述べた。

 土俵入りは、師匠の伊勢ケ浜親方(第63代横綱・旭富士)から継承した不知火型。横綱昇進の内規は大関で2場所連続優勝か、それに準じる成績。2場所連続優勝まで横綱昇進を見送られた師匠の忍の経験が、部屋創設後、モンゴルの16歳の少年に巡り合い、12年後に土俵入りを伝授する天の配剤をもたらしたのはドラマと言う他ない。

 133kgの体重は、来る九州場所で幕内最軽量。全身全霊の横綱の土俵が、大横綱への道を切り拓く可能性は十分にある。

ロマンと功利主義
ハワード・シュルツ
米スターバックスコーヒーカンパニーCEO

text by 角田雄二=サザビーリーグ顧問

Photo by AP/アフロ

 「天才」。シュルツ氏を一言で表すと月並みだがこの言葉になる。直観が鋭く、世の中の先を見通す洞察に長け、直ちに要領をつかんでしまう理解力…。まさに天才だ。

 そしてスターバックスの経営には、「ロマンス」と「効率」という二律背反的な要素が共生している。直情的で心意気を尊び、類まれな実行力で挑戦を続ける「夢追う青年」としての側面。一方で、功利主義で厳しい決断も辞さない優れた経営者――。両面を併せ持つシュルツ氏そのものとも重なる。その原点は、父親の不遇の仕事人生にある。非正規雇用者として苦労を重ね、生活保護を受けていた。幼少期のこの生活環境が強く影響し、スタバではアルバイト社員まで「パートナー」と呼ぶことにつながる。

 危機に瀕するたびに原点に戻る強さとグローバルな視座、豪快なビジネス手腕を目の当たりにするにつれ、「日本人にはなかなか手ごわいぞ」と気が引き締まる。

ゴールでビッグクラブに
清武 弘嗣
FCニュルンベルク

text by 森島寛晃=元サッカー日本代表、「ミスターセレッソ」

Photo by アフロ

 独特のリズムのボールタッチ、ボディーバランスの素晴らしさ、そして試合の流れを変える広い視野。キヨは、リズムよくプレーする。過去の日本代表選手にもいなかったタイプだ。

 私の引退後の2010年、セレッソ大阪に移籍してきた。香川が同じポジションだったため、すぐにはレギュラーになれなかった。ところが、紅白戦では控え組ながら、「あいつ、マジうまい」と高く評価された。香川が海外に移籍すると、期待を裏切らずに活躍、存在感を示した。

 香川の世界的な活躍が、キヨに「負けない」という刺激を生み、成長を促した。今夏移籍したドイツでも身体能力の高さを見せ、チームの中心選手になった。ただ、今足りないのは、香川のような自らのゴール。勝利をもたらす決定的な選手になれば、世界でもっと注目される。

 独フランクフルトで活躍する乾もセレッソから羽ばたいた。香川、キヨ、乾。3人が世界の同じビッグクラブで活躍する姿を見てみたい。

人気先行も謙虚に!
小泉 進次郎
自民党衆院議員

text by 浅川博忠=政治評論家

Photo by ロイター/アフロ

 1999年夏、関東学院六浦高校野球部の進次郎は、神奈川県大会ベスト16を決める試合で、同点打と勝ち越し2塁打を放ち、勝利に大きく貢献。スタンドで父・純一郎は狂喜した。当時から進次郎は勝負勘に優れ、瞬発力と勝負度胸に勝っていた。

 28歳で政界入りしてからも、短くメリハリのきいた発言で超人気者として存在感を高めている。この面では純一郎に酷似しているが、若い頃の父は決してそうではなかった。それだけに父は狂喜する半面、人気先行を心配しているはずだ。

 だが心配無用。彼は謙虚一辺倒である。とはいえ、今秋の自民党総裁選で「事前に投票者公表」と述べたのは感心しない。落選候補の陣営を敵に回す危惧があるからだ。ここは猛省を。

 卓越した記憶力、周辺への配慮も加わる。いずれ日本の顔に駆け上がって行くことだろう。党青年局ポストで精一杯活動し、政権奪還の要となるのが当面の責務である。

21世紀型コンビニの立役者
新浪 剛史
ローソン社長CEO

text by 高岡浩三=ネスレ日本社長兼CEO

Photo by 佐藤博信

 新浪氏とは20年以上のつき合いになる。若い頃から何事にも積極的で統率力があり、真の意味で世界に通用する経営手法を身につけてきた。視野を広く持ち、常に自社の業界のみならず経済界全体を見渡している。いわば同世代のアイコン的存在だ。

 高度経済成長期の日本は、勝っている人の真似をすれば必ず「おこぼれ」を得られた。だが今は違う。人と違うことをしなくては勝てない。20世紀型ビジネスモデルからの変革が急務と誰もが気づきながらも、実行に移している経営者はほとんどいない。そんな中、新浪氏はローソンの経営者として、業界首位のセブン-イレブンが生み出したコンビニの常識を覆す新たなビジネスモデルを模索し続けている。均一化を廃し、店舗によって生鮮を充実させたり、100円ショップの要素を取り入れたりしている。従来型とは異なる土俵で勝負すると決意し、実行に移してきた。今のローソンの躍進は、彼の戦略性やリーダーシップの賜物である。

 新浪氏の挑戦によって、日本のコンビニは世界に輸出できる数少ない産業として進化を続けている。アジアに積極進出するという彼の野心は当然の帰結だ。彼ならアジアでも必ず成功すると信じているし、他社やほかの経営者の牽引役となることを願っている。

大リーグ伝説投手の条件
ダルビッシュ 有
テキサス・レンジャーズ投手

text by 長谷川滋利=元シアトル・マリナーズ投手

Photo by MCT via Getty Images

 16勝9敗、防御率3.90。この成績は日本のファンの目にどう映ったか。日本では5年連続で防御率1点台を誇った。そう思えば満足いかない数字かもしれない。だが、メジャーでは日本であまり知られていない基準で先発投手を評価する。

 1シーズンの投球回数と何試合ゲームを作ったかという「クオリティースタート」だ。 162試合もある長丁場で、10連戦は当たり前。選手登録数も日本の28人に比べ25人と少ないため、先発投手がどれだけイニングを投げたかを高く評価する。ダルビッシュの191イニングは、メジャーで38位(10月上旬)という立派な数字だ。

 シーズン中盤は少し不調だったが、それを除けば7回、8回まで投げる試合が多かった。米国では「クオリティースタートが非常に多い投手」として評価されている。特に驚いたのは、あっと言う間にメジャーに適応したことだ。ボール、マウンド、ストライクゾーンの違い…。これらにシーズン序盤の5月には完全にアジャストしていた。

 だが、16勝を挙げたものの、新人賞は残念ながら取れそうにない。もっとすごい勢いで活躍している選手がいるからだ。そんな世界で対戦を重ねて磨きをかけていけば、ダルビッシュは伝説の投手としてメジャーの歴史に名を刻むことになるのではないか。

バレエ界が彼女を求めていた
菅井 円加
バレエダンサー

text by 吉田 都=バレリーナ

Photo by ロイター/アフロ

 若手ダンサーの登竜門、ローザンヌ国際バレエコンクールで17歳の菅井円加さんが優勝した。私も審査員として参加。彼女は無名だったが、古典・現代舞踊両方のレベルが高く、堂々たる踊りに、審査員一同、「こんな子がいたんだね」と驚いた。特に、現代舞踊のソロでは高い表現力を見せた。未来のバレエ界が求める逸材だと感じた。9人の審査員の満場一致で1位が決まった。

 10年前までの日本のバレエは、見るのもやるのも敷居が高かった。今では、大人が仕事帰りにバレエ教室に通う。小学生の習い事としても、定番化した。裾野が広がり、菅井さんら若手の登場に繋がっているのだろう。

 栄誉ある賞に輝いたが、そこがスタートラインだ。1年間ドイツに留学し、舞台経験を積んでゆく。日本の舞台で華麗に舞う彼女を楽しみにしている。

孤独死と向き合う
武藤 真祐
祐ホームクリニック理事長、医師

text by 長谷川閑史=武田薬品工業社長、経済同友会代表幹事

Photos by 千倉志野

 開成中学、高校から東大医学部、宮内庁侍従職侍医という絵に描いたようなエリートコースを歩んできた。その先生がキャリアを投げ打ち、日本が直面する高齢者の孤立や孤独死に向き合い、訪問診療クリニックを開設・経営することを決めた。しかしながら、闇雲に目的に突進するのではなく、マッキンゼーで3年間、ビジネス感覚を磨いたうえで、満を持して一昨年、念願のクリニックを都内に開設した。

 高齢者医療の充実と国民が安心して暮らせる社会の実現に邁進する。強い信念と謙虚さ、誰にでも真摯に向き合う姿勢が磁力のように他分野の優秀な人材をひきつける。東日本大震災では被災地において医療活動に従事し、石巻市に分院を開設した。ビジネスリーダーとしても高い資質を持ち、地域社会をつないでいる。

 患者が主役と言い切る「希望ある社会の創造」に向けて共感の輪が広がり続けるのは、先生の人間力の確かさにほかならない。医療界の救世主となる逸材だ。

連打で魅せるボクシングへ
井岡 一翔
元WBA・WBC世界ミニマム級統一王者

text by 具志堅用高=元WBA世界ジュニアフライ級王者

Photos by 菅野勝男

 6月のWBAとWBCのミニマム級統一戦はお疲れ様でした。最後は判定になったけど、ポイントで負けていた八重樫東選手が前に出たこともあって、後半はとても面白い試合だった。井岡君は4階級制覇を目指しているでしょ。井岡君のベストは1階級上のライトフライ級。上の階級ほど正味のパンチ力がものをいうから、次のリングは楽しみなんじゃないかな。ボクシング界の発展のために、偉業を成し遂げてほしい。

 あえて言えば、ボクシングを盛り上げるために、今後はもっと派手な試合を期待したい。そのためには連打だよ、連打。コンビネーションを入れて、懐に入る。もちろん、相手に打たせないアウトボクシングが井岡君のスタイルだけど、観客が盛り上がるのはある程度リスクを取った戦い方じゃないかな。井岡君はアマ出身だけにテクニックがあるし、試合の組み立て方もうまい。スター性も十分。階級を上げながら、さらに「魅せるボクサー」になってほしい。ちょっちゅね~♪

メジャーの表彰台が見えた
松山 英樹
アマチュアゴルファー、東北福祉大学

text by 小山武明/ゴルフ解説者、プロゴルファー

Photos by ZUMA Press/アフロ

 日本を代表するプロゴルファーとして世界中の試合を駆け巡った先達は多いが、未だ世界4大メジャー(マスターズ、全米・全英オープン、全米プロ)でタイトルを手にした者はいない。しかし、アマチュアでは2011年4月に行われたマスターズのローアマに輝き、メジャーの頂点に駆け上がった松山英樹がいる。現役大学生で、同年11月には日本ツアーでも歴史のあるVISA太平洋マスターズでプロを蹴散らして優勝。アマチュアのプロツアー優勝は2007年の石川遼の15歳には及ばないものの、メジャー・ローアマを加えれば、プロへの手土産としては最高の実績だ。

 現在、アジア・アマチュア選手権2連覇。2年連続でアジアの代表アマチュアとしてマスターズへ招待されている。プロ転向が待ち遠しい。日本人がメジャーの表彰台へ上がる日が近いかもしれない。

 
日経ビジネス2012年10月29日号 48~56ページより

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