「必要なのは、知識より空想力だ」

 かつてアインシュタインは、このように述べたことがある。今後の世界を考えるうえでも重要な点を示唆している。いったい40年後に世界の経済や社会はどうなっているのだろうか。

 こうした問いに対し、客観的データと検証に加え、空想力も駆使しながら、大胆に未来を予測した書物が注目を集めている。英エコノミスト誌による『2050年の世界』(文芸春秋)だ。原題の『メガチェンジ』が示すように、世界の大きな流れを考えるヒントが読み取れる。

 かつてエコノミスト誌は1962年時点の予測で、日本が世界の経済大国になると言い当てている。それだけに日本に対する記述が気になるところだが、その内容は極めて厳しいものだ。

 高齢化はますます進み、1人当たりGDP(国内総生産)は韓国の半分近くまで低下しているという。ちなみにその時点で、韓国の1人当たり所得は米国を凌駕している。他方、中国についても、人口要因などから成長力が鈍化するという見方が示されている。

 当然ながらこのような長期予測には留意すべき点がある。今後の成長率の想定が1%違えば、40年後の結果は天と地ほど違ってくる。GDP成長で言うなら、現状を前提に統計分析すれば日本の将来は間違いなく暗くなる。

 しかし、大いなる空想力に基づく抜本改革が行われるとすれば技術・資本・人材を有する日本の将来は決して暗くはない。空想力豊かな政治リーダーが輩出するかどうかが問われているのだ。

日本経済の先行きを不安視する予測が多いが…(写真はイメージ・PANA通信社)

カギ握るイノベーションと英語力

 だが、エコノミスト誌の予測には現状をベースにしながら、説得力のある見通しも少なくない。とりわけ日本にとって、次の2点が重要だ。

 第1は、今後世界はイノベーション(技術革新)を競う「ヨーゼフ・シュンペーター的競争」の時代に入る、という指摘。第2は、グローバリゼーションは決して停止することなく、またその中心に国際語として英語が君臨し続けるという点だ。日本には、イノベーションと英語の力をどう高めるか、大胆な戦略が求められる。

 革新の重要性を唱えたシュンペーターの著作は、日本ではよく読まれ、なじみ深い。しかし、今や日本社会には大胆なイノベーションを抑え込むような流れが見える。政府は競争政策を弱め、中小企業金融円滑化法のような救済政策に走っている。

 企業は法令順守の名の下にリスク回避に精を出す。個人、特に若年世代は夢を追うより堅実な生活を求める。シュンペーターは「資本主義はイノベーションを呼び起こし成功するが、その成功の故に失敗する」と述べた。日本で起こりつつあることはシュンペーターの予言そのものである。

 英語についても、韓国は小学校から英語教育を取り入れ、義務教育の段階で日本の約1.5倍の語彙をマスターさせるなど、厳しい改革を重ねてきた。だが、日本ではいまだに、「日本人としてまず国語を優先させよ」といった議論が幅を利かせている。

 オーストリア生まれのシュンペーターは、40代半ばで米国に移住し、英語で苦労したと言われる。英語で大いに苦労するという点でも、日本人はシュンペーターに学ぶべきかもしれない。

 エコノミスト誌の日本に対する予言を覆すためには、40年後の日本を建設的に“空想”しながら、それを国民に訴え、大胆に実現できる政治リーダーが必要とされている。

竹中 平蔵(たけなか・へいぞう)氏
竹中 平蔵(たけなか・へいぞう)氏 1973年日本開発銀行入行。慶応義塾大学教授を経て、経済財政・金融担当相などを歴任。2006年から現職。2009年パソナグループ会長に就任。

(写真:都築 雅人)

日経ビジネス2012年10月29日号 142ページより目次