目的や形態、規模も多種多様な組織が日本にはあった。足し算ではなく掛け算をするように、個人の能力を引き出している。最後に、ここまでで紹介しきれなかった組織を一覧表で掲載する。どれも日本を支え、日本を牽引している「すごい組織」だ。

 資生堂ビューティークリエーション研究センターに所属する40人のヘアメーキャップアーティストは、美を創造するエリート集団。「パリコレクション」や「ニューヨークコレクション」といった世界の代表的なファッションショーの舞台裏で、トップモデルのヘアメーキャップを手がけられる実力を備える。十数人のアーティストで構成する資生堂チームは、1つのファッションブランドを一手に引き受けられる。写真中央はアーティストのトップに立つ4人のうちの1人、岡元美也子氏。

 世界の化粧品メーカーで、これほどの数のアーティストを抱えるのは資生堂ぐらい。最先端ファッショントレンドを商品開発に生かしたり、美容部員など美容技術者を養成したり、資生堂のブランド向上のために活動したりしている。


 日立化成工業は今年7月から、「グローバル・コーチング・プログラム」という活動を始めた。グループや部門の壁を越えた対話の機会を増やし、新しい製品や技術の開発につなげていくことが狙いだ。10年後の日立化成を支える中核人材を国内外のグループ各社から300人選抜し、「対話する組織」という風土を築くための核となる「社内コーチ」として育成している。

 社内コーチは外部の専門家から指導を受けつつ、自身も部署や役職の上下に関係なく、各自5人の社員のコーチングに当たっている。「重要だが放置してきた業務上の課題」に5人が取り組むのを定期的な対話を通じて支援する。グループ全社員の約1割が参加するこのプロジェクトを足がかりに、新たな企業文化を築く。


 世界一高い自立式電波塔「東京スカイツリー」の施工を手がけた大林組。並み居る大手ゼネコンを破り、受注合戦を制すことができたのは、特殊工法部が蓄積していた「めったに使わないがすごい技術」があったためだ。

 スカイツリーは、タワーの上部と下部をそれぞれ地上で組み立てた後、上部を下部の上に載せることで工期を大幅に短縮する「リフトアップ工法」を採用。実は、この工法を選択できたのは、タワー内部に後から心柱を施工する「スリップフォーム工法」という技術があったから。数年に1度使うかどうかという工法のため、競合ゼネコンは捨ててしまっていた。特殊工法部は、こうした出番の少ない技術を地道に磨き続ける専門部隊。スカイツリーの施工では特殊工法部の技術がほかにも使われている。


 リクルートキャリアでは事業の急拡大に伴って低下した社内コミュニケーションを促進するため、2006年に社内有志によって【ちゑや】の活動が始まり、2008年に会社組織の1つになった。役職者らが新人時代の失敗談を語る自由参加型のイベントなどを通じて、社員同士が部署や役職の垣根を越えて交流することを目指している。

 企業経営に必要な情報を経営の中枢(心臓)から全従業員(全身の細胞)に送り届けるコミュニケーションが「動脈系」だとすれば、【ちゑや】の活動は従業員がため込んだ老廃物を浄化し、現場の情報を再び経営の中枢に循環させる「静脈系」なのだという。静脈系が機能することで組織のバランスが保たれ、免疫力が増すというわけだ。


 三菱電機の京都製作所にある薄型テレビの開発チームは、国内で初めて音声読み上げ機能のついたテレビを開発した。視覚障害者との意見交換会を通じ、情報源としているのがラジオではなくテレビだと気づいたからだ。テレビの操作に不自由を感じているとの要望が多かったため、音声で番組表を読み上げる機能を開発。操作内容も音声で知らせるため、デジタル機器の操作が苦手な年配者などからも好評だ。

 顧客が見ている方向に向けて画面を回転させる首振り機能や、リモコンのボタンの配置を工夫して操作をしやすくするなど、画質のような基本機能の向上だけでなく、利用者の視点に立った使いやすい製品の開発を進めている。


 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が開発した低価格の家庭用サーバー「ナスネ」は、平均年齢40歳という10人のチームが企画してスタートした。自分が欲しいと思う機能を自由に口に出し、部署の垣根を越えて「ワイガヤ」で話し合いながら製品の概要を固めていった。経営陣は現場発のアイデアにヒットの芽があると判断。最終的には商品企画やハード、ソフトの技術者を巻き込んだプロジェクトに発展した。

 ナスネのハードディスクに蓄積した映像コンテンツはスマートフォンやゲーム機、パソコンなどを通じて家族で共有できる。ソフトとハードを融合する製品となり、ソニーの製品開発のコンセプトとも合致。デザインも「ソニーらしさ」を追求した。

未来開拓
変速機のないプラグイン・ハイブリッド(PHV)車を開発
三菱自動車(自動車)
三菱自動車が2013年発売予定の「アウトランダーPHEV」はEV(電気自動車)ベースで変速機を持たない。エンジン車の開発部隊とEV関連の事業部が連携
熱血集団
ついにアシモが走った
ホンダのアシモ開発チーム(自動車)
世界初の本格的な2足歩行ロボット「アシモ」。2000年に発表されて以来、着実な進化を続けている。ついに両足を同時に地面から離して走るようになった
未来開拓
優れた研究提案で2年間雇用
IIJイノベーションインスティテュート(通信)
インターネットに革新をもたらす基盤技術のアイデアを社外から公募。優れた提案を行った技術者を2年間、契約社員として雇用し、事業化を後押しする
熱血集団
改善提案に20万円の報奨金
タニサケ(害虫駆除剤の製造・販売)
改善提案に対して支払った社内の報奨金が1人当たり年20万円と、10年連続で全国1位(月刊「創意とくふう」調べ)。改善提案の件数も3位
異能異才
決算を翌期の1日目に発表
アドヴァン(輸入建材商社)
決算を翌期1日目など、上場企業でも最速で発表。月次などで細かく数字を管理する組織を整備。9月末は本州を台風が襲ったが、10月1日に中間決算を発表
熱血集団
趣味で開催、休日勉強会
ぐるなび(ネットサービス)
滝久雄会長が主催し定期的に開催している休日勉強会。業務ではなく“趣味”なので、参加には家族の了承を得るのが条件。新規事業が生まれることも
熱血集団
社員同士が贈ったバッジの数で昇給額が決定
シンクスマイル(ネットベンチャー)
交流サイト「フェイスブック」上で、社員同士が感謝の気持ちなどを伝えるバッジを贈り合う。同僚から贈られたバッジの数に応じて、昇給額などが決定する
未来開拓
橋下徹氏をうならせた障害者雇用の理想型
ダイキンサンライズ摂津(機械)
ダイキン工業の特例子会社で、約110人の従業員の9割が障害者。視察に訪れた橋下徹大阪府知事(当時)に「障害者雇用の理想型」と言わしめた
熱血集団
採用倍率160倍の障害者支援ベンチャー
ウイングル(福祉サービス)
年間500人を超える障害者の就業支援を手がけるベンチャー。社会貢献に関心を持つ学生の間で就職人気が高く、来春入社組の採用倍率は160倍
熱血集団
健康経営で100億円調達
花王(日用品)
社員の健康管理に全社を挙げて取り組み、日本政策投資銀行の「DBJ健康格付」で最高ランクを取得。最優遇金利で100億円を調達した
顧客志向
量販店に打ち勝つ街の電器屋さんの雄
でんかのヤマグチ(地域家電店)
営業社員の成績を、日ごとに粗利益で管理。きめ細かなサービスで圧倒し、量販店より販売価格が10万円以上高い商品でも買ってくれる優良顧客を抱える
顧客志向
やる気引き出す10種の表彰制度でサービス向上
坂東太郎(外食チェーン)
「一所懸命No1」「笑顔がステキNo1」など、10種類の表彰を実施。従業員が互いにやる気を引き出す仕組みで、接客サービスを向上
顧客志向
顧客の利益を最大化する駐車場の開発、設計
パーク24(駐車場事業)
駐車場渋滞を起こさない設計を提案するため、駐車場の設計に特化した一級建築士事務所を擁する
異能異才
ITの「アニュアルリポート」を作成
日産自動車のグローバル情報システム本部(自動車)
2011年にIT(情報技術)部門の中期計画「VITESSE」を始動。システムの「アニュアルリポート」の作成にも取り組む、異才のシステム部門
顧客志向
市場と生産・販売状況を「見える化」し、適切な事業計画
コマツのグローバル販生オペレーションセンタ(建設機械)
コマツの大阪工場内にある組織。コックピットと呼ばれる部屋のモニターには、世界の建機の稼働状況や販売・在庫の台数、工場の生産状況が表示される
顧客志向
五輪アスリートを支援、一般向けにも商品開発
味の素(食品)
栄養補助食品「アミノバイタル」は五輪アスリートの疲労回復を早めるため産学連携で新規開発。その後、同じ成分の製品を一般向けにも発売
顧客志向
殺虫性能が長持ちする蚊帳を開発、アフリカで生産
住友化学(化学)
「オリセットネット」と呼ばれる蚊帳を合弁を通じてアフリカで生産。マラリア患者の削減に寄与すると同時に、7000人の雇用を生み出す
異能異才
市場心理、ブログから解析
プルーガ・キャピタル(金融)
人工知能を使って株式投資に関するあらゆるブログ記事を解析。そこから市場心理を読み解き、相場の変化を先回りして収益を上げるファンドを運用する
異能異才
1000人のCFO人材を派遣
デルタウィンCFOパートナーズ(人材サービス)
企業のCFO(最高財務責任者)人材に特化した派遣サービスを展開。中小企業から、経営再建や事業承継に関わる依頼が相次ぐ
熱血集団
被災地のニーズから商品化
ホンダと矢崎総業(自動車・部品)
LPガスのタンクをつないで使う発電機を共同開発。「津波を免れたタンクで発電したい」という被災地からの声に応え、通常の半分の開発期間で商品化を実現
異能異才
多国籍の人材管理
日揮(プラント建設)
海外の大規模プラント建設は数万人単位の人が関わる。時には20カ国以上にもなる多国籍の人材を効率的に管理し、工程を守りながらプラントを建設する
未来開拓
太陽電池の激安販売を実現
楽天(ネットサービス)
常識を覆す激安価格で住宅向け太陽電池の販売を実現。震災後に三木谷浩史社長のトップダウンで動き出した。ネット申し込みなどで間接コストを切り下げた
起死回生
現職市長は元東京都職員
東京都の夕張支援(自治体)
東京都は北海道夕張市に職員を派遣するなど再建を支援。現職の鈴木直道・夕張市長は、夕張市へ派遣されていた元東京都職員で国内最年少で当選した
起死回生
閉園から復活した動物園
致津の森公園(動物園)
かつて西日本鉄道が運営していたが経営が行き詰まり閉園。その後、北九州市民26万人の署名が集まり、北九州市が運営を引き受けることで復活を遂げた



日経ビジネス2012年10月22日号 86~87ページより

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