ルネサスエレクトロニクスに官民の救済案が浮上した。産業革新機構に加え自動車なども支援に加わる見通しだ。顧客=株主という支援の枠組みに、先行きを疑問視する声もある。

 「相手がどこでも事業を立て直してくれるのなら歓迎する」

 こう話すのは、ルネサスエレクトロニクスの、ある大株主の首脳だ。

 NEC、日立製作所、三菱電機の半導体事業を母体とするルネサスは、2010年4月の発足以来、最終赤字が続く。寄り合い所帯ゆえに設備や人員が過剰で、意思決定が遅く合理化も不十分。マイコンという半導体で、3割近い世界シェアを握りながら低収益に甘んじていた。

 今年2月にDRAM大手のエルピーダメモリが会社更生法の適用を申請すると、金融機関など周囲から同じ半導体大手であるルネサスへの風当たりが強まった。収益回復の道筋をきちんと描くよう要求され、人員削減や生産拠点の統廃合などの対策を講じるが、合理化には資金が必要になる。財務基盤を強化するために、ルネサスは資本増強へ向けた提携先を模索し始める。

 米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が1000億円程度を出資する方向で調整が進んでいたが、これを警戒したのがトヨタ自動車など、ルネサスからマイコンを購入している顧客企業だ。投資資金の確実な回収を目的にする投資ファンドは通常、不採算部門を切り離して競争力の高い部門に経営資源を集中することで利益を確保する。

ルネサスエレクトロニクスの赤尾泰社長は合理化策を講じるが業績低迷から抜け出せない

 ルネサスの場合は、赤字続きのシステムLSI(大規模集積回路)事業を切り離して、マイコンに集中することになる。そして、利益を拡大するために、主力製品であるマイコンも値上げに動く可能性が高い。

 ある機械メーカーのトップは、ルネサスを指して「あれほど高いシェアを持ちながら赤字なのは考えられない」と話す。昨年の東日本大震災でルネサスの工場が被災して生産がストップした際は、自動車各社も生産停止を余儀なくされた。それほどの重要な部品を1社で供給しているという立場を再認識すれば、値上げは当然の策になる。

マイコン安定確保へ支援

 ファンドに経営権が移れば、顧客企業にとって自社製品のコスト上昇につながりかねない。自動車各社は震災の経験を踏まえ複数購買など部品調達の多様化を進めているが、製品の安全性を考慮すれば、重要部品の供給元はむやみに代えたくないのが本音。当初は支援に後ろ向きだったとされる自動車業界も、マイコンの安定確保を目指しルネサス支援へと舵を切った。産業革新機構が1500億円程度を出資し自動車や電機、部品など10社程度に500億円程度の出資を要請している模様だ。

 「官民で2000億円出資」との報道を受け、10月15日の株式市場でルネサス株は急騰した。一時は前週末比で18.6%高まで上昇したが、上値では利益確定の売りに押されている。いちよしアセットマネジメントの秋野充成・執行役員は「将来的な業績動向を考えると適正な株価水準を判断しにくい」と話す。

 「自動車メーカーの値下げ要求は非常に厳しい」と親会社の1社は説明する。顧客=株主になることで、製品の値上げ要求は今まで以上に困難になる可能性がある。大株主が3社いたことがルネサスの意思決定の遅れにつながっていたが、さらに大株主が増えれば、経営判断が今以上に遅くなるかもしれない。

 救済案が実現すれば経営陣を外部から招く可能性がある。「誰かカリスマ経営者が来てくれないと業績回復はおぼつかない」(国内証券)との見方が早くも出ている。

(阿部 貴浩、吉野 次郎)

日経ビジネス2012年10月22日号 18ページより目次

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