大学1年で求人サイトを立ち上げ、10月1日に25歳という史上最年少で1部上場を果たす。「世の中に必要とされるものを創り出す」ことが自分の幸せだと、てらいもなく語る。東証1部最年少社長の視線の先には今、何が映っているのか。 (聞き手は 本誌編集長 山川 龍雄)

写真:菅野 勝男
村上 太一(むらかみ・たいち)氏
1986年、東京都生まれ。2002年4月早稲田大学高等学院に入学、起業に備えて簿記の資格を取得。2005年4月早稲田大学政治経済学部経済学科に入学直後、同大学のベンチャー起業家養成基礎講座を受講し、同講座が主催するビジネスプランコンテストで優勝。翌年2月リブセンスを設立、社長に就任。2009年3月同大学卒業。2011年12月、史上最年少(25歳1カ月)で東京証券取引所マザーズ市場に上場、2012年10月1日に東証1部上場を果たす。

ベンチャー企業の戦い方は 大企業の資産を負債に変える 事業モデルで挑むのが王道だ

 問 昨年12月に史上最年少で東京証券取引所マザース上場を果たし、この10月1日に東証1部上場も25歳という最年少記録で達成しました。昨年上場した時は「通過点にすぎない」と話していましたが、今回はどんな感想でしょう。

 答 正直、あまり満足感がありません。問われるのはこれからだと思います。何か大きな価値を提供できているのかと言えば、当社のサービスの利用者数、お客様の数という点でもまだまだです。

 1部上場はハードルが高いとされていますが、基準は前より緩和されています。だからその自覚を持って今後も満足することなく、事業を進めたいと考えています。

 これまでVC(ベンチャーキャピタル)を受け入れてこなかったため、昨年まで外部からのプレッシャーはなかった。しかし、上場によって外からのプレッシャーを受けることになり、これは自分の経営者としてのレベルが上がる貴重な要素となっていて、よかったと感じています。

 問 そもそもアルバイトの仲介事業で成功報酬型のビジネスモデルを思い立ったきっかけは何だったのでしょう。

 答 高校時代にアルバイトをしようと思い、飲食店の前などに貼ってある募集の張り紙をたくさん見てバイト先を探しました。インターネット上でも探しましたが、ウェブには当時、全然情報がなかった。なぜか。求人情報を掲載するのに費用が発生したからです。ですから僕は隣町まで張り紙を探しに行きました。

 この時、感じた不便が始まりで、求人サイトへの掲載費用を無料にすれば求人情報を常に載せられるし、そうすればアルバイトを探す側も自分の希望に沿った働き先を見つけやすくなる、と考えたわけです。

 成功報酬というモデルは当時、ありませんでした。というより大手ほど大量の営業担当者を抱え、その強力な営業力によって自社媒体に載せる求人情報を集め、その地位を築いていました。

 それに対し私たちは、営業担当は最小限に抑え、営業にかかるコストを圧縮することで、お客さんに低価格でサービスを提供。これを武器にお客さんの方から集まってくる仕組みを作ったのです。

 大手は数多くの営業担当者を抱えているがゆえに、成功報酬型モデルを展開することはできませんでした。

営業利益率45.6%という高さ

 問 「目から鱗」というか、「灯台下暗し」的発想ですね。

 答 あらゆるビジネスがそうだと思いますが、企業が大手になる過程で蓄積してきた資産は負債にもなり得ます。ベンチャー企業の戦い方というのは、そうした資産を負債に変えてしまう、つまり逆を突くようなビジネスモデルを引っ提げて大手に挑むというのが王道だと考えています。

 どんなビジネスモデルも、最初は確固たるものでも成長していく過程で、どこかしら脇が甘くなっていく。そこに新興企業が挑む。その意味で歴史は繰り返されるのだと思います。

 問 昨年12月期の業績は売上高11億3400万円に対して、営業利益が5億1800万円を記録。営業利益率は45.6%というすさまじい高さです。

 答 はい、ようやくここまで来ましたが、創業当初の半年間は地獄のような日々でした。

 実は創業する前、万が一のために失敗するパターンも考えておけというアドバイスをよくもらっていました。しかし、「この事業モデルなら絶対にいける」という自信があったので、そんなものは必要ないと思い、全く考えていませんでした。

 ところが実際に始めてみたら思いのほか苦しかった。今は健康ですが、白髪だらけになりました。「学生でヒト、モノ、カネ、どれもないじゃないか」とか「誰も成功報酬型モデルをやらなかったのは、やっぱり理由があるんだよ」とか批判されると、最初は全然、気にしていなかったのにそれが原因なのかと考え込んだりしました。

 問 何かターニングポイントがあったのでしょうか。

 答 実は初めの事業モデルは、掲載料無料で、採用が決まった時ではなく、ウェブに誰か応募してきたら課金するというものでした。これを採用が決まった時に課金する形に変えると同時に、採用が決まったユーザーにも「お祝い金」を出す方式に変えたのです。これで徐々に動き始めた。

 採用が決まった段階で課金するという案は、お客さんからの要望でした。ただ、採用の確認をどうするのかも分からなかったので、最初は難しいと思った。しかし、3カ月ほど考え抜いた末、思いついたのが採用の報告をしてもらうためのインセンティブとして祝い金を出すという方法でした。

 これによって、採用されたいユーザー、採用したい企業、採用が決まればビジネスになる当社という関係者全員の間にウイン・ウインの関係を構築でき、これが強みとなって、以来、急成長できました。

 今思うのは、ビジネスモデルを考える時に、最初の発想はよくても、それを事業モデルとして「完成」させるのは実は結構、難しいということです。

 問 何が一番つらかったですか。

 答 先が全く見えなかったことです。この先走り続けて答えは見えるのか、と。それでも会社が厳しい状況に追い込まれ、切羽詰まって考え抜くと、何かしら知恵が出てくる。切羽詰まった環境は進化を生む、というのが実感です。

 なので今も背伸びをしてストレッチした目標を掲げるようにしています。

 問 これだけ利益率が高いと通常、儲かっていることを隠したがるものですが、成果に対する報酬を得ているから堂々としていられる。

 答 利益率が高いのは、仕組み作りにエネルギーを注いだことも大きいと思います。営業担当者の人件費を少なくする仕組みだけでなく、創業時はお金がないので低コストでいかに集客するかを随分考えました。

 検索をかけた時に当社が常にトップに表示されるよう私自身がかなり研究しました。このノウハウは今も生きています。

 おかげで、今期は売上高約23億円、営業利益約11億円強を見込んでいます。

 当社の事業が景気トレンドにどれだけ影響されるのか、今のところサンプル数が少なすぎてまだ分からない状況です。

成功報酬型にこだわりはない

 問 アルバイトの求人情報だけでなく、同じ成功報酬型モデルで既に正社員の仲介や、賃貸住宅、中古車の仲介事業も展開しています。5~10年後、リブセンスはどんな方向に向かうのでしょうか。

 答 求人市場は大きいのでまだまだ突き詰める必要があります。10年という単位で言うと、「あの会社は求人からスタートしたんだ」と言われるような企業になりたい。

 私が起業したのは、人が不便に感じているものを便利にするとか、人の生活を変えられるようなサービスを提供したいからです。世の中に必要とされるものをいかに作れるか。それが自分が幸せだと感じる瞬間なわけで、求人はスタートにすぎません。

 ですから成功報酬型モデルにとらわれているわけではありません。市場で最適な仕組みは何かと考えた結果、今は成功報酬というのが最適であるケースが多いというだけです。

 問 社員は今何人ですか。成長するに従い、同じ創業の精神を共有していくのは難しくないですか。

 答 アルバイトを含め現在100人います。創業の精神という点ではプロジェクトをこの夏から1つ走らせているのに加えて、「月」と「月面着陸」といったカギとなる社内独自のキーワードを意図的に作って当社の文化や目標の共有に生かすようにしています。

 「月」とは何年以内に業界で1位になるかという目標です。採用人数の規模や、紙とウェブの比率などを踏まえて目指すべき「月」の定義を設定します。その目標を達成することが「月面着陸」です。そのために必要なこと、足りないものは何かを弾き出して、これを社員で共有する。

 「月」という少しストレッチした目標をあえて設けて、みんなも組織も成長しながら頑張ろうということです。

 長期的にはニッチでなく、やるからには世の中にしっかりと影響を与え、存在価値が提供できるような領域でもっと事業を拡大していきたい。

 問 高校生の時から起業の準備をしていたそうですが、いつから会社を経営したいと考えていたのでしょうか。

 答 小学生の時からです。両親双方の祖父が経営者で、人が喜ぶ仕事をする姿を間近で見る機会があったことから自分も会社を経営したいと考えていました。

 転機の1つは小学生か中学生の時はまったゲーム「ドラクエ5」でした。ひたすら努力して、時間を投じて主要なキャラクターをレベル99まで上げたんです。これはある意味すごいことなんですが、ふと自分は何ができたのかと思ったら、何も生み出していない。消費から生まれるむなしさというか、消費から生まれる満足感の限界というのを感じたわけです。

 もちろん、人は何か衝撃的な出来事1つで変わるものではありません。高校時代に文化祭の委員長をやって何かを創り出すなど、多くの人に来てもらい、喜んでもらう経験を積み重ねていく中で、自分は「何かを創り出す」立場でいたいという思考が深まっていった気がします。

 問 起業した背景には、お母さんの存在も大きかったようですね。

 答 そう、高校生の頃から私が関心を持ちそうな経済番組をよく録画してくれました。大塚製薬の「ポカリスエット」をいかに苦労してヒット商品に育て上げたかといった、何かを創り出すストーリーには感化されました。

 今も母は毎週、録画・編集した経済番組をDVDに焼いて送ってくれます。そんなアンテナの張り方は母から影響を受けたかもしれません。

 最近、学生によく言うのは、インターンでも何でもいいから社長さんに会ったり、いろんな人に出会うことが大切だということです。子供の頃考えられる職業ってやはり、見たことがある人しかないと思う。

写真:菅野 勝男

 いろんな人に会わないと、将来やりたいことなんて分からないし、実際今の学生は選択肢が全然ない人が多い。

 私の場合、祖父たちの存在があったし、せっかちなので高校の頃からもう会社をやりたくて仕方がなかった。それでも高校時代に、経営者の方にもっと会っていたら、もっとレベルアップできただろうなと今、感じます。

 その意味では経営者の方の話が高校で聞けるとか、ビジネスに生かせそうな思想や考え方を学べる授業を増やすなど、教育のあり方には改善の余地が大きいと感じます。

日本は最も起業チャンスのある国

 問 日本ではベンチャーがなかなか育たないと言われますが、この点についてどうご覧になっていますか。

 答 起業のチャンスは、日本はどの国よりもある気がします。大学生でも会社を興せるし、投資家から言わせると投資したい人がいないというくらいだから資金はあると思います。

 実際、私の知人でいいと思った人で資金が調達できなかった人はいないし、本当にいい技術を持っている人が調達できない例もほぼない。VCの方の目利きはやはりさすがと感じるので、光が当たらないケースはその技術がそんなにいいものではないことが多い気がします。

 最近はディー・エヌ・エーの取締役だった川田尚吾さんや、クックパッド社長に就かれた穐田誉輝さんといったベンチャー出身の方がエンジェルとしても活動を始めていらっしゃるので、日本もシリコンバレーの周回遅れで変わってきたのではないでしょうか。

 むしろインフラの面で国への要望はあります。経済産業省は倒産した企業がどんな理由で破綻に至ったかを「83社に学ぶつまずきの教訓」と題して、経産省のホームページで公開しています。国が持っているこうした資産は貴重でありがたいですが、雇用などのデータを集めるのに、まだ非常に手間がかかります。

 もっときれいに情報やデータをまとめて公開してもらえれば、市場分析をはじめいろいろ活用できる。スタートアップコミュニティーの整備という点では日本は、まだ道半ばなのでしょう。

切羽詰まって考え抜くと 何かしら知恵が出てくるもの 背伸びした目標を掲げていく

 問 今は若い人が就職できないなど、チャンスに恵まれません。この点はどう見ていますか。

 答 私たちの世代は、世の中のしわ寄せが全部来ているので、ハンディを負った戦いを強いられていると思います。国の制度としても、人口構造上、選挙の関係上、年配の方が優先されています。どうしたら、せめて均等にできるのかというのはずっとテーマとして私も意識しています。

 私たちは満たされた時代に生まれ、成長したことが影響しているのか私を含め、「お金」という価値観より「精神的満足度」を重視する傾向があります。これをもって今の若者は「勝負をしない」「勝負から下りている」と見えるのかもしれません。

 私は国がお金の部分で若者に満足を与えられないから、教育を通じてそういう価値観を擦り込もうとしているのではないかと、陰謀説的な深読みというか分析もしています(笑)。

 問 政治家になろうと考えたことはありませんか。

 答 ないですね。今、主張しても敵を作るだけで、何も変えられない気がするからです。変えられるような存在になって、「不合理だ」「これはこうあるべきではないか」と感じることがあれば、主張していくと思います。

 しかし、あくまでもビジネスサイドからものを言うということで、政治家になりたいとは思いません。だって、今やっていることがすごく楽しいですから。

傍白
 若手起業家にありがちなアクの強さや気負ったところはどこにもありません。終始、笑顔を絶やさず、自然体。それがかえってスケールの大きさを感じさせます。ただ、表情は穏やかでも、話している内容は時に苛烈です。とりわけ「ベンチャー企業の戦い方は、大企業が持つ資産を負債に変えること」と、さらりと言ってのけた一言が心に残りました。かつて、学生ベンチャーから大企業に駆け上がった代表格と言えば、リクルート。そのリクルートが開拓した転職支援、賃貸住宅、中古車情報といった市場に、「成功報酬型」モデルを引っ提げて挑もうとしているのが、やはり学生ベンチャーのリブセンスです。どんな企業もいつかは守りに入るのか。歴史の巡り合わせを感じます。
日経ビジネス2012年10月15日号 106~109ページより目次